BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第2章] 2-9

白魔道プラント

担当:クレア

ヴィクターに案内されたその空間は、公国軍総司令部1Fの東側にある通路の奥にあった。

「高っけ~~な~、おい」
ここのところ、初めて入った場所の天井の高さを驚くのは、スティールの担当になっている気がする。

皆が天井に目をやる中、通路の両脇がピット状になっていたのに気付いて注意を喚起した。
天井もピットの底も、漂う蒸し暑い蒸気によってよく見えない...そうとうに高く、深い...どこか危険な雰囲気がする空間だった。

「地下6階から地上3階までの吹き抜けになっているらしいからね...」
ヴィクター本人は、きっと確かめたことはないんだろうな...と思しき説明を受け、あらためてこの空間の規模の大きさを知る。

肋骨のような螺旋の柱、空間中にあしらわれたまるで血管や神経網を模したような装飾物、空間の真ん中には明らかに人の心臓を模したかのようなポッド...。

「まるで、この空間自体が人体の中身を表しているみたい...」
私のつぶやきに、ヴィクターはうなずき、複雑そうな微笑みを見せた。

「ここは、僕の死んだ母さんの体内をイメージしたそうさ」
胎内か体内か、一瞬どちらと言ったのかわからなかったけど、すこし"まともじゃないなにか"を感じ、私たちの中に沈黙が流れた...。

  ***

話は、ヴィクターの幼少期の話に移った。
(ところどころ不明な点やわからない点は、後でサンディに添削してもらった)

ヴィクターのお母さんが亡くなったのは、サンディが言っていたとおり、ヴィクターがまだ『砂と大時計の国ラクリーカ』に住んでいた頃らしい。

ヴィクターの家は、いわゆる私が憧れる"一般的な幸せな家庭"とは少しだけ(?)毛色が違っていたらしい...。

ヴィクターの物心がついた時から数式の証明やら論文の査読やらが、一家の団らんの姿だった(私が8歳から住み込みで、教授の下で錬金学を学んだことと似てはいても、ヴィクターの場合、もっともっと小さい頃の話のようだった)。

「奇妙な家族だろう?」
ヴィクターの問いに、そんなことはない...そう言ってやれなくて皆、口ごもる。

ある日、実験中の事故で、ヴィクターのお母さんが亡くなった...。
葬儀の後、ヴィクターと、父親ヴィンセントの間では、いわゆる会話というものが一切なくなってしまったという。

研究所から帰ってこなくなった父...。
ヴィクターは、亡くなったお母さんの書斎で、お母さんの蔵書を読みふけったらしい。

  ***

ヴィクターが、千を超える母の蔵書を読破した頃、走って帰宅した父ヴィンセントが久しぶりに口を開いたという。
「国の...いや、世界の病を治しにゆくぞ。お前も来るかい?」

ヴィンセントは、クリスタル制御の技術主任として、ヴィクターは父の軍属扱いで...。
東から、朝日を背負うようにしてやってきた3艇の飛空艇に乗り込み、西へ向かって出発した。

「それが、『聖騎士の決起』だった」

それまで指を折ってヴィクターの年齢を数えていたスティールが、たまらず問う。
「それは、お前がいくつの頃の話だ?」

ヴィクターは「まだ年齢にこだわるんだね...」と、くすりと笑って見せた。
4年前の聖騎士の決起の時、ヴィクターはわずか10歳だったらしい。

戦闘要員ではなかったが、その年で父ヴィンセントの副官を務めるほどの知識も実力も持っていたという。

  ***

ヴィクターと父ヴィンセントは、聖騎士ブレイブが乗る1番艦...後の『重飛空艇 玄武』に搭乗して、エイゼンベルグのシュタルクフォートで最終補給を受けた後、エタルニアの地へと向かった。

元々出力が低かった2番艦に、3番艦を下からぶつけて厳高地を越えるという荒業をもってエタルニアの地に侵入した決起部隊は、聖騎士の1番艦が土のクリスタルがある土の神殿へ。2番艦(後の剣聖カミイズミ旗艦『柳生』)が教団総本山(後の公国軍総司令部)へ。厳高地に激突して半壊した3番艦(後のハインケル専用艦『盾と矛』)は、途中でエタルニアの街近郊に不時着して、隊長ナジットはエタルニアの街の占領作業へと向かった(ハインケル隊でありながら3番艦の臨時の操舵手のベアリングは、そこからハインケルを追って教団総本部まで走ったのだという)。

教団が行った『大祈祷』によって、土のクリスタルは暴走している可能性が高かった。
ヴィクターたちは、暴走を鎮めることを第一目標としていたが、最悪のケースとして、土のクリスタルの破壊までもが想定の中にあり、その決定権は事実上、父親のヴィンセントが持っていた。

わずかな抵抗を試みた教団の駐留部隊を聖騎士ブレイブと剣聖カミイズミが一掃した後、土の神殿、土の祭壇は制圧された。

神殿の奥に籠っていた教団幹部たちが次々と引き出され、その中には当代の『土の巫女』もいたという。

  ***

「巫女というのは...?」
絶妙な間で挿し込まれたルーファスの質問に、ヴィクターの幼少期物語は中断される。

『巫女』というのは、ヴィクター側から見れば"クリスタルと交信する能力に長けた一種のシャーマン"のことで、クリスタル正教の言い分では"クリスタルに祈りを捧げ、人々に恩恵を授ける、クリスタルに嫁ぎし者"のことだという。

火、水、風、土と4つ存在するクリスタルにそれぞれ巫女がひとりずついて、世襲制ではなく、ただクリスタルと交信する能力をもって各神殿で養育され、選抜されるらしい。

  ***

話題は、幼少期の物語に戻る...。

土のクリスタル祭壇...土のクリスタルを前にして教団幹部たちの尋問が進む中、土の巫女が奇声をあげながら暴れ出した。

髪を振り乱し衣服をはだけさせながら、聖騎士ブレイブと側にいる剣聖カミイズミを交互に見据え、下品な言葉を並べ立てていた。...時折、聖騎士夫人への面罵も交えて...。
4人は、顔見知りのような雰囲気だったという...。

...土の巫女が発する呪詛のような罵倒が、まるで獣の咆哮のように変化した瞬間、剣聖カミイズミの太刀が一閃し、土の巫女の体は地に伏したまま動かなくなった。

自らを、あるいは親友夫妻を罵倒されただけで、あの冷静沈着な剣聖が女性を斬り捨てた...!

決起軍の中で、ひと際人格者だと思っていた剣聖カミイズミの凶行...少なからずショックだったヴィクターであったらしいけれど、後の検死で土の巫女の奥歯には起爆装置が仕込まれており、『瘴毒爆弾』という正教に伝わる爆弾が、祭壇の其処彼処に仕掛けられているのが判明した...。

土のクリスタルと交信する巫女が、土のクリスタルもろとも、その場にいた全員を殺害しようとしていたらしい...なんとも皮肉な話だった。

  ***

ヴィクターの話を聞いて、サンディが青ざめた表情でうつむいている。

「おっと...、余談が過ぎたね...。白波動の利用だったね。こっちに来て」
蒸気の中に消えたヴィクターの後を追った。