BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS
REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[第010章] 10-1
使者王麗
大講堂の扉を開けると、デバコフ教授やイヴァールといったいつもの面々の他に、火の将王麗がひとりのザレル兵を従えて立っていた。
「このザレルの方が、君たちが来るまで待つようニト...」
挨拶すらまだのようだった。
(さあ、どウゾ)と教授に促された王麗が、手にした羽扇を胸に当てて姿勢を正して名乗った。
「ザレル・ウルス大王、ザレル2世の使者、ザレル火の将王麗にございます」
そう言って王麗も、お供の兵も軽く頭を下げる。
「錬金の街を預かっておりマス、錬金学ゼミナール教授、デバコフデス」
教授の挨拶を聞いて、涼やかな火の将王麗の表情が一瞬硬くなる。
デバコフという名に驚いているようにも見えた。
「お前、教授の姿を見て、よく驚かねぇな...」
スティールが、(それでも)思ったよりは平静を保てている王麗に、気軽に話しかける。
「かなり動揺しているわ...。お姿の他にもいろいろとね...」
つい王麗の方でも返事をしていたが、慌てて教授の方に向き直る。
(このスティールの砕けた態度は、国家の代表である正使に対してのそれではない! ...と、教授ともども後ほどイヴァールにこっぴどく叱られていた。)
本来ならば、街役人のウエニオ・モネールが応対するのが筋であるが、そのモネールさんは急な体調不良とかで出仕していない。
ザレル軍の火の将が来た...その一事をもって怖くなってしまったのだという。
「して...、ザレルの四将ともあろうお方が、この辺鄙な街へ、どのようなご用ですカナ?」
教授にこう促された王麗であったが、さっきからずっと教授の姿を見て何かを考えているようだった。
(どうされまシタ?)小首を傾げた教授を見て、ふと我に返った王麗は、再び姿勢を正して2つの宣言をする...。
「我が大王ザレル2世が20年にも及ぶ眠りから目を覚まされたこと...」
私たち錬金ゼミ生の間に、驚きが走る。
(やはり、ザレル側でも8つの命脈をすべて揃い終えたということか...)
「もうひとつは...」
王麗は、一旦私たちの方に視線を移す...。
「(ブラスに対する)降伏勧告ってわけかい...?」
珍しくサンディが突っかかるも、王麗は静かにかぶりを振る。
「いいえ、クランブルス共和国への宣戦布告状を持参いたしました...!」
そう言うと、お供の兵から手渡された巻物を、デバコフ教授に差し出した。
クランブルス共和国とザレル・ウルスは、かれこれ20年前からの交戦状態...。
四将のひとりである王麗が、わざわざ宣戦布告の使者としてブラスにやってくる意味がわからなかった...。
「どういうことだ...? 22年前といい、異世界でのお前たちといい、騙し討ちはお前らザレルのお家芸じゃねぇか」
「今さらあらたまって宣戦布告とはねぇ...」
スティールもサンディも、疑問を呈すふりをして半ば煽りにかかっている。
そんな挑発には乗らず、王麗は粛々と宣言の解説をする。
「その22年前、『王都の戦い』を、我が主ザレル2世は悔いております」
大王ザレル2世は22年前、クランブル王都へ攻撃を開始する2か月前に、当時、王国の実権を掌握していた四家に対し、「2か月後、王都にて相まみえようぞ」と...宣戦布告状を送ったものだが、王家と確執があった四家がそれを握り潰した。
それによって無防備な王都がザレルの急襲に遭うことになり、スティールの父親の宰相ランケード伯がザレル2世の軍門でその非を詰りながら憤死した。
伯の死を悼み、あらためて宣戦を布告し直したザレル2世であったが、その後、何の手ごたえもなく王都が陥落し、クランブルス側に最初の宣戦布告状が届いていなかったことを知り、嚇怒(かくど)するとともに大いに後悔したのだという。
それで、今回は正々堂々と宣戦を布告するために、ザレル四将をはじめ、ザレルの重臣が使者となり、クランブルス新都、国境の街ニーザ、カシオタの街をはじめとする旧四家の本拠地...クランブルスの主要都市すべてに対して、一斉に使者を送ったのだという。
全主要都市に一斉に宣戦布告...。
これによって、どこの誰に握り潰されようとも布告はしたという証にはなる。
(ガイラとかナンナンに使者が務まんのかよ...早くも飽きだしている約2名の口が軽くなる)
此度の宣戦布告には、ザレル大王の並々ならぬ決意...意地のようなものを感じる。
「我が主ザレル2世の意地、そして先々代、ザラール帝の遺志にございます」
...と、大王のみならず、ザレルの臣民すべての総意であることを、王麗は付け加えた。
「そこを敢えて申し上げまスガ...。その戦いを避けることはできないのでしょウカ...」
教授は、ブラスの代表として当然の交渉を持ちかけたが、王麗はゆっくりとかぶりを振ってそれが聞き入れられないことを告げる。
ザレルは、「赤子以外皆戦士なり」といわれるほどの戦闘民族。
ザレルにその気風がある以上、戦を話し合いで回避するなど、大王や重臣たちが認めたとしても、民が許さないとのこと...。
「じゃあ、その古臭い戦のならいとして宣戦布告の使者のそっ首を撥ねてもいいって言うんだね?」
サンディが半ば無理筋な挑発をしても、王麗はまったく乗ってこない。
むしろ、それすら覚悟してここに足を運んだようだ。
「それもよいでしょう。しかし、その場合は私の首をこの者にお渡しくださいね」
王麗の首を預かったこの従者が、ブラスの街の戦意をザレル2世へと伝えてくれるだろう...。
王麗が、かつてのランケード伯の勇気を真似ているのは明らかだった。
それに気づいたスティールも、言葉を挟めないでいる。
大講堂の空気は張り詰め、重苦しくなった。
「王麗殿、今夜は宿でゆっくりしてくだサイ。明日、あらためて布告状への返事をいたしマス」
教授が、ひとまずはこレデ...と、王麗に退室を促す。
場の空気を祓うように、王麗も軽い口調で答礼をする。
「ありがとうございます。つきましては、ここ錬金の街ブラスを見学して回りたいのですが...」
これには、錬金ゼミの血の気担当ならずとも、不満の声が上がったが、教授はひょうひょうとしている。
「よいでしょう。隠したい軍事施設があるわけでもないでスシ...」
城壁の崩れから何から隅々まで見てもらうとよい。
デバコフ教授が20年間、手塩にかけて造り上げた血砂のオアシス...自慢の街なのだから...。
この教授の言葉を聞いていた王麗は、何を思うのか...私は是非聞いてみたかった。