BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第2章] 2-13

不死の塔へ

担当:クレア

巨大な鉄の扉は、一旦開かれると閉じるまでだいぶ時間がかかる。
時折音を立てて吹きつける雪で、扉の向うの総司令本部の中は、時々見えなくなった...。
扉を出たら、外からの敵に備えてしばし待機してください...そう警備の者に言われていたので、しばし総司令部の北側に向かって警戒態勢をとる。

背中の方から巨大な扉が閉まる音が聞こえ、振り返ると公国軍総司令部の"表門"が完全に閉まっている。

私たちは、公国軍総司令部北側の雪原にいる。

"表門"は、ただただ巨大な鉄製の扉があるだけで、南側のように長い石階段があるわけでも見た者を威圧するような壮麗な造作物があるわけでもない。

(表門ってわりには殺風景だな...)
そうつぶやくスティールにサンディが解説する。
前にも言った通り、この公国軍総司令部は正教においては教団総本山だった。
教団にとってもっとも重要で崇拝すべきなのは、土のクリスタルであり土の神殿(現:不死の塔)。
...なので、土の神殿に向かう方が表である正、その逆が裏にあたる。

サンディの解説に、
「へぇ、知らなかったよ...。どうして寂れた殺風景な方にある方の門が表で、壮麗な南側が裏門なのか、ずっと不思議に思ってたんだよね~」

ひょっとしてサンドラさんは、正教関係者だったのかな?
ヴィクターのなんてことのないつぶやきが聞こえなかったかのようにサンディは表門を見上げる。

「こうして見ると...」
総司令部が土のクリスタルを守るための守城だというのがありありとわかる。
先のつぶやきがうやむやになったことなどまったく気にもしていないようにヴィクターも「その証拠に、元帥府に上申してから許可が下りるまで2週間もかかってしまった」
...とうなずく。

土のクリスタルのことになると、国中の誰もがナーバスに、慎重になるんだ。
そう言いながら、この許可を得るためにヴィクターがどれほど東奔西走したか私たちは知っている。

白魔道ケーブルの視察と監督、白魔道プラントでヴィクトリアの治療、元帥府を訪れて聖騎士ブレイブの説得、剣聖カミイズミの専用艦『柳生』に搭乗してラクリーカとの往復...。
ラクリーカ往復こそ同道しなかったものの、エタルニア国内では常に私たちが護衛に付き、魔物の襲撃や人為的に起こされた事故と思しき数は、両手の指を軽く超える。

  ***

2番ケーブルは、計画通り不死の塔側とエタルニア市街側から工事を進め、激甚断層の直上以外、すべて完成していて、土のクリスタルが一時的に鎮静化した暁には、突貫で連結工事を行う手筈になっている。
...そう説明したのは、あの防護服の技術者であった。

「...ところで...、どうして君たちまでついてくるんだい?」
そう尋ねたヴィクターに、慌てて何かを取り繕うとしていた防護服の技師であったが、ヴィクターは、彼に対して質問したわけではない。

私たちの土のクリスタル参詣には、エインフェリアやホーリーもついてきていた。
エインフェリアが、まるで豪傑がするような腕組みのポーズをして眉を吊り上げてみせる。
「ヴィクターだけでは何をするかわからんからな。お前たちで監視するのだ。よいな!」...と、聖騎士ブレイブに言われたらしい。
エインフェリアは、聖騎士ブレイブのものまねをしたのだろうか...なんとなく聖騎士の人となりがわかる気がした。

ホーリーは、ヴィクターと一緒にピクニックにでも行く感覚なのだろうか、大きなバスケットを持ってニコニコしている。

元帥府から出ている不死の塔の滞在許可は3日間だけ...私たちは東へと歩きはじめた。

  ***

吹雪いてきた...。
先頭を歩くヴィクターと覆面の技術者の姿は雪で煙ってよく見えない。
直前を歩くエインフェリアとホーリーの話声が、私たちの道案内になっている。

私とサンディの間には、雪を踏みしめる音しか聞こえてこなかった...。
何か話を...そう思ってもちょうどいい話題が浮かばない。
サンディもまた、何かを話さなきゃと思いながら言葉を出せないでいるようだった。

後方でスティールとルーファスが、いつもと様子が違う私たちに声を潜めて何かを話している。

  ***

昨夜、私は宿でサンディの傷の手当をしていた。
昼間、ヴィクターが魔物の襲撃を受け、その時の傷だった。

最近のサンディ、少しおかしい...私のつぶやきにサンディは笑ってみせた。
「スティールが敵を察知して、サンディが敵の初撃を受け止める。その隙にルーファスが詠唱を済ませて敵を一掃...すべては役割通りの動きをしているだけさ」
そんなことを言いながら私が言おうとしているのが何なのかサンディはわかっているようだった。

最近のサンディは、まるでわざと危険な目に遭いにいっているように思えてならなかった。
いつもより踏み込みが深く、それゆえに受ける傷もおのずと深くなる。
私の身に少しでも危険が迫ると、前衛から私を守りに来てまた傷を負う...。

「ねぇ、何があったの?」
私に背を向けながら、なんでもないとつぶやくサンディ。

「いつか...、話すよ」
そう言って部屋に帰っていったサンディだったけど、朝食の時もこの行軍中も、誰かを介してでないと会話ができない私たちだった。

  ***

沈黙に耐えられなくなったスティールとルーファスが、バカなことを言い出して気を紛らしている。

直前を歩くホーリーが驚きの声をあげバスケットを落とす。
エインフェリアが前方に走り出す...!

「2人とも、なにぼうっとしてんの! 魔物だよ...!!」
サンディは、後方の2人に声をかけ、エインフェリアを追っていった...。