BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS
REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[第2章] 2-4
雪原の出会い
「サンディ、見覚えあるでしょ? 案内よろしくね」
転移の光が晴れてまだ視界もぼやけているというのに、あたしはルミナのご指名を受ける...。
眼の焦点が合ってきてからも、膨大な白が視界を覆う...これは、雪原か...?
雪といえば、エタルニア...そう思い込むと遠くの山々も近くの雪渓もエタルニアのものに見えてくる...。
(あ、あれは...!)
周囲を見回していたあたしは、山肌を這うように延びるあるものを発見し、確信した。
そうだ、ここは、『不死の国エタルニア』...。
あのパイプラインのような巨大な管は、『白魔道ケーブル』。
しかし、あたしが知っているエタルニアには、白魔道ケーブルが5本ほど敷設されていたんだけど...。
「何をバカなことを...!」
振り返ると、毛量が多めの少年が、白衣のポケットに両手を突っ込んでふんぞり返っている。
先日ようやく最初の白魔道ケーブルの敷設が完了したばかりだというのに、それを5本もケーブルを見ただなんて...、あり得ないね...!
寒さで幻覚でも見たんじゃないのかい?
挑発的な少年の態度が、スティールのガラの悪さを誘引する。
「おい小僧...、命を狙われるおぼえはあるか...?」
スティールが長剣の柄に手をやりながら近づくと、多少声をうわずらせながら少年は強がり続ける。
「...な、なくもないけど? そうか。君たちが刺客だったのか...。こ、ここで、やるというのか...?」
少年の強がりは、スティールが仕掛けたいつもの"からかい"と妙に会話が合ってきている。
少年の後ろに迫る影の大きさを見ると、そろそろスティールのお遊びに付き合ってもいられない。
「ああ、そうさ。やる場所を選ぶ自由はないみないだよ」
そのつもりはなかったのに、あたしが吐いたセリフも、今までの会話の流れにピタリとはまっている。
あたしが構えた大剣をみて、目を見開く少年...。
「ゴォ~~~~~~~~~~ムッ!!」
積雪をまき散らしながらアイスゴーレムが少年に襲い掛かる!!
「異世界に来て早々だけど、やるよっ!!」
みなの返事が雪原に響き渡った...!
***
「な~んだ。君たちは、刺客じゃなかったんだね」
アイスゴーレムの残骸を前に、スティールが裾についた雪を払っていると、例の生意気そうな少年が強張った笑みを浮かべながら近づいてくる。
襲ってきたのも野良の魔物だったようだし...そう少年は楽観していたようだけど、魔物たちは明らかに統率されていて少年を目指して一直線に襲ってきていたのである。
身に覚えは...十分にあると、少年の顔にそう書いてあった。
***
「ヴィクター、無事か?」
今度は、少し殺気を帯びた少女が飛び込んでくる...。
魔物の襲撃をあたしたちが撃退してくれた...とヴィクターが伝えると、少女は殺気を収め、自らの名を明かした。
「カミイズミ道場の門下生、エインフェリア・ヴィーナス...」
あたしは、その名を聞いて思わす声をあげそうになった。
(では、ヴィクターと呼ばれたこの少年は...)
次いで、ヴィクターも名乗る。
ヴィクター・S・コート(14歳)
エタルニア公国の白魔道研究の主任をしているという。
(ああ、知っているよ...)
「ガキのくせにたいそうな肩書だ」とからかうスティールに、「どうやらこの人は、人を年齢でのみ判断する人なんだね」...などと切り返すヴィクター。
「カミイズミ道場は、この界隈の警備も担っております」
エインフェリアは、殺気こそ収めてはいるが警戒を解いていない...。
失礼ですが...と、あたしたちの姓名と職業を、言葉こそ丁寧なものであったがまるで尋問でもするように問いただす。
まずは、あたしが"ラクリーカの冒険家"サンドラ・カサンドラと名乗り、次いでクレアが錬金術師見習いと続いた。
(エインフェリアは姓名をと言っていた...)あたしは少しヒヤリとしたが、あまり問題にはならなかった。
クレアもルーファスも、あたしたちに姓を明かしたことはない...いや、明かす文化ではないのかもしれない。姓が存在しないという線もあるだろうが、同じ大陸出身のスティールやエルヴィスに姓があるのを踏まえると考えにくい...。また、あたしが冒険家時代に、姓を尋ねるのが失礼に当たるという部族と触れ合うことがあり、それは滅ぼされた部族に姓を名乗ることが許されなかったり、かつての恨みが露呈するのを防いだりするためなど、合理性のあるものであった...。
次にスティールが、クレアの護衛だと名乗り、2人ともブラスの街からやってきたと答えると、エインフェリアの表情が少し険しくなる...。
そして、ルーファスが出身地ウィズワルドの名をあげた時にはさらに険しくなった。
ブラスの街に、ウィズワルド...。2つの地名をエインフェリアは知らないという。
外国なんじゃない? ...と、特に問題視していないヴィクターが取りなしても、外国ならば、なおさらどうやって『厳高地』を越えられたのか...と、あたしたちを詮議にかけねばならないとまで言い切った。
「それは、力ずくで連行するってことかい...?」
水の巫女オリビア様のように...!
あたしが、思わずかけたカマにエインフェリアは乗ってこない...いや、乗れるはずがなかった...あたしが知るエインフェリアは、12年後のエインフェリアなのだから...。
「ほらほら...、同行か連行かは別にして、エタルニアの街に行くなら早くしないと...」
あたしとエインフェリアの殺気が高まるのを嫌うように、ヴィクターが声をかける。
エタルニアの街は、陽が暮れたら宿がとれなくなるらしい。
一同、ヴィクターの後をついてゆく。
あたしたちは、最後まで視線を外さなかった...。