奏でられた旋律はファンの想いと
共鳴して祈りとなる──

東京公演レポート

取材・文:タダツグ(ゲームライター)

『NieR:Piano Concert - Journeys 12026 -』──2025年4月19日のパリ公演を皮切りにスタートしたこのピアノコンサートは、『NieR:Automata』『NieR Re[in]carnation』『NieR Replicant ver.1.22474487139…』より厳選された楽曲をコンポーザーである岡部啓一氏が監修。ピアニストのベンヤミン・ヌス氏が演奏を務めて世界各国で絶賛の嵐を巻き起こし、満を持して日本国内でも公演が実施されました。

本記事では、そんな日本公演の締めくくりとなった東京・第一生命ホールでのコンサートの模様を……その思い出を……奏者とファンがともに紡いだ万雷の祈りを、会場に訪れた1人としてここに書き記していきたいと思います。

「えっ、こんなに小さなホールなの?」……そんな第一印象をあっという間に覆した、魂を揺さぶる名演奏

取材のオファーをいただいてから、ずっと楽しみにしていたピアノコンサート。公演当日に取材でホールを訪れて抱いた第一印象は、率直に言って「意外と小さなホールでやるんだな……」というものでした。

それもそのはず、調べてみたところ会場となった第一生命ホールの座席数はおよそ760席ほどとのことで。過去、パシフィコ横浜の国立大ホールや東京国際フォーラム(ホールA)、有明アリーナなど、大ホールでのオーケストラコンサートを拝聴してきた身としては、この規模での開催はどうしても小さく思えてしまったんですよね。ステージに置かれているのがピアノのみというのも、なかなか新鮮な感覚でした。

もちろん会場が大きければいいとか、小さいからよくないって意味ではありません。シンプルに「もっと大きなホールの方がたくさんのお客さんが入れて喜ばれたのでは?」という、素人ならではの老婆心から生まれた考えなのですが……。コンサートを聴き終えた今となっては“むしろこの規模だからこそ生み出された感動を味わえた”と確信しています。

コンサートPAを通すことなく、ホールの隅々まで生のピアノ演奏が届く。ベンヤミンさんの指がつま弾く生き生きとしてのびやかな音が空間を包み込み、反響し、融和して、時に色を帯びたそれが観客の鼓膜を美しく震わせる……。誇張でもなんでもなく、そんな奇跡のような体験をさせてもらえました。

奏でられる音色のすべてが素晴らしく、音の波に魂が揺さぶられるこの感覚。これこそが岡部さんやベンヤミンさんをはじめとした、このピアノコンサートを手掛けたスタッフたちが思い描いたコンセプトだとすれば、やはりこの規模のホールでの開催が至上といえるのではないでしょうか。

あえて生放送などのストリーミング配信を行わなかったことも頷けますし、コンセプトが徹底していることには今もって感心しきり。正直なところ、時代と逆行している側面はあるかもしれませんが、それでも「ここでしか味わえない体験」をあえて追求する……。そしてそれを許容してもらえるというのも、『ニーア』という作品シリーズが10年以上の月日をかけて積み上げてきた信頼の証なのかもしれませんね。

残念ながらチケットが入手できなかったという皆さまには、せめて自分の文章で現場の雰囲気を少しだけでも味わってもらえたら──今はそんな思いでこの記事を書きしたためています。責任重大で緊張していますが……さほどの長文ではありませんので、よろしければぜひ最後までお付き合いください。

それではまず、演奏楽曲からご覧いただきましょう。

PART1

  • 祈リ
  • 夏ノ雪
  • 光ノ風吹ク丘
  • 遊園施設
  • エミール
  • 遺サレタ場所
  • Ashes of Dreams
  • 双極ノ悪夢

PART2

  • 穏ヤカナ眠リ
  • 仮面ノ誉
  • 複製サレタ街
  • 還ラナイ声
  • 曖昧ナ希望
  • カイネ
  • オバアチャン
  • Weight of the World
  • 泡沫ノ言葉

Encore

  • イニシエノウタ

いかがですか?いずれも粒ぞろいの名曲だらけですし、目を閉じるだけでその主旋律を思い出せるファンの方も少なくないかと思います。ただし、今回はピアノアレンジということで受ける印象がガラリと変わる曲も豊富でした。個人的には何度も聴いて耳慣れていた曲ほど新鮮に感じられ、心を揺さぶられたものです。ここからはいくつか印象に残った曲を挙げさせてください。

まず驚いたのは3曲目に演奏された“光ノ風吹ク丘”。少年ニーアが草原を走る息遣いまで聞こえてくるかのごとく、全体的に静かでのどかなアレンジを施されていながら、時にイノシシにつっかかられるような強い音もあり、ベンヤミンさんの軽やかな演奏が聞いていてとてもワクワクしたんですよね。

この演奏を聴きながらおしゃれなジャズバーでカクテルを嗜みたくなるとでもいうか──そもそも自分はジャズバーを訪れたことがないのでちょっとムリめの背伸びをしてしまいましたが──とにかく、本当にロマンチックなアレンジでした。

次に流れた曲が“遊園施設”というのも、構成としてすごく面白くて。こちらは主旋律こそ原曲を踏襲しつつ、よりアップテンポというか、今にもワルツなんかを踊りたくなるようなアレンジに仕上げられていて驚きました。

そもそもゲーム内の遊園施設では機械生命体たちがダンスらしきものを踊っていたものですが、今回のアレンジはそのイメージをより前に押し出すことが狙いだったのかもしれません。正直に告白すると、僕はイントロから少し経つまで「この曲は“遊園施設”じゃないか!」と気づけなかったんですよね……。それゆえに、そうだと気付いたときのインパクトも大きかった気がします。

ピアノコンサートということもあり、どちらかというとフィールド曲やイベント曲が多くセレクトされていたなかで、バリバリのバトルサウンドである“双極ノ悪夢”がアレンジされていたのも衝撃的でした。個人的に『NieR:Automata』のなかでは三指に入るほどのお気に入り曲なので、ピアノアレンジが聴けてすごく嬉しかったです。

まぁ、こちらも“遊園施設”と同様にイントロだけではそれと気づけなかったという体たらくですが(汗)。静かなイントロからサビに向けて激しさを増していく流れには深く胸を打たれました。

何もこの楽曲に限ったことではありませんが、1曲のなかで様相がガラリと変わる楽曲も多く、至るところで驚きと発見の宝庫。「本当にたった2本の手と2本の脚で弾いているのか?」と思わず唸ってしまうほど激しい演奏シーンも多々あり、ピアノコンサートという公演に抱く印象そのものが変わってきそうです。

心憎いセットリストに涙腺崩壊。ラストはスタンディングオベーションに!

約20分の休憩をはさんで始まったPART2。後半も名曲尽くしでしたが、とりわけ印象に残ったのは“カイネ”です。想えばこの曲を初めて聞いてからもう16年ほどの月日が流れているわけですが……。そのあいだに訪れた人生の要所要所で、自分は必ずこの楽曲を聴いて過ごしてきたんですよね。そういう意味で、他の曲と比べてもちょっとだけ思い入れが違うみたいです。

つまるところ、自分のなかでそれだけ期待値というかハードルが上がってしまっていた側面もあるのですが。今回のピアノアレンジもじつに素敵で、ベンヤミンさんの感情のこもった演奏にも誘われて、感情がぐちゃぐちゃになってしまいました。まあ、なんとか涙腺が決壊したくらいですみましたけど(笑)。

自分と同じような状況になったファンの方もきっといるんじゃないでしょうか。ここから“オバアチャン”へと繋がっていく構成も含めて、本当に最高でした。

構成といえば、アンコールに“イシニエノウタ”を持ってくるセットリストになっていたのもインパクトが大きかったです。シリーズ屈指の人気曲だけに、プログラムに記載されていなかったときには小さな違和感を感じたのですが。いざコンサートが始まったらあまりの名曲ぞろいに納得してしまったのか、そんな違和感は頭の中なからキレイになくなっておりまして……。

おかげで、プログラム上では最後の楽曲となっていた“泡沫ノ言葉”を弾き終えて舞台袖にはけたベンヤミンさんが、再びステージに戻ってきて「もう1曲」と口にし、ゆっくりと“イニシエノウタ”を弾きだした時には、脳内がもはやカオス状態に突入しました。心の準備ができていない!

「あ、あ、あ、いいの?いいんですか?この曲を聴かせてもらっていいんでしょうか?本当に⁉」

もはや限界でしたからね。カタルシスとは正にこのこと……。あやうく演奏の冒頭からずっと拍手していたい衝動にかられ、抑え込むのに苦労したものです(笑)。

おそらく多くのファンの方が僕と同じような感情に支配されていたのでしょう。演奏後、会場の多くのファンが自然と立ち上がってのスタンディングオベーションに。先にも書いたとおり小さな会場ではあったので、万雷の拍手がこだまして大きな渦になっていました。

拍手を受けているベンヤミンさんも万感の想いといった表情で、それがまたすごくエモかった……。一礼したベンヤミンさんが袖に消えていってなお鳴りやまない拍手は、さながらファンの祈りのようで、自分もずっと拍手し続けてしまいました。

最後まで満足感と余韻に浸れるとても質の高いコンサート。取材とはいえ鑑賞させていただき、本当に、本当にありがとうございました……。

演奏を終えたベンヤミンさんと、コンポーザーの岡部さんにプチインタビュー!

終演後には、演奏を終えて一息ついたベンヤミンさんと、シリーズの楽曲を手掛けるコンポーザーの岡部啓一さんに、楽屋で少しだけお話をおうかがいする機会も!ツアーの裏側や、生の演奏にかける熱い思いを語っていただきました。

日本公演、本当にお疲れ様でした。最高のコンサートで、アンコールの『イニシエノウタ』の感動の余韻にいまだ浸らせてもらっております。

ベンヤミン・ヌスさん(以下ベンヤミン):ありがとうございます!

1週間の日本ツアーを今まさに終えられたわけですが、率直なお気持ちはいかがでしょう?

ベンヤミン:日本の5都市をめぐる6公演の本ツアーは、本当に激動かつ感動的でした。日本の皆さんの温かい気持ちを直接感じることができて、私自身も今すごく感動しています。まさか最終公演の登場で、スタンディングオベーションを受けることができるなんて!これはクラシックのコンサートでも滅多にない出来事なので本当にびっくりしましたし、心から感動しました。

アンコールに『イニシエノウタ』を持ってくるという構成の妙にも驚かされましたよ。

ベンヤミン:そうですよね。あの構成を考えてくれたのは、もちろん我らが世界のオカベさんです。

素晴らしい!岡部さん、あの構成にはどのような狙いが?

岡部啓一さん(以下岡部):狙いとしてはとてもシンプルで、ファンの皆さんに喜んでもらいたくて試行錯誤した結果です。いかがでしょうか、感動していただけました?

もちろん!まさにファン心理を突いたセットリストだったと思います。

岡部:ありがとうございます!

ではここで、ベンヤミンさんが今回のコンサートで一番こだわったポイントをお聞きしてもいいでしょうか?

ベンヤミン:私は普段クラシックコンサートなどでもピアノを弾かせてもらうのですが、『ニーア』の音楽はクラシックの難曲に引けを取らないほどレベルが高く、力強くて素敵なんですよ。アレンジャーさんからはもちろん、ファンの方が求めておられるハードルが高いことも自覚していたので、ものすごく練習してから本番に挑ませてもらいました!

素人目にも「本当に1人で弾いておられるのだろうか?」と驚きつつ鑑賞しておりましたが。やはり、ベンヤミンさんをしても演奏は難しかったってことですかね?

ベンヤミン:はい、とても(笑)。しかし、私自身も『ニーア』のイチファンであり、作品の世界観やサウンドの素晴らしさに惹かれている人間なので……。絶対に恥ずかしい内容にはできないと覚悟して挑ませてもらいました。多くの方々に喜んでいただけたようで、今はすごくホッとしています。

岡部:日本のファンの方がなんの指示もないのに自然とスタンディングオベーションをするというのは、なかなかないことですよ。それだけ皆さんも喜んでくれたってことだと思います。

そうなんですよね。岡部さんが誘導したわけでもないのに、皆さんがあたかも当たり前のように立ち上がって拍手をされている姿を取材席から見たときは、自分も感極まってしまいました。

ベンヤミン:本当にうれしいです。これは日本に限ったことではありませんが、『ニーア』のファンの方は本当に温かいですね。私としても、日本に来る前にもう1度初心に返ろうとゲームをプレイし直し、キャラクターの心情や世界観の雰囲気をあらためて自分の中に落とし込んで挑んだツアーでした。僕の「言語」であるピアノの音色で、皆さんに直接、作品に対する想いを伝えたかったのですが。それが届いたからこそのスタンディングオベーションだと思うので、私自身も心の底から感激しました。

岡部さんは客席からご覧になっていかがでしたか?

岡部:今回のピアノコンサートに関しては、昨年のローマ公演を観に行かせてもらっていたんです。でも、そこからヨーロッパ各地でたくさんの公演を重ねたことで、ベンヤミンの演奏がますます進化していて本当にすごかった!ローマで聴かせてもらったときより遥かに「自分の音」として仕上げられていて……めちゃくちゃエモーショナルになっていました。グッジョブです、ベンヤミン!

ベンヤミン:ありがとうございます!正直、最初にレコーディング音源を聴いたときは「こんな激しくて難しいアレンジを2時間も生で弾き続けられるのか⁉」と不安もあったのですが(笑)。とはいえ生コンサートだからこそ伝わる熱量や感情の乗せ方がありますし、お客さんとの距離が近いからこそ会場全体で作り上げる一体感も最高に素敵なので。やり遂げることができて本当によかったです。

じつは、ホールを訪れて最初は「小さな会場だな」って思ったのですが……今となってはこのご判断にも頷けます。ピアノの生演奏の音をしっかりお届けしたいがゆえのこだわりってことですよね?

岡部:おっしゃるとおりです。機械を通さずにピアノの生演奏をホールの隅々までお届けしようとしたら、どうしてもこの規模が限界でして……。もっと大きなホールで開催する方が、より多くの方にコンサートを楽しんでいただけることは重々承知しているのですが、今回は生音ならではのよりエモーショナルな体験をお届けしたかったので、この規模での開催とさせていただきました。

自分としては、ベンヤミンさんが冒頭のMCで「ゆったりとリラックスして聴いてくださいね」とおっしゃってくれたのが印象的でした。とはいえ自分などは「一音たりとも聴き逃さないぞ!」と、気を引き締めて聴き入ってしまっており……意に反した聴き方だったとしたら申し訳ありません(笑)。

ベンヤミン:とんでもない!聴き方は人それぞれですし、まったく問題ありませんよ!コンサートに来てくださるファンの皆さんの聴き方については、地域によって全然テンションが違うのもピアニストとしては面白い部分です。

海外のファンの反応はどうなんでしょう。やはり日本とはスタンスが違いますか?

ベンヤミン:そうですね。そこは地域性、国民性の違いを感じます。たとえばヨーロッパでも、北のほうに行くと比較的静かに聴いてくれるんですが、パリでの最初の公演なんてもうお客さんが爆発したみたいに盛り上がってくれて(笑)。もちろん、どんなスタンスであれ私の演奏を楽しんでくださればそれだけで満足です。岡部さんが作った素晴らしい音楽と、最高のアレンジが組み合わさって、本当にいいプログラムができたと実感しています。ファンの皆さんに喜んでいただけたのなら最高です!

日本公演はこの東京で幕を下ろしますが、ツアー自体はまだまだ続くとのことで……。お身体に気をつけて頑張ってください。ベンヤミンさん、岡部さん、あらためて本日は素敵なコンサートをありがとうございました!

ベンヤミン・岡部:ありがとうございました!

Photo by Kimi