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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第006章] 6-16

風の神殿へ

担当:クレア

私たちは、ナダラケスの街の南方にある『風の渓谷』にやってきていた。

ナダラケス宰相が風の神殿への案内に派遣してくれたのは、以前、風の神殿に所属していたという修道女だった。

「あ、あの岩場の向こうに建つのががが、か、風の神殿にな、なります、はい...」

風の神殿は魔物で溢れ、たまたまラクリーカの街に説法に来ていたこの修道女は難を逃れられたというが、再び神殿に向かうことがよほど恐ろしいのか、言動がおかしい。

「ちったぁ落ち着きなよ。大丈夫。その辺の魔物よりは俺たちの方が強ぇから」
スティールがなだめ、深呼吸させるもまったく落ち着く様子はない。

「風が、まったく吹いていません」
修道女は、渓谷内に風が吹いていないのを訝しがった。

風のクリスタルから生まれた風は、この渓谷の中でどんどん大きくなって大きな風となり、やがて世界中を巡ってゆくのだという。
それが、微風ひとつ吹いていない...。
やはり、風のクリスタルはもう...。

風のクリスタルの安否は置いておくとしても、神殿内に魔物が溢れていることだけは確実そうだった。
真正面から突っ込んで、大量の魔物に襲われ、戦いながら祭壇まで進むというのもキツいものがある。

なるべく戦いは避けたい...私たちがそう話していると、修道女は手製の地図を差し出して示した。
地図には、クリスタル祭壇に続く回廊が描かれており、壁の一部に×印がつけてある。

そこは、外壁の一部が崩れている個所であり、そこから回廊内へ侵入し祭壇へ向かえるという。

修道女に礼を言い、案内はここまででいいから(比較的安全な)この地にとどまるように伝えると、自分も祭壇まで案内すると言ってきかない。

私たちとしては、修道女を守りながらの行軍は負担になるので正直避けたかった。
何とかなだめてこの場にとどめようとしていると、
「だ、だ、ダメです...! 宰相からしっかり監視するようにと...」
...と思わず口にしてしまう修道女...。

案内人と見せかけて、監視人でもあるということか...。
あるいは、こうしている姿をどこかで見ている者もいるのかもしれない。
スティールは、ナダラケス宰相を抜け目ないオッサンだぜと評したが、ある意味やり手で頼もしいともいえた。

私たちは、修道女をなんとかなだめてこの地にとどまらせることができ、神殿へ向かうことにした。

***

外壁が崩れた部分から、祭壇へ向かう回廊へと侵入した。
風の神殿も他の神殿と同様に、最奥に巨大なドーム型の祭壇の間が存在する。
回廊に立ってみると、魔物の気配で溢れていた。
あんなに同行するといってきかなかったのに、修道女は、サンディが持つ正教騎士団章を見せたら大人しくなった。

クリスタル正教における正教騎士団が、よほど信頼がおけるという証左なのか、単に恐ろしくて仕方がなく、そんな時に見せられた騎士団章に、渡りに舟と感じ乗ってしまったのかは微妙なところだった。

***

風のクリスタル祭壇...ドーム状の広間に浮かぶ、おそらくは風のクリスタルであろう巨大なものは、真っ黒な、殻のような何かに覆われている。

あれが、闇だというのだろうか...。

「今までのクリスタルからは、威厳のような、ヒリヒリするような圧を感じたけど、このクリスタルから感じるのは、重くおぞましい、今すぐここから逃げ出したくなるような恐怖を感じるよ」

ルーファスが、独特の表現で感想を述べ、私たちは息吹の儀式を済ませるべく準備をし始めた。

ルミナによれば、風のクリスタルからはほとんど力を感じないという。
自分の祈りが届いてくれるか不安がっていると、突如、黒い澱(おり)のようなものが沸き上がり、実体化してゆく...!

翼を持つ巨大な...そして2つの頭を持つ犬のような魔物が唸り声をあげる。

こんなところで戦えば、風のクリスタルへの被害は免れない...私たちが戦闘を躊躇っていると、ルミナが思いもよらない言葉を発した。

「みんな、これからあの空間を呼び出すから、思う存分戦うのよ!!」

突然、周囲の風景が、あの巨大な石柱が宙に舞う世界に変化する...。

「こ、ここは...、ザレルの将が呼び出すあの空間じゃないか...!!」
「ルミナも、呼び出すことができるの...?」
「あいつはここに来ていねぇけどな!」
「さあ、くるよっ!!」

死闘が始まった。

***

その2つの頭がある犬形の魔物は大人しくなり、私たちの周囲の風景も元の風の神殿へと変わった。

どうやら元の世界に戻ってこれたようだ。
あの犬形の魔物も一緒だが、すぐに動き出せる状況ではないらしい。

「さあ、ちゃんと説明してもらおうか...」
スティールがルミナに詰め寄り、サンディもルーファスも大きくうなずく。

"どうしてルミナもあの空間を呼び出せるのか"

ルミナは、戸惑うでも狼狽するでもなく平然と答える。
「あれは、失われた錬金の技術...。錬金術で創り出された私が使えるのは当たり前じゃない」

...ということは、私にもあの巨大な石柱が宙に浮かぶ世界を...(別に呼び出したいわけではないけれど)呼び出すことができるということなのか...?

ルミナは、「クレアは多分使えるようになる」、「クレアを操った時、その素養があるのを感じた」らしい。

操った時とは、おそらくは私たちが最初に出会った時の、あの瓦礫を宙に停止させた時のことだろう...。

多分使えるようになるということは、まだ使えないということか...。
...であるならば、なぜザレルの将がその術を使えるのか...?

土の将ガイラも、水の将ソーニャも、風の将ナンナンも錬金術などはとても身につけているようには見えなかったが、ザレルにも古の錬金術を知る者がいることは確からしい。

うずくまっている犬形の魔物が時折うなり声をあげる...。
どうやら闇を吸って、回復しているらしい。

しばらくは動けなさそうな今が、儀式をする数少ないチャンスだった...。

***

「我は、ルミナ。遠きヴェルメリオの世界にてクリスタルの母となる者なり! かの地の風の災厄を祓い、さらなる荒廃を止めるため、願わくば、風の息吹を分け賜えらるとかたじけなく...」

ルミナが祝詞を口にすると、今までならば息吹が出現する頃合いなのに闇に覆われた風のクリスタルは何の反応も示さない...。

「...願わくば、風の息吹を分け賜えらるとかたじけなく...頑張ってっ!!」
ルミナが念を込め、さらなる祝詞の一文を口にすると、ようやく闇の殻の隙間から、ほのかな光が現出する...!!

光は、ゆっくりとランタンの周囲を回り、ルミナの羽に、2つ目の風の紋様が点灯する...。

風の息吹の儀式は無事終了した。
あの犬形の魔物は、相変らず闇を吸って徐々に回復しているらしい。

またお前らを襲ってやる...そんな意思を感じる唸り声をあげている。

闇に覆われた風の神殿の中では、闇は無尽蔵にあふれ出てくる...つまり、事実上この犬形の魔物を倒しきる手立てはないということになる。

たとえルミナであっても、風のクリスタルから闇を祓うことはできないらしい。
ここは、魔物が動かないうちに撤退すべきだろう...。
私たちは、魔物の横をすり抜けるようにして祭壇の間を後にした。