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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第002章] 2-15

神殿の待ち伏せ

担当:サンドラ・カサンドラ

吹雪の中、時折遭遇する魔物を蹴散らしながら、東へ東へと進む。

途中、雪洞を作って小休止し、ホーリーの手作りだという軽食で腹ごしらえをする。
火も熾して湯も沸かし、ヴィクターの好物だという"昆布茶"を飲んだ。
海藻の香りがする少ししょっぱい飲み物...なんとも不思議な味だったが、なによりもその温度が最大のご馳走だった。

めいめいに少しずつ仮眠をとって一夜を過ごし、夜明けとともに出発すると昼前には『不死の塔』に到着した。

入口の石畳に指をそわせ、スティールが首を傾げている。
スティールの目くばせに、あたしはそっとうなずいて辺りを見回した...。

  ***

ヴィクターが扉の側に隠してあった端末に何かを入力すると、奥で何かの音がして両開きの扉が少しだけ開いた。
あたしが左側、スティールとエインフェリアが右側の扉を引き開ける。
(数年間、封鎖されていたわりには...)
反対側で扉を引くスティールも、同じことを思ったようだった。

  ***

「お宝なんか、どこにもなさそうだな...」
辺りを見回していたスティールが振り返って言った。

独特な石柱や壁飾りに大きな石床...元は神殿だったことを表す建物ではあったが、むき出しの配線や、固定されることなく床を這わせたダクト類、大小の機材が無造作に壁の左右に置かれ、書類の山が床に散乱している...。

「...これはね、正教と決起軍の境なく、数多くの技術者が、不眠不休で土のクリスタルを鎮めようとした証だよ」
ヴィクターが、そばにある何かの機械に手を置き、4年前の当時に思いをはせる。
クレアが床に落ちていた当時の人たちのメモ書きに目を通し、うつむく...。

「クレア、感傷に浸るのは...、物陰に潜むデカいネズミどもを追っ払ってからがいいね」
(久々に、クレアにかける言葉がこれだっていうのかい...)あたしのイラつきをあざ笑うかのように、機材の陰から見慣れた甲冑姿の兵たちが現れる。

搭内に蠢く魔物かと思ったが、まさかザレルの待ち伏せとはねぇ...。
あたしは大剣を下段に構え、足元の滑りを確かめた。
よし、雪に濡れていても石床の上で滑らない...いい雪用ブーツだ。

どうして許可を得られたばかりの不死の塔に待ち伏せがいるのか...。
ヴィクターの指摘はもっともだったが、不死の塔の扉を開ける時点で、直前に侵入者がいた兆しはあった。

(北門の外を警戒した時...とすると、総司令本部にも内通者がいるってことかい...。そして昨夜も...。雪洞で野営した時に追い越されたのかねぇ...)

「ようやく姿を現しやがったな~? ザレルの三下どもめ...!」
スティールの啖呵が塔の中に鳴り響く...!

  ***

ふと背後に目をやると、身構えるクレアとルーファスのさらに後ろにヴィクターとホーリーがいる。
ホーリーが健気にも小さな手を精一杯広げてヴィクターを守っている。
すぐ後ろで、ヴィクターは腕を組んで憮然と立っている。
(男だ~女だ~細かいことは言わないけどさ、その姿勢はどうなんだ? ヴィクター)

視界の隅で、スティールが右へ左へと走り回り、そのたびに敵兵が倒れてゆく。
あたしの隣には、エインフェリアが太刀という曲刀を正眼に構え、時折突出してくる敵兵を斬りつけている。
(ほう、この時は、まだ槍じゃなかったんだねぇ)
わずか14歳にしては、なかなかの腕前...将来が末恐ろしかった。

  ***

敵の第一波が止んだ...!
スティールの啖呵が再び鳴り響く。
「おい、いつまで物陰に隠れているつもりだ? 出てこいよ! 土の将ガイラ!!」

暗闇から姿を現すガイラとザレル兵たち...。
物陰にいたことを潔しと思っていなかったのか、少し強張った声でガイラが居直ってみせる。

「よくわかったな、ポン・コーツ!!」

「だーから、それは偽名だっつーの!」

「なに? 私を騙したというのか...! ひどいヤツだなお前は...」

ガイラとスティールが不毛な言い合いをしている間に、ルーファスがエーテルを飲み干して魔力を補給する。
あたしの大剣は...、いくつか刃こぼれが見えたが大丈夫そうだった。

  ***

「あ、あなたたちも、土のクリスタルに用があるの...?」
クレアの素直過ぎる問いに、正直に答えるガイラ。

「ああそうだ。あの堅固な公国軍総司令部の北門を通るまで、苦労に苦労を重ねてようやくここまで来た!!」

ザレルもまた、土の息吹を狙っているというのか...。
あたしたちがそう思いかけたとき、ルミナが姿を現して叫ぶ。

「違うわ! ヤツらが欲しているのは『土の命脈よ』」

『息吹』と『命脈』...いったい何は違うというのか...。
ルミナによれば、息吹とは"クリスタルの恩恵"で、命脈は"クリスタルの命そのもの"のことをいうらしい。

そう言われても...いまいちピンときていないあたしらに、クレアが「~を奪う」と付け足してみたら...とつぶやいた。
"クリスタルの恩恵を奪う"こちらはあまり意味が通っていないが、"クリスタルの命そのものを奪う"となると、俄然危機感が増してくる。

ザレルは、クリスタルの命そのものを奪おうとしているというのか...。

  ***

土の将ガイラが大剣を旋回させている。
どうやら戦いたくてうずうずしているようだ。

ガイラが左手を宙に掲げた時、クレアとルーファスがすぐ後ろに詰めてくる。
あたしはエインフェリアに離れるよう目で合図して、前方のガイラたちを見据えた...。

  ***

あたりの風景が、あの巨大な石柱が浮遊する異空間に変わった。
土の将ガイラと数人のザレル兵、こちらはあたしたち4人...。

外に残してきたヴィクターたち3人が心配だったが、彼らを救うためにも一刻も早くガイラたちを倒さないといけない。

21年前のブラスの戦いでは将来我が良人となるザレル大王に狼藉を働いたそうだな →そんな赤ん坊の頃の話知らねぇよ →はっはっは! 私だってまだ生まれてもいない ...ガイラとスティールの噛み合ってそうでまったく噛み合っていない会話が、搭内に反響している。

「それに、昔も今も、襲ってくるのはお前らザレルの方じゃねぇか!」
...と、スティールが全ブラスの住人の代弁をすると
「我らは、赤子以外は皆戦士といわれるザレルの民。血に刻まれた衝動を抑えることなどできぬ! 我らの領土のそばに生まれたことを恨むのだな...!」
...とガイラは居直る。

(なんとも身勝手な論理だ...。しかし、古今東西、星の数ほど起こった戦の理由など、だいたいこんなものなのかもしれないねぇ...)
ガイラの言葉に妙に感心させられて、踏み出しが一歩遅れてしまった...。

  ***

土の将ガイラの後ろに控える兵は、これまで戦ったザレル兵とは比べものにならないぐらいに強かった。

ガイラと交わす言葉の端々に、ガイラの親族だったようにも思える。
その最後のひとりが膝をついた時、辺りの風景が元に戻った。

すぐさまスティールが、近くでエインフェリアと鍔迫り合いしているザレル兵を蹴り飛ばす。

戦況を問うエインフェリアに、あたしが大剣を構える相手の方を見るよう促すと、数人の兵に肩を担がれた土の将ガイラが暗闇の中に立ち去るのが見えた。

「敵の大将を退けはしたが...、念のため残敵に注意して先を急ぐよ...!」
あたしたちは、不死の塔の最奥...土のクリスタル祭壇を目指した。