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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第002章] 2-7

白魔道ケーブル

担当:サンドラ・カサンドラ

これまで遠望したことはあっても、『白魔道ケーブル』の内部に入るのは初めてだった。
「か~~~! でっけ~なオイ...」
スティールが天井の方を眺めながら声をあげる。
ケーブルの内径は、あたしの身長の4~5倍ほど...。
てっきりただのでかい管なのかと思ったら、ところどころに機器が並ぶ、まるで管状の工場のような施設だった。

ここは、建設途中の2番ケーブルで、不死の塔からエタルニアの街まで延々と大地を這わせて、ようやく残り2割というところまできているらしい。
もうほとんど出来上がっているじゃないか...とうなずき合うあたしたちに、
「距離、だけならね...」
ヴィクターが、機器を目で確認しながら、やはり君たちもそう思うか...とばかりにうなずいている。

このケーブルの中を流す予定なのは、『波動』という高エネルギー粒子。
4年前に、クリスタル正教が行った『大祈祷』という儀式によって、土のクリスタルが暴走してしまい、その結果、大量の土のエネルギーを放出するようになってしまった。
そのエネルギーを廃棄すれば、大地に多大な悪影響を及ぼし、クリスタルに無理やり還そうとすれば、『土のクリスタル』を砕滅させてしまうという厄介な代物らしい。

ヴィクターたち技術者は、この土エネルギーを『波動』という比較的安定している高エネルギー粒子に変換して、有効利用することにしたのだという。

波動は、『白波動』と『黒波動』に変化させることができる。
白波動は、治癒や福音の効果を増幅する効果を持ち、黒波動は加害や懲罰の効果を増幅する効果を持つ...すなわち、2000年間にわたって土のクリスタルを保持してきたクリスタル正教は、古来より土のクリスタルの力を教団経営に利用してきたということになる。

教団にすがる信徒や親正教の勢力に対しては白波動を、異教徒や教敵となるのもの、あるいは教団が見捨てた信徒に対しては黒波動を...。

  ***

ルーファスが、まるで名探偵のようなポーズをとってつぶやく。
「ふむ...、白と黒の波動は、てっきり『白魔法』や『黒魔法』の成り立ちに関係しているかと思ったんだけどな...」

ヴィクターは、我が意を得たりとばかりに破顔し、白黒の両魔法が波動の影響を色濃く反映しているという学説は、きっと来春には公国アカデミーで論文が発表されるだろうと何度もうなずいた。

...この時点で、魔法の成り立ちや仕組みにそれなりの造詣があるクレアとルーファス、そしてルクセンダルクをよく知るあたしは話題についていけているが、スティールはほぼほぼ脱落してしまったようだ。
両の手を頭の後ろに組んで、退屈そうにケーブル内を眺めている...。

  ***

この先、エタルニア公国は、土のクリスタルから放出される土エネルギーを波動に、波動を白波動に変換して医療に活用することで医療大国になってゆく...。

ただし...とでも言いたげにヴィクターが振り返る。
「古代から土のクリスタルの影響が大きいエタルニア大陸ではね...、ただでさえ地殻の変動が激しくて、そのためにこの白魔道ケーブルの工事にも支障が出ているんだ」

さっきヴィクターが、残り2割ほどまで完成していることを「距離だけなら」と言ったのはそういうことだったのか...。

自分にも理解しやすい、あるいは、興味のある会話になったとでも思ったのだろうか、いつの間にかスティールが近くで腕を組んでいる。

ヴィクターによれば、あたしたちが見学しているここからエタルニアの街に向かうまでの距離にしてほんの数十歩ほどの幅で、『激甚断層』と呼ばれる活断層が横切っているらしい。
ちょっとした地震が起きただけでもヴィクターの背丈分ほども地盤が隆起したり沈降したりするのだという。

エタルニアの『厳高地』も、同じような仕組みなのだろうか...?

『厳高地』とは、エタルニア大陸の外周のほぼすべてにわたって高度にそそりたつ山岳帯のことで、よく言えばエタルニアを外敵の侵入から守ってきた...悪く言えば、外との交流を拒んできたともいえる。

『厳高地』は、歴史的に何度も大隆起を重ねていて、現在のようにエタルニア全土を囲うようになったのは、今から500年ほど前のことだといわれている。

仕組みはどちらも同じ、土のクリスタルから漏れ出ている土エネルギーに関係していて、『厳高地』の方は比較的ゆっくりと(それでも他の大陸と比べれば劇的に...だけれど)変化し、『激甚断層』は、地震のたびに、それこそ一日単位での変化があるものではないか、とヴィクターは推測する。

  ***

あたしたちが見学しているすぐそばを、頭からすっぽりと覆うタイプの防護服を着た技師のような人が通りかかると、ヴィクターは工事の進捗などを尋ねていた。

防護服の技師は、マスクでこもった声で、あからさまに不満を表した。
今朝がた起きた地震で、前日までに準備していた基礎工事が全部ダメになったのだという。
この群発地震が止まないと話にならない、やってられない...そう不平を漏らす技師に対して、ヴィクターの答えはとても冷淡で明快だった。
「そこを何とかするのが僕たちの仕事じゃないか...」

防護服の技師は、ムッとしたのか少し語気を荒げる。
「我々は、クリスタル管理の技術者なんです! 土木建築や医療などは、専門家に任せればいいと思いますがね...」
...言い終えた後、ヴィクターの視線に耐えられなくなったのか、再び語気を和らげる。

「そうだ...、ヴィクター主任、私に土のクリスタル自体を調査させてもらえませんか?」技師は、4年前の決起メンバーであったヴィクターの意見ならば、元帥府もきっと許可を出すのでは...などと言いかけていたが、これまで見たこともないような冷たいまなざしによって遮られてしまう。

「君は確か...、クリスタル正教の技術副主任だったね...。残念ながら、正教に関わる者の土のクリスタルへの接近はまだ許されていない」
防護服の技師は肩を落とし、ヴィクターのまなざしも語気も、普段のものに戻っている。
「諦めて、今はここ2番ケーブルの建設に心血を注ぐことだね。な~に、安心したまえ。噂によれば、この先白魔道ケーブルが5本も敷設される未来が待っているようだしね...」ヴィクターは、あたしの方をチラリと見ながら、不満たらたらな技師をはぐらかしていた。

  ***

群発地震による地殻の異常隆起と沈降...。
それは、奇しくもあたしたちが南の大地溝で目の当たりにしたものと一致する...。
姿を現したルミナが、自身の羽が反応していることを少し得意げにアピールしてくる。

防護服の技師にあれこれ指示していたヴィクターが、これから『公国軍総司令部』の『白魔道プラント』に行くので一緒に行きましょう...と、あたしたちの意見など聞かずに雪原に出て行ってしまう。

スティールとルーファスが、2人揃って両手をすくめていた。
やれやれ、だねぇ...。