BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS
REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[第001章] 1-12
土のクリスタル
ガラハードという人は、『摂理の塔』の入り口を守っていると聞いていたが、塔の入り口には誰もいなかった。
そのまま摂理の塔に入った私たちは、クリスタルの在処を目指して、塔の中を探索して回る。
見れば、堅牢そうな石壁を太い樹木の蔓が貫通し、絡みあっている。
しばらく歩いていると、目の前を歩いていたサンディが立ち止まる...。
先頭のスティールは、柱の物陰から前方を注視している。
眼鏡をかけた屈強な大男が、城を連想させる鎧を着こみ、巨大な盾を構えて屹立している。
「よ~し、ここは俺の俊足で...」
「あたしの百人力で...」
「僕の超魔法で...」
みんな、それぞれ自分の得意分野で強敵を攻略する気満々...。
ザレル軍に劣らず尚武の気風を尊んでいるゼミの後輩たちを、何とかなだめる。
アモナが、ガラハードを説得しようと申し出てくれたが、この世の生者は霊魂であるアモナの姿を見ることはできない。
業を煮やしたルミナが何かを念じ、発光体がアモナの中に入ってゆく...。
「これで、この町に生きる者にもアモナの姿が見え、少しだけなら話すこともできるようになったわ」
話すことも...そういわれてアモナはうつむいた。
この機会を、お母さんやお父さんと過ごすことに使うこともできる...。
アモナは、顔をあげてかぶりを振ってガラハードの元へ向かっていった。
「おい、あんなこと言う必要あったのか?」
少し怒りをにじませたスティールの問いに、ルミナは何も答えなかった。
***
「だ、誰だっ...!!」
異常なほどに昂ったガラハードの声が塔内に響き渡る...。
「き、君は、アモナ...!! どうして...、そんなはずは...」
ガラハードの声は恐れにも似たものに変わり、やがて涙声になってゆく。
アモナ、すまないアモナ...。
俺は、君を守ってやれなかった...。
いつもと変わらぬ昼下がりだった...。
ロディさんに届け物をするという君と挨拶を交わした俺は、その荷物を検めなかった...。
魔導研究所の門衛として、やらねばならぬ責務を怠ったせいで、アモナ...君を、君を...おおおおおっ...!
アモナの前にひざまずいたガラハードの巨体がくの字に折れ曲がり、地に突っ伏した彼の嗚咽が響き渡る。
「あれはね、最初から仕組まれていたことだから...」
ガラハードの肩にそっと手をやったアモナは、私たちの方を見てうなずいた。
私たちは、アモナに跪いて号泣するガラハードの側を素通りして、奥へと進んだ。
***
ガラハードが立っていた回廊のすぐ奥の広間に、台座の上に浮遊する輝石があった。
「こ、これが、土のクリスタル...!」
広間には、硬質な音が響き渡り、少しだけ妖しい輝きを土のクリスタルは放っていた。
ルミナによると、少し暴走しているらしい。
ウィズワルドの町を覆う樹木は、その暴走が原因...ということなのか...。
少し離れたところでガラハードがアモナに詫び続けている。
しかし、感情の昂りは収まってきている...時間がなかった。
***
土の息吹を分けてもらおうというルミナは、びっくりするぐらいに無策だった。
特別な儀式があるわけでもなく、ルミナ自身に息吹を導き出す技や特技があるわけでもなく...ただただ誠意をこめてお願いしてみるというのだ。
元来、祈祷や儀式とはそういうものかもしれないねぇ...サンディが大剣を振り回す冒険家が言いそうにないことを言って私たちを妙に納得させてはいたけれど、ただのお願いではどうしても心もとない。
ルーファスが、ルミナがどんなことをお願いするつもりか聞いて、その言葉を古語調に直してやるよと申し出て、なにやらゴニョゴニョ相談している...。
***
土のクリスタルに向かって私がランタンをかかげ、そのランタンの中でルミナが両手を広げて胸を張る...。
「わ、我は、ルミナ」
ルミナが緊張している。ルミナが小刻みに震えているのがランタンを伝ってわかった。
「遠き世界の、クリスタルの母となる者なり!」
ここまで言い終えると、ルミナは残りを一気に言い切ろうとする。
かの地の土の災厄を祓い、荒廃を止めるため、願わくば、つ、土の息吹を分けたへ...らるとかたじけ...ンギャッ...!!
最後は口が回らず、思いっきり舌を噛んでいた。
古語調に訳してもらった祝詞では、感情が伝わらないと踏んだのか、ルミナが素の願いを土のクリスタルに捧げる。
「私たちがいる世界の荒廃を止めるため、どうしても土の息吹が必要なの。私に、土の息吹をわけてもらえないかしら。お願いっ...!」
ルミナの願いが通じたのか、土のクリスタルが優しく輝きだし、その内部から輝く光が現出し、私が掲げるランタンの周りをゆっくりと回る。まるで祝福してくれているかのように...。
***
ルミナの右側の羽の一番上の紋章に光が灯り、瞑目していたルミナはそっと目を開ける。土の息吹はもらえたのだろうか...。
ヴェルメリオの災厄が祓われたかどうかは、現地に戻って確かめてみないとなんともいえないらしい。
ふと、スティールが考え込んでいるルーファスに声をかける。
ルーファスは、この町の状況を放っておいてよいのか...思い続けているようだったけど、それをするのはエルヴィスさんたちの役目...とアモナも言っていた。
一度反論しかけたルーファスが、思案の末に最後は納得していた。
ルミナが賢者の間へ戻ると宣言し、みながランタンを掲げる私の周囲に集まる。
ルミナが念じると、私の足元に魔法陣が現れて輝きだす。
またあの感覚だ...そう思っていると足元の光がどんどん増幅する。
...遠くで跪くガラハードの横で、アモナが私たちにそっとうなずくのが見えた。
(あれ...? アモナが、何かを見て怯えている...? いったい何に...)
私たちは、光に包まれた...。
***
ザレルの都、大都の地下深く...『繭の玉座』にて...。
大神官に復命した土の将ガイラは、自身の不手際を包み隠さず報告していた。
任務を遂行せずにおめおめと逃げかえってきたガイラに、不思議と大神官の声は厳しくなかった。
サージの姿が見えないことを大神官が指摘すると、ガイラは自身を撤退させるためにしんがりを務め、獅子奮迅の働きをしたと報告した。
大神官は、ガイラに「下がって傷を癒せ。次なる出撃に備えるのだ」そう言って背中を見せた。
ガイラは、今にも倒れそうな配下に肩を貸して、玉座の間から退室した...。