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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第002章] 2-11

焦燥

担当:ルーファス

2日連続の晴天に、軒下のツララからは水滴がぽたぽたと音を立てて落ちている。

朝食前のひと時、窓辺のカウンターでハーブティを楽しむ僕の目に、表ではしゃいでいるクレア、スティール、サンディの姿が入ってくる。

(元気だな~...)
頭も体もまだ完全に目覚めてはいない僕は、ただただ3人の笑う声とツララから滴る水の音を聞いていた...。

雪を見たのは初めてというスティールとクレアは、雪かきも楽しくて仕方がなかったようだがそれは最初のうちだけだったようだ。

サンディによれば、一年中雪に覆われるエタルニア大陸の他に、砂漠だらけの大陸や、花園や森林にあふれた大陸、火山の噴火で不毛な大陸などがルクセンダルクにはあるらしい。
スティールは、それらがナダラケス大陸、フロウ大陸、エイゼン大陸であること、国名がラクリーカ、フロウエル、エイゼンベルグであることを披露してみせ、サンディを驚かせる。

「すごいねぇ、夕べ寝る前に語って聞かせた国の名をもう覚えちまったのかい...?」
スティールの地図にかける情熱は、どこからくるのだろう...?

親方に言われたから...スティールは表立ってはずっとそんなことを言っていたが、酒に酔ったある時「俺が作った地図をよ、周りが褒めてくれたんだ。盗みの腕や誰かを傷つける技をじゃなく、な...」と嬉しそうに言っていたのを思い出した。

(僕が、魔法学の道に進んだのも、姉さんに褒めてもらったから...)
心の奥に閉じ込めていたものが、ハーブの匂いと共に蘇る...。

  ***

そこに、見るからにご機嫌斜めのヴィクター、そしてエインフェリアがやってくる。

「どうしたい? 神童」
ヴィクターは、スティールが言う神童という部分はまったく否定せずにその豊かな髪を掻きむしっている。

エインフェリアによれば、2番ケーブルの建設現場で大規模な火災があり、一夜にして資材の半分が消失したのだという。

「放火...か」
スティール、そしてサンディの見立てにうなずくエインフェリア。
警備を増やしてはいるらしいが、連日のように事故が多発しているらしい。

  ***

一方その頃。
氷結洞では、土の将ガイラが"臭くない毛皮"にくるまっていた。

「...はじめ、妨害活動などは、将のすることではないと思っていたけど...、考えてみたら、火遊びなどは子どもの頃以来...。案外楽しいものだわ」
話を聞いていた副将サージに言われて、はじめて自分の口調が変わっていることに気づくガイラ。

周囲がオトナ(見知らぬ人)ばかりだと、自然と武張った言葉使いになってしまうが、ここまで一緒にいる仲間だと、年相応の言葉使いになるらしい。

ガイラは、ザレルではごく普通の武門の家に生まれた。
小さい頃から野山を駆け巡り、父や兄から剣を仕込まれて育った。

戦闘民族国家ザレルでは、女子といえど戦士として育てられる。
"ザレルの民は、赤子以外皆戦士なり"そんな言葉が国民全体に浸透しているのだ。

10歳で初陣。
以降、賊の討伐やら反乱の鎮圧やらで運よく生き残り、本人も武功は取りにいったものではなく、後からついてきたという認識でいる。

『孝廉』という、ザラール帝国が最初に滅ぼした大国の推薦制度を広く採用しているザレルでは、村や一族単位で優れた能力を示した者を中央政府に推薦するという習わしがある(当然、推薦された者が不祥事を起こすと推薦者と一族は責を負う)。

ガイラの武勇は、一族はおろか近隣の村々に鳴り響き、最初はザレル大王の近衛兵として大都に上るはずだったのが、いろいろな大人の思惑が絡みあって、気がつけばザレル大王の妃候補に祭り上げられていた。

ガイラにとってザレル大王とは、一度も見たこともない存在。
しかし、ガイラにとって大王との結婚は、ガイラがザレルという国に対して抱く忠誠の延長上にあるもの...。
ガイラが身を呈してザレル大王に降りかかる火の粉や凶刃を払ってみせる心づもりでいる。

「お前は? どうして大神官殿に仕えたんだ?」
じっと見つめるガイラの視線を避けるようにうつむいたサージは、自分は使命のために造られた存在ですから...とつぶやいて、洞穴の入り口に歩いていった...。

  ***

刺客に狙われているというのに、ヴィクターは視察に現場監督、白魔道プラントと、精力的に歩き回る。
警護に苦心するスティールに、いくら自重するよう言われてもどこ吹く風...。

魔物を使った襲撃、建設現場での荷崩れに落石、放火、人為的な雪崩...。
頼むから大人しくしてくれと懇願してみせるスティールに、妨害によって工事が遅れているので自分が動き回らないといけないという謎理論でまったく聞く耳を持たない。

今日も、吹雪が吹き付ける中、公国軍総司令部へと向かうのであった。

  ***

公国軍総司令部の白魔道プラントでヴィクトリアの容体を診たヴィクターは、とんぼ返りして白魔道の2番ケーブルの建設現場の視察に向かう。

昼過ぎにあった地震のせいで、朝の測量値が使い物にならなくなっていた。
たったこれだけの...ほんの数十歩分の断層のせいで...!
ヴィクターでなくとも、その悔しさは理解できる。

  ***

ルミナが姿を現し、僕たちの道草を非難する。
クレアが、土のクリスタルに案内してくれそうな少年が激甚断層のせいで困っていて、それどころではないことを伝えると、少し考え込んだルミナは、
「だったら、なおさらそのヴィクターって子に、土のクリスタルに案内させるべきよ」
...と、まるで今までの話を聞いていなかったかのような、順番が違っていそうなことを言う...。

曰く、クリスタルが息吹を分け与える時は、クリスタルの方も多大な力を使う。
それによって、群発地震が止んだタイミングをみて、そのわずかな時間で工事を進められるかが問題だけど、それに関しては、ルミナは与り知らず、僕たち人間が知恵を絞れというのである...。

ほんのわずかな時間で、2番ケーブルの工事を済ませるだけでなく、その後も激甚断層の動きによってケーブルが破損することなく運用されないといけない...。

僕は、あるアイディアをクレアに耳打ちし、ヴィクターに提案してみることにした。

  ***

まず激甚断層上の工事は、放っておいて、エタルニアの街の方からもケーブルの敷設工事を進める。
双方からの工事が完了したならば、土のクリスタルへ参詣し、息吹を入手する儀式を敢行し、それによって群発地震が止んだタイミングで、残りの工事を済ませる...それが、僕たちが提案した内容だ。

土のクリスタルの参詣を、元帥府が許可してくれること。
工事後、ふたたび起きる地震によってケーブルが損傷しないような仕組みを構築し、儀式によって群発地震が止んでいる間に、速やかに工事を済ませてしまうこと。

いろいろとクリアしないといけない関門が多いミッションではあるが、このまま地震のたびに工事が中断されるよりは、微かにではあるものの可能性があるといえる。

ヴィクターは、さらに詳しい説明を望み、僕とクレアは、練りに練った作戦を披露した。