作曲家・下村陽子×『UNDERTALE』作者・トビー・フォックス スペシャルインタビュー

1994年にスーパーファミコン用ソフトとして発売された『ライブアライブ』が、28年の時を経てNintendo SwitchでHD-2Dリメイクで再登場。
楽曲たちもオリジナル版コンポーザー・下村陽子さん監修のもとリアレンジされ生まれ変わりました。
今回は『LIVE A LIVE HD-2D Remake Original Soundtrack』の発売を記念してスペシャル対談を実施。
『ライブアライブ』の中でも人気を誇る名曲「MEGALOMANIA」にインスパイアされ、自身のゲーム『UNDERTALE』に「MEGALOVANIA」という曲を作曲し実装した作曲家でもありゲームクリエイターでもあるトビー・フォックスさんがアメリカから来日。下村陽子さんとトビー・フォックスさんとのインタビュー対談を特別にお届けします。
今回のために特別に『UNDERTALE』のデザイナーでもあるTemmie Changさんがイラストを描きおろし!かわいいイラストとともに、スペシャルな企画をお楽しみください。

なお、当インタビュー記事は両作品のストーリーのネタバレを含みますのでご注意ください。

話し手
下村陽子 / トビー・フォックス
イラスト
Temmie Chang(@tuyoki)
聞き手とライター
アネモネ・モーニアン

下村陽子さん(以下、下村さん): トビーさんですか?

トビー・フォックスさん(以下、トビーさん): はい、よろしくお願いします。(ペラッペラの日本語で)

イケメンイヌですね!イケイヌ!イケイヌ!
(トビーさんはメディア出演時、白いイヌの姿に変わるのです……いえ、トビーさんの本当の姿がイヌなのかもしれません。)

イケイヌ!わはは! (イケイヌに大笑するトビーさん)

お2人共よろしくお願いします。まずはトビーさんのゲーム歴的なバックグラウンドストーリーをお聞きさせていただきますね。トビーさんは日本のゲームが大好きなのですよね。最初に遊んだゲームはなんでしたか?

最初に遊んだ日本のゲームは覚えていないけど、伝統的なJRPGとしては『FINAL FANTASY VI』が最初でしたね。プレイし始めた瞬間から、その音楽と雰囲気に吸い込まれました。あのオープニングの……「アーアーアーアー チャー!ラー!」(「予兆」の冒頭を歌う)のシーンが圧倒的で……なんて説明したらいいか分からないけど、自分ではコントロールできない感情がブルブル震えて、「映画よりカッコいいじゃん!」って感じたんですよね。それが4歳くらいのときかなあ。
あ、待って!その前に『聖剣伝説2』でも遊んでいたかも。同じ洞窟をモンスターを倒しながらひたすら往復して、ずっとBGMを聴いていました。
そんな感じで、僕はすごく小さい頃からゲームで遊んでいたから、ゲームは自分のDNAの一部で、血であり肉でありって感じがしています。存在しているのが自然なものであって、自分の頭の中ではすでに文化として鎮座している感じです。
あ!あとは『スーパーマリオRPG』!これは外せないですね。

ということは、下村さんの音楽に初めて触れたのは『スーパーマリオRPG』だったのでしょうか?

“初めて自分でクリアしたゲームで”って意味だと「はい」ですね。
"初めて聴いた"って意味だと、子供の頃、友達と友達のお母さんとビーチに行ったときゲームセンターがあって、そこに『ストリートファイター2』があったんです。コインを入れて、ダルシムにブッ飛ばされて、泣きました。ブッ飛ばされた思い出が強烈すぎて、正直音楽のことはあんまり覚えていなくて……でもそれが初めて”聴いた”ってことになると思います。

意識してちゃんと聴いたのは『スーパーマリオRPG』です。大好きでずっとサウンドトラックを聴いていました。遊んでいた当時は作曲家さんのことまでは意識してなくて「あの作品の作曲者さんが、この作品も担当しているんだ!」と意識するようになったのは数年後でした。『KINGDOM HEARTS』で遊んでいたときに「あれ?この音楽なんか聴き覚えがあるぞ……下村陽子さんだ!」って気付くようになりました。そこから下村さん、植松伸夫さん、光田康典さん、と認識するようになりましたね。

『ライブアライブ』との出会いについて

『ライブアライブ』を初めて遊んだのは、中学生2、3年生くらいのときでした。『ライブアライブ』大好きな友人にすすめられたのがきっかけです。ぼくもスクウェアのゲームが大好きで、音楽も大好きな下村さんだと知っていたので「これは絶対にプレイしないといかんなあ」と思って遊び始めました。英語にローカライズされていなかったのでプレイするまでに時間がかかりましたが、クリアしたときは最高の気持ちになりました。最初に選んだのは「原始編」で、その後が「現代編」でした。リメイクされてから最近ぼくの別の友人も『ライブアライブ』を遊び始めて「初めて遊ぶけどどの章から始めればいいの?」って聞かれたので、「ぼくは原始編から始めたけど、オススメとかは特にないよ」って答えておきました。だって自分の好きなように自由にプレイできるのも魅力ですもんね。
『ライブアライブ』についてなら各チャプターごとに何時間でも語れるけど、今は抑えたほうがいいよね……?

是非語っていただきたいのですが時間が限られていて……『ライブアライブ』の特に気に入っているところを教えてください。

ストーリー的な部分だと、最後に主人公たちがみんな集結する流れが大好きです。きっと他のプレイヤーのみなさんも、あの熱い展開に燃えましたよね。「中世編」も大好きです。「最終編」への最高の導入になっていますよね。まさか正統派な戦士タイプの主人公が……このいい意味での裏切りは、自分のゲーム『UNDERTALE』にもすごく影響を与えています。最初に出会ったプレイヤーキャラクターがまさか……って、これはあんまり言わない方がいいかな?
今作っているゲーム『DELTARUNE』にも剣を持った戦士タイプのヒーローがいるのですが、実は「主人公」でありながら、別の役割も持っています。チャプターごとにストーリーが分かれているのも共通点ですね。
『UNDERTALE』以前にも影響を受けた作品があって……実は昔『RPGツクール2000』で作ったお遊びのゲームがあって……アメリカのマンガ『ガーフィールド』って知っていますか?ガーフィールドの親友のイヌの名前がオーディーなんですけど、そのオーディーを巨大化させてラスボスにして「オディオ」って名前にして遊んでいたりしました。作品名?黒歴史なので誰にも教えられません!とにかく、『ライブアライブ』にはすごく影響を受けています。

『UNDERTALE』の敵を「みのがす」選択肢なども『ライブアライブ』の影響なのでしょうか?

UNDERTALEの制作に関しては、様々なものから影響を受けていて、『ライブアライブ』を遊んだことがある人が『UNDERTALE』を遊ぶとピンと来るものもあるかと思います。そのひとつは『ライブアライブ』の幕末編からですね。すべての敵を倒すか、まったく殺さないかでアイテムをもらえます。そのシステムから「みのがす」が影響を受けたかも知れません。それから「MEGALOVANIA」って曲を作って実装させてもらったりとか……。

下村さんとトビーさんの出会い

かの有名な「MEGALOVANIA」ですね。そのお話について詳しくお聞きする前に、まずは下村さんとの実際の出会いについて聞かせてください。トビーさんは2018年に行われたライブイベント「LIVE・A・LIVE・A・LIVE 2018 鶯谷編」にお越しになっていたんですよね?

そうです!最初であり唯一の下村さんとの出会いでした。今日で人生2回目です。

「実はトビーさんが観にいらっしゃっている」って当日会場で聞いて初めて知ったんです。終演後に招待席エリアのすごく暗いバルコニーでちょこっとだけお話しましたよね。

そうでしたね。あの時の会話は忘れられません。当時はまだ全然日本語を話せなくて、日本語で「はじめまして」って挨拶しようとしたのに、漢字を読み間違えて「ハツメマシテ」って言ってしまってすごく恥ずかしかったのを鮮明に覚えています。

今はこうやってお話してくれていますけど、当時は「すごくシャイなかたなのかな?」って思ってました。なるほど、そういう理由だったんですね。今はもう日本語はほぼ全て通じていますよね。私が日本語で話している内容も理解して笑ってくださっていたので、通じているんだなって分かります。私も英語を勉強しないとって10年くらい思い続けているんですけど……。素晴らしいですね。

ライブの熱気はすごかったですね。発売から20年以上経ったゲームのコンサートとは思えないくらいファンが盛り上がっていて、時田貴司さん※が「あの世で俺に〜?」ってコールしたら「詫び続けろ〜!」ってレスポンスが返ってきていて最高でした。時田さんは「GO!GO!ブリキ大王!!」も熱唱するし……ぼくもいつか、ああなりたいですね。ステージの上で歌って……あっ、「GO!GO!ブリキ大王!!」じゃなくて自分のゲームの曲ですよ(笑)。もし一緒に「GO!GO!ブリキ大王!!」を歌ってってご依頼があったらもちろん参加はさせていただきますけど!
(※オリジナル版のディレクターで、リメイク版ではプロデューサーを担当している芸夢職人)

トビーさんもできるできる!「UNDER〜?」「TALE〜!」「MEGALO〜?」「VANIA〜!」(コールアンドレスポンスのふりをする下村さん)

(大笑いするトビーさん)

私の曲はオーケストラのコンサートが多くて、コールアンドレスポンスがあるようなライブは初めてだったので、会場のファンの皆さんの盛り上がりを見た時は、ファンの方の愛を感じて私も感動しました。

「MEGALOMANIA」と「MEGALOVANIA」

下村さんはトビーさんの「MEGALOVANIA」の存在をどこで知ったのですか?

『UNDERTALE』自体がもう結構話題になっていて、何人かに「名作だから遊んだほうがいい!」ってすすめられていたんです。そのときに「MEGALOVANIA」っていう曲があって「MEGALOMANIA」リスペクトの曲らしいよって教えてもらいました。ファンの方からも何かにつけて「MEGALOVANIA」についてを聞かれたりして「また言われたけど、凄い人気だな」みたいなことが何度かあったんです。なので、実際に拝聴させていただいたのですが、構成もメロディも全く違う曲なので、リスペクトしてもらっているのは純粋にうれしいけれど「なんでこの名前にしたのかな?」って不思議に思っていたんです。

「MEGALOVANIA」を作曲して命名したのはぼくが15歳のときでした。当時ちょっと(厨二病ならぬ)厨三病だったぼくは『UNDERTALE』ではなく他のプロジェクトのための曲を作曲していて、そのゲームで「MEGALOMANIA」をリメイクして使いたいなって思ったんです。でも音楽ソフトを触って耳コピしているうちに、リメイクするより自分で新しい曲を書いてしまった方が早いと思い立って、「MEGALOMANIA」にインスパイアされて新しい曲が生まれた、という経緯がありました。「MEGALOVANIA」と名付けたのは、そのゲームがハロウィンをテーマとした内容だったので、語尾に「~VANIA」と付けたんです。トランシルバニア=バンパイア=ハロウィン、と言う連想からですね。

「MEGALOMANIA」のよさは、もちろん曲そのもののカッコよさもあるのですが、ゲームでの使われどころもすごく影響していると思うんです。どのチャプターをプレイしても、この曲が流れることで「最終決戦まで来た!もうすぐ章が終わるんだ」ってことをプレイヤーが実感できるんですよね。厨三病だったぼくは、自分のゲームにもそう感じられる曲が欲しいと思ったんです。その意味も込めて名付けた経緯もありました。

そうだったんですね。今日直接ご本人から聞いて、長年の疑問が解けました!お会いしないとこういうことも中々聞けませんもんね。

ぼくも質問してもいいですか?「MEGALOMANIA」の作曲にはどのくらい時間が掛かりましたか?

書き上げはかなり早かったです。私はあまり構想をして考え込んで作るタイプではなく、勢いで作っちゃうタイプなんです。「MEGALOMANIA」は書き始めるまでに時間が掛かってしまい、ボス曲だったのもあり「早くデモを提出してほしい」と急かされつつも、いざ実際に曲を書き始めてからはすごく早かったと思います。多分、30分から1時間くらいで書き上げていたはずです。

書き始めるまでに時間が掛かったのは、曲のアイディアが降ってくるのを待っていたのでしょうか?

降ってくるって言うとカッコいいけど、どちらかというと曲を書くための情報をインプットするのに時間を掛けているイメージです。曲自体の構成や楽器の編成を考えるのではなくて、どういうシチュエーションで掛かるとか、どういうイメージの曲を求められているのかとか、そういった情報をたくさんインプットして考えます。画やシナリオなど、音以外のイメージを溜めた後に「じゃあ書いてみよう!」と作曲を始めて、そこから時間が掛かる曲と、パッとできる曲っていうのに分かれるんですよね。その中で言うと「MEGALOMANIA」は割とパッとできたほうだと思います。

やっぱり!実は「MEGALOMANIA」を聴いていて、そうだったのかな?って気がしていたのでお聞きしてみたんです。僕も作曲するときは同じで、何日も掛かって何度もやり直すような曲と、1時間くらいでパパッとできて友達に聴かせると「今までの曲の中でも最高じゃん!」って言われる曲があるんです。「MEGALOMANIA」が刺さる理由ってそこにあるんじゃないかなって考えていて、複雑に凝った構成じゃなくても、「これだ!」っていう一瞬のひらめきでできたような勢いがあって、神曲と崇められるほどカッコいい。『ライブアライブ』の中でも一番人気があると言っても過言じゃない曲ですよね。ぼくが作曲において大事だと思うのは、作るのにどのくらい時間を掛けたかじゃなくて、その曲がどこでどう使われるかと、その曲が持つ感情とパワーだと思っています。

トビーさんがゲーム音楽を作り始めたきっかけについて

トビーさんはゲームも曲もご自身で作られているのですよね?1人で両方ここまでできる人ってすごく貴重ですよね。音楽とゲーム作りはどちらから最初に始めたんですか?

作曲は中学校のころに勉強しました。ピアノで「FINAL FANTASY」や『スーパーマリオRPG』とか『ライブアライブ』とかRPGの曲を耳コピして、そこからコードの使い方やそれぞれがどの感情に訴えかけているかを学びました。それもあって、ぼくの音楽は影響を受けた作品の曲に似ているって言われることがあるのかもしれません。
作る順番でいうと両方同時進行ですね。『UNDERTALE』に使われている曲のいくつかは元々違う作品に使っていた曲だということもありますけど、まずはストーリーやイベントを書き始めて、そのイベントに合った曲を作る、実装して自分がどういう感情になるか試して、アイディアや曲をさらに書き加えてみたりして完成させています。

全てが素敵に回っているのね。みんな『UNDERTALE』の話を教えてくれるとき「今までにないゲームで、斬新だけど優しい気持ちになれる」と教えてくれるんです。実際のゲームプレイを見てみたら「音楽作りながらこの作品も作っているってどういうことなの!?」って印象だったんですよね。実際にこうやってお会いしてお話ししてみると、ものすごく頑張って苦労して作っているというよりも、すごく自然体で、ゲームも音楽も大好きで、好きなことを突き詰めたらこれができました、みたいな印象に変わりました。この言い方だと軽く聞こえてしまうかもしれなくて申し訳ないんですが、これってすごく幸せな究極のもの作りの姿勢だなって。私も好きなものを突き詰めていこう!ってトビーさんとお会いして思いました。

下村さんがゲーム音楽を作り始めたきっかけについて

下村さんがゲーム音楽を作曲するきっかけについては、『ドラゴンクエストIII』の「おおぞらをとぶ」に感銘を受けたというエピソードが有名ですね。

知れ渡っていますよね。最初どこで言ったかもはや覚えていないんですけど。作曲家として最初のゲーム会社に入社する直前のエピソードです。当時入社は決まっていたのですが、「おおぞらをとぶ」に衝撃を受けすぎて「私にこんな作品を作れるだろうか?ちゃんと仕事ができるんだろうか?」と不安に思っていました。当時最も”美しい曲”だと思ったんですよね。「こんなにいい曲が書けたら死んでもいい」って例えをしたのを覚えています。こんなメロディを書けるその才能が恐れ多いというか、羨ましいというか、悔しいというか……憧れから色々な感情がごっちゃになって、本当に衝撃を受けた”ショック状態”ですよね。ラーミアが飛び上がった瞬間に「おおぞらをとぶ」が流れて……ラーミアって方向ボタンをポンって押すと、ずっとその方向に飛んでいくんですよね。私はずっとラーミアが飛ぶのを眺めていました。何もしないで。何も操作はしていないんだけど、時間とマップは動いていて、ただただ「おおぞらをとぶ」が流れていて……何もできなくなっちゃったんだと思います。曲が良すぎて。本当に”衝撃”ですよ。衝撃としか言えない。なんて美しいメロディなんだって本当に思いますね。

今は世代的にゲーム音楽に感動してゲーム作曲家になるかたも増えていますが、大先輩である下村さんも同じくゲーム音楽に感銘を受けて作曲をされていると聞くとゲームファンとしてもうれしいです。

入社以前は自分は作曲なんてできると思っていなかったし、ゲーム音楽を作る仕事があることも知らなかったんです。遊んでいた『スーパーマリオブラザーズ』で曲を聴いて初めて「書いてる人がいるってことは、そういう仕事があるってことだよね」ってゲーム音楽に意識したんですよね。でも私はずっとピアノ科でクラシック音楽をやっていて、そういった作曲の勉強はしていなかったので「書けるわけない」って思っていたんです。作曲専攻の友達でゲームをしない子がいたので「この曲ってどう思う?」ってマリオの曲を聴かせたら「キャッチーでいいね」って言うんですよね。「こういう仕事があるみたいなんだけど、私にできると思う?」って聞いたら「いや〜、この曲はすごく考えられているから難しいし、絶対無理だと思う」って断言されたんですよ(笑)。
それから『ドラゴンクエスト』シリーズを遊び始めて、すぎやまこういち先生の曲を拝聴して、クラシック音楽でもゲーム音楽が作れるんだ!って気付いたんです。『ドラゴンクエスト』みたいな曲を書くぞ!とは偉大すぎて言えませんが、クラシカルな曲だったら、もしかしたらクラシック育ちの私でも書けるんじゃないかしらと思って、チャレンジしてみることにしました。チャレンジをして入社が決まった頃に「おおぞらをとぶ」を聴いて「私は何て勘違いをしてしまったんだ」と後悔をしたんですよね。自分は何にも分かっていなかったなあって。ゲーム音楽がなんたるかっていうことも分かっていませんでしたし、『ドラゴンクエスト』の曲がどんなにすごくて素晴らしいか、改めてハンマーで殴られたような気分でした。実際に入社しても、クラシックどころか作曲の勉強はほとんどしていない状態で、曲も全然書けなかったですし、先輩にも怒られまくりですし……才能もないし努力もできないしどうしようって、本当に毎日「辞めよう」って思っていました。それだけ『スーパーマリオブラザーズ』と『ドラゴンクエスト』が、私に影響を与えていたんだと思います。

その2作がある意味一つの指標になっていたのですね。

指標というか、どちらも人生を変えるきっかけですかね。どちらかに出会っていなければ、この仕事には就いていなかったと思います。

下村さんは「おおぞらをとぶ」について「こんなにいい曲が書けたら死んでもいい」って仰っていますけれど、ファンとしては「もう素晴らしい曲を沢山書いていらっしゃるけど死なないで!」と言う気持ちで満場一致だと思いますよ。

まだ書けていないので死ねません!

(一同笑い)

「おおぞらをとぶ」を初めて聴いたのが1988年で、あれからもう何十年も経っているんですけど、ずっとメロディを覚えていて、いつでも歌えるんですよね。きっとどんなに時が流れて、おばあちゃんになって色々なことを忘れていってしまったとしても、あのメロディだけはずっと忘れないと思います。何十年経ってブランクがあっても、これだけハッキリ覚えていられるメロディってやっぱりすごいなって思うんですよね。忘れられないで刷り込まれている。
あとなぜか私『FINAL FANTASY』シリーズの中でも『FINAL FANTASY II』の「戦闘シーン1」だけ、いつでも歌えるくらい耳に残っているんですよね。音楽には自分にすごく引っかかる”何か”っていうのがあるんだなと思います。ここぞというときに掛かる大事な曲でもない、誰もが名曲だと認めるものともまた少し違う別のものでも、”何か”が自分の心の中に引っ掛かって取れない曲っていうのがあるんだなって思っています。だから私自身が書く曲も誰かにとって「10年前くらいにプレイしてから1回も聴いてないんだけど歌える」って、心に引っ掛かる曲になれたらこの仕事をやってきた価値があるなあって思っています。

海外でも下村さんの曲が心に引っ掛かったトビーさんがいて今日のインタビューが実現しているんですよね。

よかった〜。しんでもいいのかな?

(一同「しなないで〜!」)

作曲時の葛藤について

下村さんはアップダウンがあったと仰っていましたが、自分の音楽に自信が持てるようになったのはいつ頃からだったんですか?「私天才!」って思えるようなタイミングはありましたか?

すごく難しいんですけど、ずっと自信はないんですよ。

え〜!?

多分私、一生自信は持てないんじゃないかなって思います。いつも新しい曲を提出するときは「この曲ボツだったらどうしよう〜!」と毎回不安になりながらデモを出しています。小心者なんですよね。

作曲中のノッている瞬間に「私天才!」って感じることはありませんか?

曲を作っている瞬間は集中しているのであまり何も考えていなくて、完成して改めて聴いているとき「マジ最高!私天才?!」っていうときはやっぱりあるんですよ。でも冷静になって依頼主に提出するときに「大丈夫かな?私この才能ないかな?」って思ったりします。自分でも気に入っている曲で「この曲がダメだったらどんな曲もダメだろう」って作品もあるんですが、じゃあそれを自信を持って提出しているかというと、そういう訳ではないんですよね。提出するときに不安を感じてしまう。

過去に大きなトラウマになりそうなボツ経験があったとか……?

いや、多分気質だと思います。私、態度は大きくても結構小心者なんですよね(笑)。いつも割と自信がないことが多くて。
ゲーム音楽ってどんなにいい曲でもそのゲームに合わなかったら台無しだと思うので、冷静に見たときに曲はいいけど合わないって言われたらどうしようとか、果たして受け入れられるのかとか、自分だけのものではないので不安に考えてしまうんですよね。

その気持ちは分かります。ぼくも他の作品に自分の曲を提供したことがありましたが、すごく不安でしたし、その曲に関しては今でもちょっと不安です。自分のゲーム用の曲だったら、自分がどうしたくてどんなものが必要か分かるから「これで大丈夫かな?」って思うことはないんですよね。例えばすっごくゴミみたいな曲ができたとしても(ゴミを作ったとは言っていないですよ、)「これしかできなかったけど、ローンチ日に合わせるためにはこれで行こう!」って自分で受け入れられる。でも、依頼をもらって他のゲームに書くときは「どうしよう!大丈夫かな?ゲームに合ってるかな?みんな受け入れてくれるかな?ちゃんとできているかな?」って気持ちでいっぱいだから、提出するときに不安になるのは100%理解できます。

じゃあ私も自分でゲームを作ったら自信が持てるかなあ!

そうかも知れないですね!

私ゲーム作るからスクエニさん売ってくれる?

(一同笑い)

でも、トビーさんも自分でゲームを作ったとしても、プレイヤーに受け入れてもらえるかっていう不安もきっとありますよね。

ゲーム作りについては多少は不安もありますけど、ぼくの判断基準は結構シビアなので、自分が好きだと思えるゲームを作れば問題ないと信じているところがあります。作り始めは「どうやったら満足できる作品を作れるだろう?」って悩みはありましたけど、今は作ったゲームのことを自分で大好きになれれば大丈夫かなって思います。

自分のゲーム用に曲を作るときにも「認めてもらえるかな?もっとよくできるかも?」って感じることもあるけど、誰かのために書くよりは全然軽いものです。
下村さんみたいに数百曲単位で書かないといけない人は、時間の制限もあるし、一曲一曲に感じるストレスは大きいと思います。自分でよくできたと感じる曲ももちろんあるでしょうけど、誰が聴いても最高だと思える完璧な曲を作りたくても、全曲は難しいし、振り返る時間もなくどんどん次に行かないといけないとなると大変だと思います。

私、自分でゲームを作っても、実際にプレイヤーさんに遊んでもらうときのことを考えると、結局自信が持てないんだろうなって思っちゃいました。

自信がないとおっしゃっていますけど、たとえ昔の曲だったとしても、コンサートで演奏されて、ホールにたくさんのファンが集まって、感極まって曲を聴いている様子を見たら自信を感じられると思うのですが、どうですか?

それはもちろんうれしいです。私はいつも自分の曲を「自分の子供みたい」って言うんですけど、コンサートで聴くと「あんなに出来が悪かった子がこんなにいっぱい成長して!」っていう喜び方ですね。ただ、先日ラジオにゲスト出演したときに、私が最初に作曲したファミコン用ゲームの音源が掛かる機会がありまして……そのときは顔から火が出るとはこういうことだというくらいず〜っと頭を抱えてしまって……恥ずかしくて「聴きたくない」と思う反面、どこかで「いや〜がんばったねえ私!」とヨシヨシとしてあげたい気持ちになりました。

気持ちが分かる気がします。「MEGALOVANIA」もぼくが中学生の頃に作った作品なので……『UNDERTALE』用に自分でリメイクするためにオリジナル版を改めて聴いた時は「はわわ」と思いました。けど、当時できる限り全力で作っていたので、ちょっと誇らしい気持ちにもなりましたよ。

下村さんとトビーさんの曲作りについて

お互いの謎が解けたところで、お2人の曲作りついてもっとお聞きしていきたいと思います。「MEGALOMANIA」は突然勢いよく始まるのも印象的ですよね。

そうですね。これは日本だけかも知れませんけど、Aメロ、Bメロ、サビっていう概念があって、その構成に則って作曲されることが多いんですけど、私は曲を書くときにそれをあまり意識していないんです。「MEGALOMANIA」に至ってはAメロもBメロもサビもないですよね。

「全部サビ!」ですよね。

そうそうそうそうそう!(日本語で)

全部サビかは分かりませんけど(笑) でもあの曲にあえてキャッチーなサビを足すかっていうと、なんだかそれはすごく無駄だなあって今でも思うんですよね。その曲が持つ勢いは、そういう勢いで完成されたからだと思うんです。「いいのこれはサビとかなくて!」という思い切りも大事にしたいなと思っています。

(日本語を完全に理解してめちゃくちゃうなずくトビーさん)

すごく分かり合えている気がする!

僕も同じでAメロ、Bメロ、サビは考慮せずに作曲しているので、すごくよく分かります。

「MEGALOMANIA」は特にイントロもなくて……

そう!そこが最高なポイントですよね!もしあの曲にイントロがあったら、バトル開始の勢いにあんなにハマらないと思います。「ビシュ〜ン!(エンカウントする音)チャーンチャーンチャーン!(「MEGALOMANIA」の冒頭)」このインパクトですよね。衝撃的でした!

私は「これはイントロなくていいな」と思うとつけないんですけど、音楽業界のプロの方からは「何でイントロないの?」と結構聞かれることもあるんです。でもおっしゃる通り、イントロがあったらあのインパクトにはならないと思うんですよね。だけど、J-POPにもイントロなしでサビから始まる曲もあるし、私はいいんじゃないかなって思っていたので、トビーさんにも「そう!」って同意しもらえてうれしいです。

ゲーム音楽は、曲自体の素晴らしさはもちろんあるけど、使われどころもすごく大事で、バシッとハマる瞬間に一番効果を発揮すると思うんです。どのチャプターでも最後にイントロなしでバン!と始まるパワフルな「MEGALOMANIA」だけじゃなくて、『ライブアライブ』は他の曲も掛かるタイミングや使われどころが本当にすごいんですよね。

『ライブアライブ』の音楽について

『ライブアライブ』では各チャプターごとにシナリオに沿ったユニークな楽曲が作られていて、それももちろん素晴らしいんですが、どのチャプターでも流れる共通のメロディを使用した楽曲も存在していて、それも素晴らしいんです。悲しいシーンで流れる「CRY・A・LIVE」と、ハッピーなシーンで流れる「WARM・A・LIVE」……この2曲はオープニング曲「LIVE・A・LIVE」のメロディが違うトーンで使われていますよね。プレイヤーは同じメロディを繰り返し聴くたび、耳に馴染んでいって、どんどんエモーショナルに聴こえる効果がありますよね。そしてこれはどっちが先に意図してこうなったのか分からないけど、オープニング曲として聴いていた「LIVE・A・LIVE」が、「最終章」ではバトル曲になる。本当に楽曲が効果的に使われていると思います。鳥肌ものすぎる。「MEGALOMANIA」もそうです。違うチャプターで遊んでいても、同じビートが流れると、戦いの記憶が蘇って感情も高まる。それに作品としてのまとまりも出ますよね。

各章共通の曲で同じメロディを使うことに関しては、そういった発注があったのでしょうか?

そこについては私がアイディアを出しました。私は何度も聴いて覚えてもらうことを「刷り込み」って呼んでいます。映画音楽でもメインテーマのメロディが色々なシーンで使用されていることがありますよね。戦っているシーンで耳を澄ましてみると「あれ、これはメインテーマのメロディだ」みたいに。私は映画音楽を意識した訳ではないんですけれど、ソナタ形式で、第一主題、第二主題があって、展開部があって、また再現部で戻ってきて……そうやってメロディを覚えていくようなイメージです。何度もメロディを聴いてもらって覚えてもらうって効果的だなって自然と思っていたんですよね。『ライブアライブ』で初めてRPGに全曲書かせてもらえることになって、その手法にチャレンジしたいと思ったんです。悲しい曲とか気持ちが温かくなる曲みたいなリクエストのときに、「テーマ音楽のアレンジでやってみませんか?」って提案をした記憶があります。そして、オープニング曲の「LIVE・A・LIVE」が「最終編」のバトル曲になっていたのは、最初からそういう計画だったのかは分からないですが、時田さんが決めたんですよ。色々と「そっちがこうなら、こっちはこうする!」って、時田さんと私でいい相乗効果みたいになっていたんだと思います。

オープニング曲がラスボス曲になるのは超超超超超超カッコいいと思います!

例えば一つのお仕事で50曲を書くとして、50曲全部が違う曲だったら、聴いてくれた人にその中で何曲を覚えてもらえるんだろうって思うんです。だったら何曲かをメインテーマや他の曲のアレンジにすれば、より効果的に「ここでこう来るか」とか「こいつだったのか〜!」と演出できるのでいいと思うんですよね。曲がしっかりシーンに合った場所で、プレイヤーさんの気持ちに入っていく使い方であれば、実は曲数はたくさんいらないんじゃないかなって思うこともあります。中には50曲全部違う曲が欲しいというディレクターさんもいらっしゃるんですが、それを直訴すると「手ぇ抜きたいんじゃないの?」って言われてショックを受けることもあります(笑)

『ライブアライブ』は時代背景も主人公も全く違うチャプターに個性的な曲が書かれていて、それぞれの3曲ずつくらいありますよね。

それも決めてましたね。そのチャプターのテーマと、フィールドと、バトルの3曲はそれぞれ独立させて全然違う曲にしよう、って。

どの曲も全く違う雰囲気でメロディだけれど、プレイヤーは『ライブアライブ』の曲は全て覚えているんですよね。

「曲数が多い=いい」ではないとぼくも思います。プレイヤーは長く聴き続けていた曲ほど覚えているので、その分サウンドトラックが思い出深いものになりますよね。

トビーさんも同じように、オープニングのモチーフを別のシーンで効果的に使われていますよね。

そうですね。確実に『ライブアライブ』の影響があります。

新曲「GIGALOMANIA」について

さて「MEGALOMANIA」のお話も出たので、今度はHD-2Dリメイク版の新曲「GIGALOMANIA」についてお伺いしたいと思います。

イントロのアレンジがとてもいいですよね。

ありがとうございます。イントロに「MEGALOMANIA」、中盤で「届かぬ翼」のメロディを組み込んでいます。

発売日当日までファンどころかプレス媒体にもその存在を伏せられていた「GIGALOMANIA」ですが、実はそのイントロがPVに使われていたんですよね。

そうなんですよ。一番初めのPVが公開されたとき「すっごくネタバレになるけどこの曲で大丈夫?」とヒヤヒヤしていました。

時田さんの「オリジナル版からの変更はありません」宣言を信じてネタバレを伏せながら遊んでいたプレイヤーは、ラスボスバトルとまさかの新曲に衝撃を受け、さらにクリア後の楽曲解放で曲名を見てさらに衝撃を受ける図式でした。新曲の追加はリメイク決定当初から決まっていたのですか?

時田さんから「新曲を1曲だけ発注したい。タイトルも「GIGALOMANIA」と決まっている」とだけ言われていました。私は「MEGALOMANIA」なら意味のある単語(誇大妄想)だけど、「GIGALOMANIA」になったら完全に造語やん!と思っていました。「そんな言葉無いし、MEGAの次はGIGAか〜」って(笑)。今はネットでも「次はTERALOMANIAかな?」なんて言われたりしていて、「TERALOって語呂がすんごい弱そう」って笑いました。
とにかく、新曲の追加とタイトルも決まっている状態で、曲の内容はおまかせだったんですが、一つだけ「MEGALOMANIA」の”さらに次”という曲を作ってほしいとだけは言われていました。そう言われてしまうと着手するまでにすごく時間が掛かってしまって……。着手してからは、トラックも多かったので「MEGALOMANIA」みたいに1時間とはいきませんでしたけど、早かったですけどね。初稿を出すまでの「どうしようかな」と悩んでいる時間が本当に長すぎましたね。

人々の思い出が詰まって育った「MEGALOMANIA」の”さらに次”の曲を書くということは、ある意味過去の自分を超える戦いですもんね。

そんなに大袈裟なものではないですけど(笑) 初稿の段階で、イントロのピアノのフレーズから「MEGALOMANIA」のフレーズに続く様子がセットでポンと頭に出て来たので、そこからは「これしかない」という感じでダーッと書き上げることができました。時田さんにそのデモを提出するときは不安がありつつも「これ以上のものは出せないなあ」と思いながら出しました。時田さんからはすぐ「すごくいい」と返事をいただけて安心しました。OKをもらったんですけど、その後冷静になって何回か聴いていたら、当初作った曲終わりよりも先の部分ががどうしても頭の中で聴こえてくるので急いで作業して……実は最後の最後の部分は伸ばして後から付け足しました。こんなに頭の中で鳴ってるってことは足さなきゃダメだと思って「直させてください」とお願いしたんです。

なんと!そうだったのですね。そして「GIGALOMANIA」が生まれたということは、トビーさんも「GIGALOVANIA」を作るフラグになるのでしょうか?

マジレスすると、もし自分で”その次”の曲を作ることになったとしても名前は「GIGALOVANIA」じゃない別の響きのものに変えるかもしれませんね。

新たにアレンジされた楽曲について

トビーさん『ライブアライブ』の楽曲で「MEGALOMANIA」以外のお気に入りの曲はありますか?

ぼくは元々、オリジナル版だと「LIVE・A・LIVE」、「MEGALOMANIA」、「原始編」、「近未来編」と「中世編」……全部大好きで、サウンドトラックもずっと聴いていたんです。
アレンジ版も全体的に気に入っています。「近未来編」だとバトル曲「PSYCHOで夜露死苦!!」もいいですよね。下村さんがレトロでノスタルジックな感じを出すときに、アコーディオンやハーモニカの音色を使っているのに気付いて、すごく興味深いなと思いました。「近未来編」は今よりちょっと先の未来が舞台で、主人公も超能力者なんだけど、曲も含めてちょっとレトロなんですよね。

そうなんです。「近未来編」って、未来とは謳っているけど、ちょっとレトロじゃないですか。逆に昭和っぽい感じがありますよね。何で「近未来編」なんだろう?って感じ。なので懐かしさを出すために、学校にあるようなハーモニカやアコーディオンの音を使ったりして、ちょっとノスタルジックな感じにしてみました。

すごく納得できます。ブリキ大王もザ・王道ですもんね。

「GO!GO!ブリキ大王!!」は本当にベタですよね。

『LIVE A LIVE HD-2D Remake Original Soundtrack』の曲はどれも素敵で、どの曲も最新の技術で生まれ変わっているけど、「GO!GO!ブリキ大王!!」がこういった形でリメイクされたのが最高の出来事だったんじゃないかって思います。

影山ヒロノブさんに歌っていただくこともリメイク制作が決定した最初から決まっていたんですよ。当初オリジナル版を作っていたときにも、「影山ヒロノブさんにいつか歌ってもらいたいね」って、そんなこと叶うわけないじゃんと思いつつも言っていたんです。まさか28年経って本当に大御所に歌ってもらえるとは思ってもいなかったので、諦めちゃダメだなと思いましたね。時田さんがずっと”歌ってもらいたい”という気持ちを持ち続けていたので、今回のコラボレーションに繋がったと思うので。影山ヒロノブさんにお会いしたのも今回が初めてだったんですが、お忙しい大御所さんなのに本当に素敵な方で、こんな方に歌ってもらえるなんて光栄ですし、作曲してきてよかったなと思いました。

実現してぼくも本当にうれしいです。影山さん、ぼくがオファーしても歌ってくれるかな……?
他のお気に入りだと「功夫編」のバトル曲「在中国的戦闘」で二胡が使われているのもいいなと思いました。「中世編」はあまり語りすぎると壮大なネタバレになりそうだけど、バトル曲の「凛然なる戦い」もすごく好きです。ただカッコいいだけじゃなく緊張感があって、これぞ熾烈な戦いという感じもするし、主人公の苦悩も見えて、これからどんどんストーリーが悪い方向に進んでいく予兆も感じられて、曲が持っている張り詰めたような感情がとてもお気に入りです。あとスラップベースもね。全ての曲に思い入れがありすぎて、1曲ずつそれぞれ永遠に語り続けられます。

光栄です!『ライブアライブ』って本当にファンの方の愛で支えられているんだなってしみじみ感じます。続編も存在しない1度きりの作品なのに、28年経ってもこうやって愛してくださる方がいて、ライブをするとなってもいらっしゃってくださるファンの方がいる。ありがたいです。

アレンジで大切にしていた気持ちについて

バトル曲は全体的にオリジナル版のロックな感じから結構変わっていて、それぞれの差がより際立つようになっているなと感じました。下村さんが自らアレンジされた曲もあるのですか?

私は基本的には監修担当だったのですが、実は私自身がデータも書いてアレンジに参加した曲もありました。今回は最初にオーケストラアレンジをする曲と、バンドアレンジをする曲に分けてチーム制で動いていたんです。バンドアレンジについてはバンド系の人で担当を立ててアレンジもお任せして、私自身がアレンジで参加したのはオーケストラ楽曲の方です。

私はアレンジをすることを”キレイにお化粧をする”や”素敵なお洋服を着せる”と表現しています。原曲があると、オリジナル版に勝つことはどう足掻いても難しいので、勝負をしてはいけないと私は思っているんです。時を経て変化していく人間と同じで、20数年前にあった美しさを完全に復元するのは無理なので、昔の美しい思い出は壊さずにそのままにしてあげて、今の魅力を引き出しつつ”お化粧”をしてあげることが音楽をリメイクすることだと考えているんです。『ライブアライブ』も、たくさんのファンの方に長く愛していただいている楽曲なので、ファンの方の気持ちを大切にアレンジしたいという気持ちで動いていました。

『ライブアライブ』のDNAは続いていく

『ライブアライブ』はファンの方に支えていただいている作品で、海外でもご支持をいただいたことで、英語版のボイスと各言語にローカライズされた海外版を発売することもできたと思っています。感謝しかないですよね。作品のオマージュを取り入れて『UNDERTALE』を作ってくれたトビーさんのようなかたも現れて、こうやってお会いして深いお話もさせていただけて、『ライブアライブ』という作品を介して繋がっていく感じがすごいなと思います。

まさに『ライブアライブ』みたいですよね!色々な人たちがそれぞれの場所から集まる……作品の持つパワーですね。こんなゲームは後にも先にも生まれないと思います。『ライブアライブ』みたいなゲームは『ライブアライブ』しかない。RPGで、チャプター毎にこんなに個性の違う主人公たちがいて、それぞれが違うストーリーを織りなして、集結する……スーパーファミコンのソフトの中でも唯一無二の異彩を放っていたと思います。最高の音楽も相まって、2度と同じものは作れない、他の誰にも真似できないようなエモーショナルな味を出せた奇跡的な作品だと思います。熱い情熱のあるファンがたくさんいるのも納得ですよ。

そろそろお時間がやってまいりました。最後に改めてお互いに向けて一言いただいてもよろしいでしょうか?

世代も生まれて育った国も違うけど、ゲームを通して繋がることができて、素敵なお話もできて、私もモチベーションが上がりました。私も『UNDERTALE』を遊んでみます!

もう終わり?タイムスリップしちゃったみたい!下村さん、今日はお話しするお時間をいただきありがとうございました。大きな影響を受けた方とお話しできてとても光栄でした。下村さんが作った音楽がなければ、ぼくの音楽も生まれなかったでしょう。これからも影響を与え続けてください。

ありがとうございました。たくさん良いお話が聞けて、たくさん褒めていただけて(笑)、とっても嬉しいです。また語らいましょう!

『LIVE A LIVE HD-2D Remake Original Soundtrack』は各CDショップ、オンラインにて好評発売中です。この機会に是非、『ライブアライブ』の音楽の世界に触れてみてくださいね。

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