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トランスレーター

ローカライズ部
シニアトランスレーター
John Townsend

トランスレーターの仕事は、ただの「言語変換」ではない。

日本のゲームを海外に展開する際に、そこに関わる言葉のすべてを引き受けるのがトランスレーターです。開発チームが提供したいゲーム体験と、海外のユーザーが求めているゲーム体験──双方をきちんと理解し、その「橋渡し役」になるのです。

日本語と英語とでは、文法や語順、言い回し等がまるで違うため、そもそも「直訳」することは不可能に近く、それがゲームの台詞といったクリエイティブな文章になるとなおさらです。日本語原文の意味と作品の世界観を理解した上で、日本のユーザーがこのゲームを遊んだ際にどこで感動し、どこで爆笑するのか、言葉や場面の細かいニュアンスを理解し、海外のユーザーが同様の感情を覚える言葉に翻訳する──簡単にいうと、これがトランスレーターの仕事です。そのためには、多くの場合、「一工夫」を加える必要があります。例えば、日本語の表現には「…」や、相手の名前を呼ぶだけの台詞をよく見かけます。キャラクターの想いをあえて表に出さず、ユーザーにその想いを察してもらうという、婉曲的な表現です。ただし(一概には言えませんが)このような台詞をそのまま訳すと、海外のユーザーにはそのキャラクターの想いが伝わらないケースが多いです。ある種の文化の違いですが、欧米の脚本では、意図をしっかり言葉で表現する習慣があります。キャラクターボイスにおいても、「…」で終わるセリフは演技のインパクトが薄くなってしまうので、文章はなるべくピリオドで締めるようにします。そういった言語や文化の違いを考慮しながら翻訳をしないと、「忠実に翻訳した」つもりが、逆に日本語にあった魅力を薄めてしまうことになりかねません。

テキストの翻訳だけではなく、ゲーム内の背景グラフィックに不自然な言葉が使われているときや、キャラクターの仕草が海外のユーザーには伝わりにくいときに、そういった部分もトランスレーターが拾いあげ、ローカライズプロジェクトマネージャーとともに開発チームに報告し、調整していきます。たとえば、日本では、挨拶の際にお辞儀や会釈をするのが一般的ですが、海外ではこの風習はありません。日本が舞台のゲームなら話は別ですが、中世ヨーロッパをイメージしたファンタジーの世界で騎士や貴族がお辞儀や土下座といった動作を見せたら、海外ユーザーは非常に違和感を覚えるでしょう。文章や文字と同様に、モーション等も「ローカライズ」する必要があり、そのための的確なアドバイスを提供するのもトランスレーターの仕事です。その他にも海外版の音声収録にも立ち会いますし、ときには宣伝コピーやゲームのタイトル自体を考えることもあります。また、開発チームから武器、アビリティー、モンスターなどの名称を「かっこいいカタカナ名にしたい」という依頼を受け、トランスレーターが命名作業に関わることも多々あります。ただの「翻訳」だけではなく、海外のユーザーに向けて発信するすべてのコンテンツに関わることが、トランスレーターに求められている役割なのです。

仕事の進め方はプロジェクトによって違いますが、最初から海外市場を意識したタイトルであれば、仕様の相談からされることもあります。複数の地域に同時展開しているオンラインタイトルであれば、英語、ドイツ語、フランス語など各言語に数人のトランスレーターが配置されて進めていきますし、モバイルタイトルであれば専任ではなく兼任で1人が複数タイトルの担当となる場合もありますね。チームで仕事をすることも、1人で仕事をすることもありますが、いずれにせよ自分の母国語だけはなく日本語にも精通したコミュニケーション能力と協調性が必要です。翻訳者は1人で黙々とパソコンと向き合って仕事をしているイメージがあるかもしれませんが、むしろトランスレーター同士やプロジェクトマネージャー、プロデューサー・開発チーム・宣伝・QAチーム等、たくさんの同僚と常にコミュニケーションを取っているという、非常に刺激的な環境で働いています。

海外ユーザーの心強い理解者となる。

私はアメリカの大学と大学院で日本文学を学んだのち、2005年にJETプログラムの国際交流員として来日しました。スクウェア・エニックスには2008年に入社しましたが、きっかけは前職の出張の際に偶然、当社でトランスレーターを務めていた学生時代の同級生に再会したことでした。子供のころからゲームが好きで、日本のゲーム(特にRPG)も数多くプレイしていましたが、まさかゲーム業界で働くことになるとは夢にも思っていませんでした。私はデザインやプログラミングという技術的な才能はありませんが、トランスレーターとしてなら役に立てるかと思い、応募してみたところ、運が味方してくれたのか、すんなり入社することができました。昔から興味を持っていたゲーム業界で、一生懸命勉強して身につけた日本語能力を、たくさんの仲間とチームを組み、私がかねてから望んでいた「文学的な」仕事ができて、非常に充実した日々を過ごしています。

最初の頃は、自分の翻訳が「正しい」かどうかばかりを気にしていたのですが、そのうち気付いたのは、特許等法定で使われる資料とは違い、ゲームの翻訳は「正解」というものはありません。日本語版の魅力とクリエーターの意図をきちんと理解し、それをしっかり海外に伝えられる優秀なトランスレーターになるには近道はなく、日々の努力が欠かせません。日本語の読解力や日本文化の知識はもちろん、英語の表現力、文章力も常に磨いていないと、翻訳者としてのレベルはなかなか上がりません。そのために、両言語で数多くのの小説を読み、映画を観たりすることで、言葉のセンスを可能な限り身につけるようにしてきました。また、海外のゲーマーや若い層の流行りや好みを把握するのも大事なので、日本に住んでいても海外のゲームをプレイしたり海外ドラマを観たり、ネットなどで海外のサブカルチャーやポップカルチャーを追いかけるように心がけています。何年もこのプロセスを繰り返しながら仕事を続けていると、時折「あ、こういう翻訳だったら、海外のユーザーはきっと面白いと思ってくれるはずだ」というひらめきがあり、トランスレーターとしての成長を実感することがあります。

どんどんグローバル化するゲーム業界の中で、トランスレーターの重要性は高まっていく。

日本のゲーム開発において、海外市場は最早無視できない存在です。ローカライズの価値は今後ますます上がっていくと思います。実際、今までは完成した国内版を後追いでローカライズするというパターンが主流だったのですが、今では開発と同時に進めるというケースも増えてきており、その分、より柔軟で多様な働き方と能力が求められています。海外の開発会社や技術者が関わっているプロジェクトでは、電話会議等での通訳を務めたり、現地の打ち合わせに出向いたりすることもあります。また、開発陣と共に海外の大規模ゲームショーに出向き、海外ファンを相手にトークセッションをした経験もありますが、自分が関わったゲームを遊んでくれたユーザーと触れ合うという、非常に貴重な体験に感動しました。

トランスレーターの仕事は日本文化が好きで、ゲームの面白さを伝えたいという情熱がなければ始まりません。その上で、自分のこだわりや信念、向上心を持つことも大事だが、協調性を持つことも大切です。ローカライズはただ高い理想ばかりを追う「アート」ではなく、実際作品を作り上げていく「クラフト」です。限られた予算やスケジュールの中で、海外ユーザーの体験を第一に考えて全力で仕事に取り組む。思い通りにいかないこともありますが、それをチームの仲間と一緒に、ベストな解決法を考えて乗り切る。そして最後に、世界中のユーザーに楽しんでもらえる作品が出来上がった時には、やはり他では味わえない達成感と喜びを感じることができます。その感動を体験したい人には、ぜひ応募いただき、我々トランスレーターの仲間になってもらいたいと思います!