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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[第9章] 9-3
大王と四将
大神官ヅクエフに促され、土の将ガイラが一歩前に出る...。
「土の将ガイラにございます」
ガイラはいつになくかしこまり、少し声もうわずっている。
「うむ、ザレルの武家の生まれであったな。余はお前のような勇ましい武人が大好きだ。一族の者でこれはと思う者を推挙せよ。必ずや取り立てよう」
生粋の武人のガイラに対してその武を大好きとまで言ってのける人たらし...。
加えて親族思いで有名なガイラに、一族の推挙をしろとまでいわれれば、感動に打ち震えるに決まっている。
「ははっ、有難き幸せ...!」
平伏して下がるガイラに代わって、水の将ソーニャが前に出る。
「水の将ソーニャにございます」
ソーニャの表情に、ガイラのような感動の色はない。
むしろ、祖国を滅ぼしたザールの兄弟国...同じ血が流れるザレル2世への微かな疑いと警戒の色を浮かべてすらいる。
「うむ、ザールに滅ぼされたツララスタンの姫であったな。巻き舌になると、とてつもない力を出すと聞いたぞ?」
ザレル2世が努めて穏やかに接してもソーニャの表情は晴れない...。
「お前の願いはわかっているつもりだ」
そう言うと、ザレル2世は大神官ヅクエフにこう命じた。
「ザール・ウルスへ使者を送れ。20年の眠りから目を覚ましたザレル2世が、貴国のツララスタンを所望だ...とな」
兄弟国とはいえ違う王国に対してその不遜な要求をするとは...狼狽える大神官であったが、
「ザールでは、後継争いが激化しているらしいじゃないか。快気祝いにツララスタンを送ってもよいという気前のいい後継者に、余が力を貸してやるというのだ。さっそく手配しろ」
...ときかない。
ザール・ウルスに対する要求ではない。
あくまでも次期ザール大王の座を望む後継者のひとりに、ツララスタンの地を寄越せばザレル・ウルスが力添えしてやる...と言っているのだ。
水の将ソーニャが、どんな表情をしてよいかわからなくなっている。
あれほど希(こいねが)い、それこそ血が滲むような努力をしても叶わなかった祖国の復興が、目の前のザレル2世の一言で現実味を増しているのだ...。
無言で...それでもさっきとは大王を見る目が変わっているソーニャが、小さく頭を下げて引き下がり、代わって風の将ナンナンが前に出る。
「風の将ナンナンです」
「うむ、お前はたしかザナ・ウルスに侵攻されているラヴィヤカ国の姫...」
ナンナンの方言を愛でた上で、ナンナンにもその望みを叶えるべく命を下すザレル2世...。
「ザナ・ウルスへ使者を送れ。ただちにラヴィヤカ国との講和を結ぶように...とな」
条件として、ザナ・ウルスと隣接するザレル領から、ラヴィヤカに匹敵する国をひとつ割譲するという豪華すぎる"飴"と、それが嫌ならば、ザレル2世自ら国境付近に狩りに向かうだろうと通達する明確な"鞭"までつけて二者択一を迫っている。
「我が国との国境に(割譲した土地を受け取る)ザナの役人を送るか、(国境に狩りに来たザレル2世と戦う)兵を送るか...、好きな方を選べ...とな」
ナンナンもまた、妃にもまだなれていない自分への厚遇に戸惑いを隠せずにいると、すぐさま人たらしが発動する...。
「お前たちは、命を懸けて余に命脈をもたらしてくれた。その礼だ。気にするな」
恐縮するナンナンが下がると、大王は火の将王麗に視線を移す。
「さて、火の将王麗。お前の願いは何となく見当がつくのだが...、具体的に余は何をすればよい?」
そう尋ねた大王であったが、王麗の望みが大神官ヅクエフの罷免にあるのはわかっていた。
即座に却下してヅクエフがいかに大王に尽くし、20年間ザレルの統治に心血を注いできたかを語り、別の褒美を求めるよう促した。
こうなることはわかっていた王麗は、あたりさわりのない「栄光あるザレル・ウルスの再興を」とだけ言上し、そちらはあたりさわりなく容れられた。
最後に大王は大神官ヅクエフに向かって、自身の左胸にある『こやつ』の説明をせよと命じた。
大王の左胸に現われた『こやつ』は、何かの結晶のような形に浮かび上がり、すぐに消えた。
大神官ヅクエフ曰く、まず第一に重傷を負ったザレル2世にかぶせた繭は、『原初のクリスタルの繭』であること...。
太古の昔、錬金術師カウラが持ち出してこの地に秘匿していたもので、その繭が孵れば、万物の根源である『クリスタル』が誕生するのだという。
しかし、カウラが秘匿した繭からは、そのままでは『無のクリスタル』が誕生し、この世を滅ぼしてしまうことが判明した...。
カウラの思念を理解したヅクエフは、異世界から8つの『命脈』を入手して育むことで繭から誕生するクリスタルを無から有へ...『闇のクリスタル』に変化させることにしたのだという。
今現在、ザレル2世の心臓には、闇のクリスタルが同化しているのだという...。
大王の中に溢れてくる闘争心や戦いの衝動はすべて、闇のクリスタルが影響しているのだという。
「ところでヅクエフ、お前はどうして錬金術師カウラの思念を理解できたのだ...?」
大神官ヅクエフは、自身の空洞になった左胸を押さえて静かに語りだした...。