BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第009章] 9-19

王の退去

担当:スティール・フランクリン

黄金に輝く甲冑も、金糸銀糸で彩られた豪奢な法衣も血砂にまみれて赤黒くくすんでいた...。

「俺が...、クランブルスの国王が...膝を...」

全身を震わせながら必死で堪えていたが、ブルースの野郎がとうとう膝をついた...。
すぐさま立ち上がろうとしても痙攣する足がそれを許さない。

一歩下がった位置でテロールのおっさんが突っ立っている。
まだまだ戦える体力は残っていそうではあったが、おっさんの中でそのつもりは、もうないのだろう...。

歯を食いしばり、拳で何度も何度も自らの太腿を殴り続け痙攣を収めたブルースは、よろけながらも立ち上がる...!!

「認めんっ...!! 認めんぞぉ~~~っ!!」

ガトリング砲を担ぎ上げ、クレアに向かって銃口を向け、連射のハンドルを回す...!!

轟音、むせかえる硝煙の匂い...。
弾け飛んだ無数の薬莢が、血砂に落ちてゆく音...。

(ざまあみろっ! これで、これで...!!)

満面の笑みをたたえるはずだったブルースの表情が歪み、強張る...。

ブルースのガトリング砲から放たれた銃弾は、デバコフ教授が錬成したバリアによってすべて弾き返されていた...。

両膝から崩れ落ちたブルースは、今度こそ立ち直れそうになかった...。

「ブルース元国王、もうよいでしョウ」

デバコフ教授の声とともに、第三陣の壊滅、第四陣の壊走の方が届くが、果たしてブルースの耳に届いていただろうか...。

***

最後のエリートバエルが、大きな音を立てて崩れ落ちていた...。

ハインケルのおっさんが、エリートバエルのハッチを強制的に開くと、中にいた王軍兵士は両手を上げて降参の意を示していた。

「ふ~、これで最後だな...」
ヴィクターに五十肩と診断された肩をゴキゴキと鳴らしながら戻ってくるおっさんを出迎えたのはイヴァールだった。

(戦はからっきしのガリ勉小僧だと聞いていたのだがな...)
ハインケルのおっさんは、自分を見上げる半ズボンの小僧がとても大きく見えたものだった。

ブラスに侵入したエリートバエルの半数以上は、イヴァールたちの活躍で内堀に架けられた石橋からつき落とされていた。

城門を越え、石橋に殺到したエリートバエルたちは、広場に陣取るハインケルのおっさんたちに照準を合わせたが、急に方向を変えて次々と内堀の中に落下していった...。

イヴァールとイデア、そしてリズは、街の人から借りてきたという大ダライに何か液体を入れて石橋に撒いていた...。

「いったいどんな魔法を使ったんだ...?」
おっさんの問いに、イヴァールはモノクルをキラリとさせて得意げに言った。

「魔法...? 魔法なんかじゃないです。これは、化学の力ですよ」

種明かしはこうだ。
まずはイデアとリズが、街の洗濯場にたむろしているおばちゃんたちからありったけの石鹸をもらってきて、イヴァールが化学の知識を活かして精製に精製を重ねて特製の石鹸水を大量に作って、内堀に架かる石橋の上にぶちまけてきた。

粘性の高い石鹸水が撒かれた石橋の上は、非常に滑りやすくなる。
エリートバエルの金属製の脚も例外ではなく、補助脚を展開した数両以外はすべて堀の中へと真っ逆さまに落下した。

以前、地下遺跡の中で光の球でやってきた『超弩級戦者バエル・改』と戦った時、苔で滑ってバランスを崩すバエル・改の姿を見ていた俺は、(こいつらは石畳や鉄板などの硬い地面の上で戦う想定がされていないのではないか?)と推測し、最初にブラスに攻めてきたエリートバエルの脚部に何の改良も加えられていないことを確認し、イヴァールにこの作戦を打ち明けていたのだ。

***

避難していた住民は、ひとりの落伍者もなく街へと戻ってきた。
捕らえた王軍兵士は、武器を没収した上で居留地に押しこんでいて、希望者は城外へ放つことにしていた。

侵略者に甘いのではないか...そんな声もあったが、捕虜の無体な扱いはデバコフ教授から厳に戒められていた。

(もっとも、赦されざる狼藉を働いた敵兵に、捕縛で済んだ者など誰もいないというだけの話でもあるが...)

***

50両あったエリートバエルのほとんどが、もう動かなかった。
ブルースが、長い年月と私財のほとんどを費やした王軍は、壊乱した。

「こ、殺せ...! 敗残の王など、殺すがいい!!」

最後の最後まで虚勢を張り喚き散らすブルースは、哀れなほどに無様だった。
デバコフ教授が、その命を狙われたクレアにブルースの処遇を委ねると、クレアは迷わずテロール将軍の目を見て言った。

「あなたには、敗残の王軍を、将軍として束ねてもらわねばなりません」

「そして、ブルース元国王をあなたにお預けします」

(まあ、そんなところだろうな...)
クレアに処遇を任せた時点で、ブルースを断罪する線はなくなっていた。

「...機工島ゲレスは、かねてよりクランブルス共和国からの独立を望んでおりまシタ。ブルース元国王とともにかの地へ向かい、王への忠誠をまっとうするがよろしいでしョウ」

デバコフ教授は、議会に手を回しておくと言い切った。
反乱を起こした元国王に、島ひとつを割譲してその統治を認めるなど、離れ業もいいところだが、この教授なら難なくやってしまうのだろう...。

「それで、よろしいですか...?」
テロール将軍は、足下のブルースに尋ねたが、ブルースにそれ以外の選択肢など残されていない。

近衛の兵たちに介抱されながら、ブルースが連れていかれる。
鍔広帽の羽根飾りが寂しそうに揺れていた。

***

王軍の撤収準備が整ったようだ。

「それでは、私たちはこれにて...」

テロール将軍が、デバコフ教授に深々と礼をする。

「ブルース元国王...いえ、ブルース新王のお供を、しっかりとお願いいたしますスヨ」

「はい。このテロール、命に代えて...!」

今度はしっかりと軍人としての敬礼で応える...。

国境の街ニーザからテロール将軍がいなくなったことを知ったならば、ザレルが攻めてくることも予想できたが、将軍は鍛えた兵たちをマイヨ兵士長に預けてきていたのでひとまずは安心だという。

「さてさて、そろそろブラスへ帰ろうよ」
何となく、タイミングを逃していた俺たちは、ルーファスの一言で大いに助けられた。

ブラスへ帰る俺たち錬金ゼミの一行をしばし眺めていたテロール将軍であったが、その大きな体を西へと向けた。

「さあ、我々も行くとするか...。22年前と同じように...」

傷ついたブルースと一緒に、血砂荒野を西へ...
あの時と同じ風が吹いていた。