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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第002章] 2-8

公国軍総司令部

担当:スティール・フランクリン

ヴィクターの何度目かの「もうすぐさ」に舌打ちしながら、足元の雪を踏みしめる...。
("もうすぐ"とかじゃなく、"あとどのくらいか"を言えや!)

エインフェリアから贈られた、雪用のブーツが快適だった。
防水加工された革製のロングブーツで、内側は温かい毛皮があしらわれている。
驚いたことに、足底には海獣の毛皮が縫い込まれていて、雪をよく噛んで滑りにくくなっている。

  ***

ルーファスが立ち止まり、道の側にそびえる山の上を眺めている。
この吹雪の中で、あんな高所で工事をしているようで、それは、反対側の崖の上でも同様だった。

サンディによれば、あれは今俺たちがいる『中央回廊』を通過する敵を撃滅するためのトーチカ群であるという。
俺は、この先にある総司令部を守るためのもの...と思ったが、そうではないらしい。

サンディによれば、公国軍総司令部もまた、土のクリスタルがある『不死の塔』の防衛拠点に過ぎないという。

なんでも知っているサンディに感心するヴィクター。
そして、そのヴィクターを狙って魔物が出現する...!!

  ***

...逃げてゆく魔物は追わない。
いや、追う余裕がないっていうのが実情か...。
いくら雪用のブーツを履いていようが、くるぶしまで積もる雪の中での立ち回りは、えらく体力を消費する。

サンディが、息を整えながらエタルニア大陸の3つの街道について説明してくれる。
メモをとらなきゃな...そう思いながらこの吹雪で雑嚢をあさるのも面倒になり、暗記することに決めた。

エタルニア大陸の中央に走るのが、今俺たちがいる『中央回廊』。
そして、大陸の東西を巡る『東の回廊』と『西の回廊』...この3つの回廊から押し寄せる敵をそれ以上通さぬようにそびえるのが、今から向かう『公国軍総司令部』なのだという。

「さあ、行きますよ~」
ヴィクターに急かされるように俺たちは歩き出した。
いまだ息を整え終えずにいるルーファスの尻を、サンディがバシッと叩いた。

  ***

吹雪の幕が晴れると、何か見た者を威圧するかのような巨大な建物があった。
ルーファスは、なんだか巨大な寺院のようだと言っていたが、寺院というものに馴染みのない俺にはピンとこなかったが、防御拠点に見えないというのにはうなずけるものがあった。

ここ『エタルニア公国軍総司令本部』は、かつてはクリスタル正教の総本山だったところで、4年前の聖騎士の決起で接収されたのだという。

クレアが、司令部の頂上につながれている何かに気づき指をさす...。

「あれは、エタルニア公国が誇る重飛空艇さ」
ヴィクターが、あまり興味なさそうにつぶやく。

クレアも俺も、飛空艇という言葉を知らない。
「手っ取り早く言えば、空を飛ぶ乗り物だな...」
ヴィクターにそう言われて、俺は目を輝かせたのに対してクレアはまだきょとんとしている。

ルーファスは、何かの書物で知っていたらしく、サンディは「そうか...この時代は、3艇しかないのか...」などと別次元のつぶやきをしている。

一番奥に見えるのが、聖騎士ブレイブの旗艦『玄武』。
左手前に見えるのが、剣聖カミイズミ専用艦の『柳生』。
右手前に見えるのが、近衛師団保有のハインケル専用艦『盾と矛』といい、どれも4年前の聖騎士の決起で使用した飛空艇を改修したものだという。

「『盾と矛』とは、後の公国暦15年、カルディスラ電制戦で航行不能となったアレか!」...などとサンディはうなっていたけれど、公国暦5年に生きる少年ヴィクターにはわかるはずもなかった。

ヴィクターによれば、他にも何艇かの飛空艇建造計画があるらしく、ヴィクターの専用艦もその候補に挙がっているらしい。
「病院船でも造った方が、よっぽど世のためになるのにね」
やはりヴィクターは、飛空艇にまったく興味がなさそうだった。

  ***

長い階段を上って総司令部に入ってゆくと、エインフェリアとホーリーがいた。

「途中、危険はなかった? ケガとかしてない?」
心配して何かと世話を焼こうとするホーリーにヴィクターは"まったくもって平穏そのもの"だなんて強がって見せてはいたが、ここに来るまで片手では足りないぐらいに襲撃されている。

襲いかかってきた魔物はどれも使役されているようで、少し離れたところから殺気が高まるのも何度か確認している。
おそらくそいつらが主謀犯なのだろうが、ヴィクターの護衛を優先して殺気の主を追うことはできていない。

「助かります」
エインフェリアの態度が少し柔らかくなっている。
失礼ながら...と、昨夜の宿や、ここに来るまでの様子を監視させていただいたと、軽く頭を下げた。

俺たちを信用してもらえたのはよくわかったが、監視しているのならヴィクターが襲われていた時に援護に入ってほしかった。
ほんの軽口のつもりで言った俺の言葉に、エインフェリアの真剣なまなざしが応える。
「敵は、『黒い装束の一団』の他に、公国内部にも手引きする者がいるようなんです。現に、遠くから感じたという殺気の主を確かめに行った門下生の数名が戻ってきません...」

なるほど、状況は、それほど楽観できるものではないらしい...。

  ***

「ほらほら、ぐずぐずしな~い。早くいくよ~」
遠くに見える戸口で手招きしているヴィクターに、少しイラっときた...。