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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第003章] 3-4

とんぼ返り

担当:ルーファス

血砂荒野特有の、何かが錆びついたようなにおいが鼻の奥を刺激する...。

(つい数日前にも嗅いだにおいだ...)
ゴリーニ湖の生臭いのも、血砂荒野の錆び臭いのも僕にとってはうんざりだった。
ハンカチに塗布した香水の瓶が空になってしまった...。
前々回の転移でウィズワルドに行った時にたくさん買って帰ったので、当面なくなることはないだろうけど...ヴェルメリオでもお気に入りの香水を探さないとな...。
以前から欲しがっていたクレアに、香水の空き瓶をプレゼントしたら大喜びしていた。
(香水の中身自体は、目がシバシバする...とまったく興味ないとのことだった...)

「結局は、また賢者の間にとんぼ返りかよ」
先頭を行くスティールが振り返り、両腕をすくめてみせる。

あのままゴリーニ村にいても、時折出現する魔物の退治しかやれることがないのは、スティールにも十分わかっていた。
それでも...この何か損したような気分は、ここにいるサンディ以外全員が感じていることだった。

クリッシーはゴリーニ村へ置いてきた。
ブラスについて行きたそうだったけれど、これから賢者の間へ、そして異世界に行ってザレルと戦うことを考えると、正直足手まといだった。

せっかくゴリーニ湖へ行ったのだから、名物の『湖水料理』を堪能したかった...そう切なそうな顔をして残念がるクレア。
たしかに、僕たちが村でふるまわれたのは、塩っ辛い小魚とかエビの乾物などが多かった。
それは、保存用の食料に手をつけ始めるほど村が困窮し始めていることを表していて、僕たちの(異世界転移のための)とんぼ返りを急かす要因になっていた。

サンディは、村人からゴリーニ湖名産の『泥蟹鍋』のことを聞いたらしい。
カニ好きのサンディが、大張り切りなわけだ...。

  ***

血砂荒野では珍しく隘路(あいろ)になっている個所を通過する時、先頭を歩くスティールが足を止めた...。
見ると、前方から怪しげな2人が歩いてくる...。

ひとりは、薄桃色のローブを着ていて、大きな薔薇の模様をあしらった仮面をかぶっている。
もうひとりは、黒いローブに不気味な白いマスク姿で、"薔薇の仮面"の従者のように後方に控えている。

「おい、目ぇ合わせんなよ」
スティールが、敢えて2人を見ないでみんなに警告する。
どう見ても、まともな人には見えない雰囲気をぷんぷんさせている...。
僕たちは、隘路の左側に避けて、2人が通過するのを待った。

「...旅の者よ」
すれ違うかと思った"薔薇の仮面"がいきなり話しかけてくる。
クレアなどは、どこから出たかわからないような声で驚いている。

僕らと仮面の主従は、お互い隘路の崖を背負った形で対峙している...。
スティールとサンディが、どのような展開になってもよいように気を張り詰めているのがわかった。

「私は、Mr.ローズ」
薔薇の仮面が名乗った...! 少し野太い男性の声...名前や性別がわかったところで不気味さはちっとも変わらない。

「ずいぶんと警戒されているようだな...」
「そのようですね」
Mr.ローズとその従者は、ぼそぼそと何かを話していたかと思うと、再び西に向かって歩いてゆく...。

「なんだい、あれは...」
「さあな...、害意はなさそうだったけどな」
「怪しい風体だったね...」
2人を見送る形となった僕たちは、2人の姿が見えなくなった頃にようやく東へと歩きだす。

  ***

一方、ローズ主従は西へと向かいながら僕たちについて語り合っていた。
クレアの服の校章からブラスの錬金ゼミの生徒であること、デバコフ教授の生徒であることを看破し、
「預けていた卵がようやく孵る、か...」
...と謎のつぶやきをし、従者は無言でうなずく...。

ふと足を止め、振り返ったローズが次に向かう地を問うと、従者は、
「クランブルス四家の筆頭、アルデバイド家領へ」
...と答える。

軽くかぶりを振ったローズは、再び東へ向けて歩きはじめた...。

  ***

ようやくブラスの街に到着したのは、明け方、城門が開く直前だった。

少しは休めるのかと思ったら、昼過ぎには出発...旅の準備を考えるとどう考えても休む暇などはなかった。

城門から広場にかけて、行商人がござを引き、屋台も建ち始め、掘り出し物を探しに客もちらほら見え始めている。
その中に、イヴァールの姿もあった。

イヴァールは、頼んでおいた『南の大地溝』の調査を完璧にこなしてくれたみたいで、群発地震は体感レベルでは一度も起きていないこと。間道については、村のならず者から聞き出した情報の一部をテロール将軍に報告して、大いに褒めてもらったとのこと。

からかい交じりに褒めるスティールに、「化学ゼミの級長が、錬金ゼミのクレアなんかに後れをとるわけにはいかない」と胸を張るイヴァール。

サンディと僕も調子に乗ってイヴァールとクレアの2人をからかうと、
「くっ! こ、これだから錬金の徒は...なんて品がない! つきあってられないね!」
...と真っ赤になって駆け去ってゆくイヴァール。

朝霧の中に消えてゆくイヴァールを見ていたクレアがつぶやく...。

「...イヴァールと私は、ともにブラスの出身で同い年。21年前のブラス攻防戦で、ともに両親を失ったわ...」

ケラケラ笑い合っていた僕らは言葉を失い、スティールは「そんなことでライバル視、か...」と、ぼそりとつぶやく。

僕も、そしてきっとサンディも...、たとえライバル視でも過去を共有できる者がいることは、うらやましいことだと強く思った。

遠くで武具の行商に来ていた老人が、ランケード伯のバックラーを売りつけようと旅人に声をかけていた...。
まだ売れていないらしい...。