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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第002章] 2-18

土のクリスタル祭壇

担当:クレア

ヴィクターを先頭にして、その左を私とルーファス、右をエインフェリアが守りを固めて前方の敵に備え、追いすがる敵はサンディとスティールが蹴散らしながら前に進む。

あの防護服の技師の姿は見えなかったが、探しに行く余裕などなかった。

途中、幾度かザレル兵の襲撃を受けたが、土の将ガイラの側にいた兵に比べて腕前も練度も劣るように思えた。

  ***

ヴィクターが開けた観音開きの扉を駆け抜け、後ろから迫ってくる敵兵にサンディが大剣を一閃した後、内側からすかさず閂(かんぬき)をはめる。

「これで、少しは時間稼ぎできそうだねぇ...」
サンディのつぶやきに、私たちは何も答えられずにいた...。

「こ、これは...! 巨大だとはサンディから聞いていたけど...」
ウィズワルドで見た土のクリスタルは片手で持てるぐらいだったのに比べて、今目の前にあるクリスタルは、まるでブラスの街のそばにあるテーブル岩のように大きい...。

そして、なにより...

「こんなにボロボロになって...」
土のクリスタルの表面には、何本もの鉄製の管が穿たれ、大きなヒビが無数に走っている。

「僕たち決起軍と正教の技術者が、寝る間も惜しんでようやく漕ぎつけた形がこれさ...」
ヴィクターが悔しさを押し殺したような声で乾いた笑みをみせていた。

クリスタルと交信ができる巫女が死んで、『大祈祷』によって暴走が極まっていたクリスタルを鎮めるには、クリスタルを穿ち、この刑具のような鉄の管を取りつけて、溢れる土エネルギーをクリスタルの外に出すことでようやく砕滅を防げたのだという。

正教の技術者などは、涙すら流していたという。
私には、それが痛いほどわかる気がした...。

  ***

「ほう、これは...」
儀式のために私が掲げたランタンの中に、ルミナの姿を見たヴィクターが驚き...というよりは興味深そうな声をあげた。

クリスタル正教の伝承に『クリスタルの精霊』という小さき者がいるらしく、ルミナに向かって「君は、その精霊なのかい?」と問うと、ルミナはかぶりを振る。

「違うわ。私は遠い不毛な世界にクリスタルを生み出す存在...」
今度はルミナが人語を解することに驚きを見せるヴィクターは、直接話したくてランタンを指で軽くつつく。

「無理だよ、あたしの大剣でもびくともしないんだから」
試したのかい...? さっきからヴィクターは驚きっぱなしでいる。

何の流れでかは忘れてしまったけれど、ルミナのランタンはどんな力でも割れないという話題になり、最初こそ棒で叩くぐらいだったのに最後はサンディが大剣で、渾身の一撃をランタンに喰らわせていた。
もちろん、ランタンに傷一つついておらず、ランタンの中で吹っ飛ばされたルミナが大きなコブを作ったぐらいだった。

「ひどいな、君たち」
ヴィクターは眉をひそめ、ルミナは腕を組んだまま大きくうなずいた。
「あの仕打ちは絶対に忘れないから...!」

  ***

儀式を始めるに際して、ヴィクターはエインフェリアとホーリーを、戸口の方まで下がらせた。

今から何が起きるのかを事細かく聞き、私たちの中心になる位置に立って儀式を監視するつもりのようだ。

精神を集中していたルミナが目を見開き、土のクリスタルに語り掛ける。

「わ、我は、ルミナ。遠き世界の、クリスタルの母となる者なり!」

「かの地の土の災厄を祓い、さらなる荒廃を止めるため、願わくば、土の息吹を分け賜えらるとかたじけなく...。.........。ね、願わくば、ね、願わくば、土の息吹を分け賜えらるとかたじけなく...ん~~、お願いっ!!」
ルーファスが、眉間を指でつまんでかぶりを振っていた...。

最後の最後で祝詞が飛んでしまったルミナであったが、クリスタルはルミナの願いを聞き届けてくれたようだ。

「こ、これが...土の息吹...?」
巨大なクリスタルの中心から、まばゆい小さな光が飛んできてルミナのランタンの周りを回転している。

まばゆい光に包まれたルミナが、自らの羽を指し示すと2つ目の紋様に彩りが灯った。

「終わったわ」
儀式の終了を告げたルミナに、土のクリスタルが...「少しだけ穏やかになった気がする」と、暴走するクリスタルを見続けた者特有の表現で応えるヴィクター。

「だったら、その手に握る起爆装置を離してもらえるかい?」
サンディに促され、バツ悪そうに白衣のポケットから手を出して、小型の起爆装置を差し出すヴィクター。

「構わねぇよ。一歩間違えば、国を滅ぼしかねないものを、見ず知らずの俺たちに委ねるんだ」
そのぐらいの保険はかけないと...、その気持ちもわからないでもなかったけれど、何度も言うように齢14歳の少年の行動なのである...。

私たちの中央に立って、爆発の効率を高めると同時に、エインフェリアとホーリーを戸口の方まで下がらせて爆風を浴びるのを最小限に済ませようとする配慮も見せるこの二面性は、いったいどこからくるものなのだろう...。

微かに震えている手を恥ずかしそうにポケットに隠したヴィクターは、姿を見せない防護服の研究員の行方を問うも、誰もわからなかった。

土のクリスタルが落ち着いているのはほんのわずか...。
帰路、研究員を探しながら工事を再開すべく帰路を急ぐことにした。

  ***

集まってきた兵の数を数え、土の将ガイラは肩を落とした。
連れてきた一族の者も1人しかいない。
伯父も、従弟の姿も見えなかった。

「ガイラ様が派手に戦い、退いてこられたおかげで私の仕事がしやすくなりました」
サージのセリフが気休めにしか聞こえてこない...。

ガイラは、ブラスの者たちが何やら儀式をしていたこと...。
あの儀式は妨害すべきではなかったのか? と身を乗り出すと、膝から崩れ落ちる。
どうやら、先の戦いで血を失い過ぎたようだった。

ガイラを助け起こしたサージは、今までにない優しい声でガイラに言って聞かせる。

「いいえ、我らの目的は、ヤツらの儀式を妨害することでも、ヤツらに勝負して勝つことでもありません」
むしろ、ヤツらに勝ちを譲り、儀式を成功させてもらった今こそが絶好の好機だというのだ。

正直なところ、この上なくガイラは役に立っている。
胸を張って、大都へと帰還すべきだというサージの言葉を容れて、ガイラが帰還の準備に入る。

ガイラは、見える範囲に横たわる兵の骸をすべて自身の周りに運ばせ、生き残った兵士もそばに寄せ、左手を宙にかざした。
石の床に魔法陣が浮かび上がり、光がガイラたちを包み込んだ...。

  ***

たったひとり残された副将サージが、土のクリスタル祭壇がある方をじっと見つめる。

「さて...ブラスのヤツらもヴェルメリオに帰ったら、思いっきり暴れ回ってやる...!」
先ほどガイラにかけていた優しい声とは打って変わり、遠慮や気遣いをなくしたというか、残忍さすら感じられる声音になっている。

「その前に...」
サージはくるりと後ろを向き、物陰から逃げ出そうとしている防護服の技師を睨みつける。

「お前はもう用なしだ...」
腰が抜けてしまっている技師に、サージがゆっくりと近づいてゆく...。

「クリスタルへの手引きのためとはいえ、わが主への暴言や非礼の数々...許し難し...!」
マスク越しの籠った悲鳴は途中で聞こえなくなり、代わりに、何かが地面に打ち捨てられる音が響いた...。