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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第002章] 2-5

エタルニアの地

担当:ルーファス

僕たちは、ヴィクターに案内されて近くにあるという街まで歩いた。
サンディが教えてくれたこのエタルニアという国は、一年中雪が消えないほどの豪雪地帯で、街道だというのに膝下まで雪が積もっている。
当然、数歩歩くだけで靴の中には雪が入ってビショビショ。足先の感覚などとうにない。(何かない?)僕の視線にクレアもゆっくりとかぶりを振る。
最後尾にいるエインフェリアは、しんがりというよりは、僕たちを監視しているようなまなざしをしていた。

  ***

ヴィクターが言ったように、僕たちはほんの少し歩いただけで街に到着した。
『エタルニアの街』というこの国の首都で同じ名を持つ。
降り積もる雪のせいか、音のない、どこか物寂しい街だった。

街の入り口は2つあり、街の南側には宿や武器屋、道具屋などが建ちならんでいる。
北側には、白く大きな建物が建っていて、ヴィクターやサンディが言っていた『白魔道ケーブル』が崖上から敷かれ、その建物につながっているようだった。

  ***

「そういえば...」
ヴィクターが、振り返ってとても興味深そうに話す。
サンディが、白魔道ケーブルが5本あるのを見たと言っていたことを思い出したらしく、その話を詳しく聞きたかったようだ。

サンディもその話をしたかったらしく、自分が知るエタルニアの街には、今見える1本のケーブルの東に全部で5本、同型のケーブルがあり、それによって医療水準が飛躍的に向上したエタルニアは、古の呼び名の通り『不死の国』と呼ばれていたのだという。

「不死の国...。そうかそうか...」
ヴィクターは、まるで自身が思い描く未来の話でも聞くように満足げにうなずき、「あなたたちは、どんな未来からやってきたんだい?」と、冗談っぽく笑う。

(未来...? あ、そうか...)
見れば、サンディも僕と同じことを思いついたみたいだった。

「今...、今は、公国暦何年なんだい?」
サンディにそう問われ、ヴィクターは妙な部分に反応する...。

「へぇ~、この国の人でもなさそうな人が、新しい方の暦を聞いてくるとは...」
サンディは一瞬しくじったような表情を浮かべたが、その理由を僕たちはわからなかった。

「今は、公国暦5年。正教暦だと2389年さ」
ヴィクターの言葉に、サンディはあの『聖騎士の決起』から4年しか経っていないエタルニア...とうめき声をあげ、目を伏せた。

  ***

ヴィクターとサンディが口にした『聖騎士の決起』とは...?
ぽか~んとしている僕たち3人に、ヴィクターは得意げに語る。

2000年にわたってこの国を、そして世界を統治していた『クリスタル正教』が腐敗を極め、4年前、とある暴挙に出ようとしたその時、聖騎士ブレイブが同志たちとともに武装決起...教団中枢を打倒してエタルニアの地を解放したクーデターのことを指すらしい。
(それで、新暦が公国暦で、旧暦が正教暦...というわけか...)

驚いたことに、今よりももっと小さかったヴィクターやエインフェリアもこの決起に参加していたらしい。
ヴィクターは、父ヴィンセント博士の子息、軍属として。
そしてエインフェリアは、この街の治安を守る防衛隊として...。

  ***

エタルニアの街のど真ん中で立ち話している僕たち...。
足先の感覚がなくなってきて、温かいとさえ思えてくる。
しもやけの、そして凍傷の兆しであった...。

ヴィクターとエインフェリアに声をかける者がいた。
美しい金髪、どこかおっとりした雰囲気の女の子だった。

ホーリー・ホワイト(15歳)
ホワイト製薬という大企業の令嬢で、白魔道士見習いをしているという。
このホーリーもまた、4年前の決起には、衛生兵見習いとして参加しているらしい。

  ***

ホーリーは、手に携えていた大きな本を開き、嬉しそうにヴィクターに話しかける。
「この魔道書の一節についてなんだけど、どうしてもここの解釈がわからなくて...」

ヴィクターは、逆にイライラを隠せないでいる。
「今この人たちと話をしているんだ。後にしてくれないかな...?」
ホーリーの表情が曇り、エインフェリアは怒りだす。

...つまり、ホーリーという子がヴィクターにホの字(魔道書の解釈がわからないなんてのも口実かもしれない)で、ヴィクターはそれに気づいていない...ヴィクターの素っ気ない態度に共通の親友エインフェリアが怒鳴り散らしている...といったところか...。

  ***

「そうそう、あなた方は、白魔道ケーブルに興味があるみたいだね?」
ヴィクターが、分が悪くなったので話題を変えたくて仕方がないのは見え見えだった。
それほど乗り気でもない僕らの意見などまったく聞かずに、いつの間にか白魔道ケーブル見学ツアーが設定されてしまう。
まだ警戒を解いていないエインフェリアは、国の重要施設を僕たちに見せることを憂慮していたみたいだけど、ヴィクターは僕たちを『黒い集団』とは違うよと言ってまったく聞き入れない。
(後から聞いた話によれば、サンディが"白魔道ケーブルによって古の『不死の国』と呼ばれるようになった"と言っていたのがよほど嬉しかったらしい)

陽が暮れはじめ、家々の窓に明かりが灯る...。
「やむを得まい」と、エインフェリアが渋々僕たちの保証人となって宿に案内してくれることになった。

  ***

エインフェリアに案内してもらった宿に入ると、まずはその温かさに驚かされた。
入口の小さなロビーに暖炉があって、館中に暖気が行きわたっている。
どんなに高級な宿かと思ったが、エタルニアの街ではどの建物もこのような暖房事情で僕たちが案内された宿も、ごく普通の宿なのだそうだ。

クレアがカバンから繊維状の何かを取り出し、みんなに配りだす。
ヤシという南国の植物の樹皮を乾燥させたもので、吸水性に優れているので濡れた靴の中に詰めておくといいらしい。
宿の主人が人数分のモコモコスリッパを持ってきてくれて、僕たちはようやく人心地つくことができた...。

  ***

夕食の後、僕たちは、ロビーに集まり、暖炉の炎を見ながら話し合っていた。
「へぇ~、じゃあ、あの"ラクリーカの冒険家"ってのは、嘘だったのかよ」
サンディがうなずき、その理由を話す。

これから7年後、エタルニア公国は、世界中を敵に回して軍団を送り出す。
それほど、公国と親交がある国は少なく、サンディが口にしたラクリーカなどはそのひとつで、ラクリーカの名を出せば少しは疑われ難くなるだろうという判断だったのだが...

「しかし...しくじったかな...」
サンディは、あのヴィクターという少年が、実はラクリーカの出身だったのをついさっき思い出したのだという。
怪しまれないようにとっさについた嘘だったのに、うまくラクリーカの方言を出せていたのかは、はなはだ自信がないらしい。

暖炉にくべられた薪が、大きな音を立てた...。

  ***

サンディの話をまとめると、今、僕たちがいる時代は、サンディがいた時代よりも12年も前のルクセンダルクということらしい。

2000年にわたって世界を統治してきた『クリスタル正教』に代わって『エタルニア公国』が台頭し始める時代...手っ取り早くいえば、クリスタルを妄信する勢力の『クリスタリズム』と、クリスタルを人の手で管理しようとする勢力『アンチクリスタリズム』、旧勢力と新勢力が交代する時代だといえる。

ちなみに...未来を知るサンディは、あのヴィクター、エインフェリア、ホーリーが、後にどのようになるのかを知っているらしい。

ヴィクターは、後にエタルニア公国の最高意思決定機関『六人会議』の一員に名を連ね、ホーリーは、カルディスラという国に侵攻した軍団にその名があった記憶があるらしい。
エインフェリア...は、ある特務隊の斬り込み隊長として、侵攻先の国中から恐れられる存在になる。
そして...サンディは、一度言うか言うまいか迷った末にこう打ち明けた。
「実は、あたしは何度か...、あのエインフェリアと剣を交えることになるんだ」
僕たちの沈黙が流れるロビーに、薪がはぜる音だけが鳴り響く...。

  ***

「ねぇ、土のクリスタルはぁ~? あんたたち、寄り道ば~っかりして...」
クレアの足元に置いたランタンに、ルミナが姿を現した。

土のクリスタルがどこにあるのかは、サンディが知っていた。
かつての"土の神殿"...現在は『不死の塔』と呼ばれるところに安置されているらしい。
だったら、とっととその不死の塔へ行けばいい...そう不満そうにするルミナに、サンディはゆっくりとかぶりを振る。

「それは、おそらく不可能だね...」
その理由は、明日の白魔道ケーブルの案内の時、ヴィクターあたりが説明してくれるだろうとのこと。
ルミナは、また寄り道かと、口を尖らせていた。

  ***

スティールあたりはヴィクターをつけ狙う『黒い集団』が気になるらしい。
単にヴィクターが誰かの恨みを買って(これも普通にありそうなこと)この国の誰かに命を狙われているのか、先にこの世界にやってきたというザレル...また土の将ガイラの主従が暗躍しているのだろうか...。

  ***

暗くなりそうな雰囲気を和らげようと、僕が夕食に出た『おでん』という食べ物の話を話題にだしてみた。

土地の根菜を串に刺したものを、ほろっほろになるまで煮込んだ料理で、体が温まると同時に、食が細い僕にでも満足できるぐらいにあっさりした味つけだったのには驚かされた。

「あたしたちが食った、肉味噌がかかったヤツは、こってりした旨さだったよ?」
...と、突然サンディが異を唱えだし、スティールもうなずいている。

すると今度はクレアが、違う味の串があったことに気づかなかったことを憤慨し、
「次こそは、肉味噌の方を食べてみないと...」
...と両こぶしを握り、鼻息を荒くしている。

皆の笑い声と同時に、また薪がはぜる音が響いた...。