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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第002章] 2-2

喧噪

担当:クレア

もうすぐ正午になるという頃、私たちはブラスの街に到着した。
クリッシーさんたちは、城門で身元検めされている。
錬金ゼミの私たちの知り合いで、デバコフ教授へ面会するためにブラスを訪れた...と紹介しておいたので、そのまま捕縛されることはないだろうとのことだった。

「スティールのツレ合いだとかえって怪しまれるんじゃないか?」などとルーファスにいじられていたスティールだったが、最近は笑顔も見えるようになってきていてほっとする(その分、ふさぎ込んでいる時の何かを壊してしまいそうな鋭いまなざしなどは、ハラハラさせられるけれど...)。

  ***

城門を抜けた私たちは、午前中に品を売り切ってしまいたい行商人たちの攻勢に晒された。
最初に声をかけてきたのは武具や小物を売る老人だった。

かつてのクランブルス王国貴族、ランケード伯爵家の一品が、驚きの価格で大放出!
どれもこれも正真正銘の本物で、家紋入りで鑑定書もあるという。

老人が指し示した大盾を眺めたサンディが、家紋を「炎と三日月の兜飾りに大盾」であること、相当な武門の家だったことを見て取り、信条が「民と共に」であることを読み取った。
鑑定書を見比べていた老人は、サンディの慧眼に驚いていたが、サンディはルクセンダルクとヴェルメリオで家紋の構成が同じことに驚いているようだった。

主に両手で大剣を扱うサンディに大盾に興味はないようで、老人は、今度はスティールに目をつけ、小さなバックラーを売りつけようとする。

「どうだい、そこの目つきの鋭い兄さん。このランケード伯爵家の家紋入りバックラーは...」
老人がどんなに売ろうとしてもスティールに買う気はまったくない。

「へっ...要らねぇよ。あんな国中の嫌われ者の持ち物なんて、誰が買うっていうんだよ。だいたい、民を棄てて敵陣に投降し、挙句に斬られちまったヤツの信条が"民と共に"だあ? 笑わせやがるぜ...」
スティールの言葉には棘があり、それはクランブルスに生きる民共通のものであった。
そんなのは百も承知で品を入荷した老人であったが、早朝から昼前まで、値を下げ続けてもまったく売れないのである...。
最後は、「困っているんだ、助けてくれよ」...と懇願に変わっていたが、状況は変わらなかった。

  ***

武具売りの老人のそばを通り過ぎると、恰幅のいい中年女性が待ち構えている。
女性の売り場を覗き込んだスティールが、また呆れにも似た声を漏らす。
「淡水サバ缶か...」

女性は、正真正銘の『ゴリーニ湖』産だと強調しているが、この界隈で流通する魚介類のほとんどは、たいていゴリーニ湖産で、特に淡水サバに関していえばゴリーニ湖産以外のものはほとんどない。

そして、スティールが呆れた口調になっているのはそれが原因ではない。
まだ"平積み"していること...つまり、サバ缶が熟れていないことに呆れていたのだ。
...少し説明が必要かもしれない。
淡水サバ缶は、ゴリーニ湖特産の淡水サバを缶詰にしたもののこと。
熟れる・熟れていないとは、淡水サバ缶は缶の中で発酵が進んで旨味が増すことで人気がある品で、発酵によって缶が膨張したサバ缶を"熟れている"といい、それらはとても平積みになんかできないのである。

そして、中にはいつまでたっても熟れないサバ缶もあるため、この界隈では大きな賭けに出ることを、"熟れてないサバ缶買い"などと言われていたりもする。

結局は、サバ缶売りの女性も懇願になる。
最近、ゴリーニ湖の濁りがひどくなっていて、ゴリーニ湖産の地魚がなかなか入ってこなくなってしまうらしい。
軽く脅しまで交え、それでも相手にしようとしないスティールに、最後は悪態までついてくる。

  ***

サバ缶売りの女性の悪態が小さくなる頃、イヴァールが目の前に現れた。
右手の人差し指で前髪をくるくるさせている...これは、イヴァールが何かを自慢したいときの癖だった...。
「ふっ、これをビジネスチャンスとみたボクは、淡水サバ缶を3ダースほど調達したんだよ~」

上手く発酵するかどうかわからない品を3ダースも買うとは、さすがはブラスで1番のお坊ちゃんだ...スティールの皮肉も嫌味もこの状態のイヴァールには決して響かない。

私は、気をよくしているイヴァールに、デバコフ教授が今どこにいるかを尋ねると、教授はどこかに出張に行くとかで、早く会いにゆくといいと勧めてくれた。
私たちは、イヴァールと別れて学搭へと急いだ...。