BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第003章] 3-10

強襲のエインフェリア

担当:サンドラ・カサンドラ

あたしたちは、水の神殿へ向かうというオリビア様を護衛する形で南へと歩いている。

アリーシャ司祭のことを明かした手前、ただでさえ口数は少なくなり、オリビア様もどう会話を続けてよいか考えあぐねているようだった。

「よろしければ、あなた方のお話をお聞かせください」
しかし、あたしは、この張り詰めたような気配が気になって仕方がなく、何も答えてやれないでいる。

「ダメ...ですか。そ、そうですよね...」
そう悲しそうにするオリビア様に、ぶっきらぼうにスティールが答える。

「別にダメじゃねぇさ。だけど、今はちょっと話をしてる場合じゃねぇんだ...」
クレアもルーファスも、気がついたようだ...。
自然とオリビア様を囲むようにして敵の襲撃に備える...。
しかし、見える範囲に敵の気配はない...。

それまで聞こえていた鳥のさえずりがピタリと止んだ...。

(...上かっ...!!)

太陽で目がくらむ!!
細めた視界の中から、何かが急降下してくる...!!

スティールがオリビア様と従者の手を引き後方へ退り、あたしが正面に、クレアとルーファスは側面に備える。

急降下してきたそいつは、すっくと立ちあがり、地に深々と突き刺さった槍を引き抜くと、静かにあたしたちの方に向かって槍を構えなおす...。
その姿を見て、あたしたちは驚愕の声を上げた...。

「お、お前は...!! エインフェリア・ヴィーナス...!!」

  ***

「ほう、赴任してまだ日も浅いというのにこの地で私を知る者がいるとはな...」
公国暦13年...、22歳になったエインフェリアが、槍は構えたまま意外そうな顔をしている。
これが、あのエインフェリアの8年後の姿なのか...。
8年も過ぎていれば、あたしたちのことを憶えていないのも無理はない...いや、そもそもあたしたちが出会った世界と、この世界が同じとは限らないか...。

あたしたちの困惑をよそに、エインフェリアがオリビア様に話しかける。

「そこにおわすは、水の巫女オリビア・オブリージュ様と推察します」
言葉使いこそ礼儀正しいものではあったが、明らかに友好的なものではない。

「おとなしく我々についてきていただきたいのですが、お付きの者がその殺気では、無理でしょうな...」
そう微笑みを浮かべたエインフェリアは、後方の茂みに向かって叫ぶ。

「仕方がない。者ども、水の巫女を捕らえよ...!! 他の者は排除するのだ!」

茂みに伏せていたエインフェリアの兵がばらばらと姿を現し、スティールが悲鳴をあげる。

「わわわっ!! ただでさえ勝ち目はねぇってのに、新手かよ!!」
「おいルーファス! 逃げるぜ! 命あってのものだねだからな」
...そう言うとスティールとルーファスは、オリビア様を置いて背後の森の中に逃げ去ってしまった。

「ふん、情けない男どもだな...」
エインフェリアの表情に侮蔑の色が現れ、兵たちに逃げ出したスティールたちを追わせようとはしなかった。

(それが、あんたの潔さであり、しなやかさに欠ける部分でもあるのさ...)

心の中でそうほくそ笑んだあたしは、『ブラッドローズ特務隊』の名を出してさらに揺さぶりをかけてみる。

「ほう...、まだ公になってもいない我が特務隊の名を知るお前は、いったい何者だ?」
エインフェリアの槍先に殺気が現れ、あたしに向けられる...。

「これから、あんたたちがこの国でしようとしていることをすべて知っている者さ...」

「敬虔な信徒で溢れるこの国に、美を競う概念を植えつけて堕落させ、国土を荒らし、人心を荒廃させて、巫女様を孤立するように仕向ける...。すべては、クリスタルを人の手で管理することを理想とするエタルニア公国の思想のためだろう?」

「帰ってあの赤髪の男に伝えるんだね。あんたの浅知恵を看破していたヤツがいる、ってね」

あきらかに動揺を隠せないでいるエインフェリアが叫ぶ...!

「ずいぶん強気だな。我が手勢に囲まれていることを忘れたか!!」

エインフェリアがそう言い終わるよりも早く、背後の兵たちがルーファスの雷に撃たれ、飛び込んできたスティールの長剣によってバタバタと倒れこむ...。

「な、言った通りだろう? 高潔な武人ほど、回り込むなんて小ずるい手は看破できねぇもんなんだよ」
自らの油断によって総崩れする手勢、そして、スティールの耳に痛い悪口によって、エインフェリアはさらに追いつめられる。

「さあ、この形勢...。カミイズミ道場門下生は、どう判断するんだい?」

言われなくても、逃げの一手しかなかった。
それに加え、この得体のしれない徒党は、自分についての情報を何から何まで知っている...。

「くそっ...! ひ、退くぞっ...!!」
エインフェリアの号令で、兵たちがよろよろと立ち上がる。
元より致命傷を負った兵はひとりもいない。

「どうぞどうぞ...」
回り込む途中、沼地に片足がつっ入ってしまったというルーファスが、片方の靴を脱ぎながら、退路をしめしてやると、特務隊の兵たちはそれぞれが肩を貸し合いながら一目散に逃げていった。

エインフェリアは、兵たちが退くのを確認した後に、再び大跳躍して陽光の中に消えていった...。

  ***

「そうですか...。この国を狙っているのは、エタルニア公国の...」
あたしの詳しい説明を受けて、ようやく敵の実像を掴めてきたオリビア様...。

(やはり、公国暦5年のあの時...、まだ槍を持つ以前のエインフェリアをこの手で...)
あたしの邪念を見抜いたのか、スティールに、そしてクレアにまでたしなめられる。

「冷静になれ、サンディ」
「そうよ。あの世界とこの世界が一致するかどうかもわからないじゃない」
「それに、罪も犯していないガキを、お前が斬り捨てられるわけがねぇじゃねぇか」

ルーファスが、裸足になって濡れた靴を履きながら2人の言葉に、しきりにうなずいている。

  ***

周囲に敵の気配は、なくなった。
あたしたちは、『水の神殿』に向かって南へと歩きはじめた。

  ***

水の神殿の外観、そして内部は、不死の塔と違って整然としていた。

「...って、不死の塔と水の神殿とは別物か」
そうスティールはつぶやいていたが、不死の塔も元々は土の神殿と呼ばれていたのだ。
単に、"クリスタルを信奉するのではなく人の叡智をもって管理しよう"とエタルニア公国が提言した手前、神殿と呼ぶのをはばかっただけの話である。

水の神殿内には、魔物の気配も一切なかった...。

ここ水の神殿は、フロウエルとラクリーカの間にある『内海フロウ・ラクリー』に面した断崖上に建っていて、『大穴事件』によって世界中の海洋が腐りだし、船の航行ができなくなった時も、内海フロウ・ラクリーだけは清浄を保っていられた...それは、水の神殿に隣接していて、常に水が浄化されていたからだといわれている。

「あのう...、世界中の海洋が腐る、とは...?」
あたしの説明に耳を傾けていたオリビア様が、我慢できずに質問する。

オリビア様には関係がないこと...いや、最終的には大いに関係が深いこと...あたしが答えに窮していると、クレアがヴェルメリオという自分の故郷のことだと取りなしてくれた。

「それは難儀なことですね...」
親身になって相談に乗ろうとしてくれるオリビア様であったが、あたしたちは、元より解決策を求めてこの世界にやってきているのである...。
さしたる解決策も見出せぬまま、あたしたちは神殿の最奥、水のクリスタル祭壇へと向かった。

  ***

「水の神殿が、これだけ整然としているのは、母巫女様...私からみての先代水の巫女が施した結界が今でも効いているからなのです」
水のクリスタル祭壇に続く大きな扉の前でオリビア様は、そう言った。

そして、静かに振り返り、
「そこに、本日は、私も封印の結界を張ります」
そう、高らかに宣言した。

歴代巫女が、重ねて張る結界は、オリビア様が許可した者以外、何人たりとも水のクリスタルへ介入することはできなくなるといい、それは、エタルニア公国の者は元より、クリスタル正教の者であろうとも不可能になるとのこと...。

「そして、あなたたちであっても...!」
オリビア様の厳しいまなざしが、あたしたちひとひとりの瞳を、まるで何かを確かめるかのように射貫いてゆく...。

「あなたたちも、水のクリスタルに何か大切なご用がありそうですね?」
そう問いかけながら、扉にかけるオリビア様の手は小刻みに震えていた...。

  ***

「私たちがいた世界には、クリスタルがありません」
ルクセンダルクとは違う世界という意味をよく理解できずにいるオリビア様であったが、クレアの説明に耳を傾けている。

あたしたちが、クリスタルに害なす者とわかった時には、たとえ敵わぬまでも自分がなんとかせねば...そう思い詰めるオリビア様の姿に、まずはスティールが長剣を床に置いて応え、あたしたちもそれに倣った。

クレアたちの世界ヴェルメリオは、火、水、風、土...様々な力が極端に弱まっていたり、極端に強くなっていたりする状態が混在している...といえる。
それが、今オリビア様が必死で護ろうとしている水のクリスタルが、どのように関係するのか...。

「それを、この者が説明いたします」
...とクレアは、オリビア様の眼前にランタンを掲げてみせた。

  ***

「こ、これは...もしや、クリスタルの精霊...?」
ランタンの中に、小さな人がいる...あたしたちが初めてルミナを見た時のような衝撃を、オリビア様は感じていないようだった。

「いえ、錬金の妖精よ。私は、かの世界にクリスタルを創り出そうとした者の希望...」
ルミナの説明の真意をクレアに目で問うオリビア様...。
クレアは、これまでのいきさつをかいつまんでオリビア様に説明した。

  ***

「...そうですか...。クリスタルを創り出すために、水のクリスタルから『水の息吹』を...」
思ったほど驚きも怪しんだりもしないオリビア様に、少し拍子抜けしたルミナが、クリスタルを創り出すには、全部で8つの息吹が必要なことを...クレアはゴリーニ湖の窮状をそれぞれ訴えた。

「...わかりました」
しばし思案していたオリビア様だったが、扉の方に振り返った。
扉の中央の法印に手をかざすと、重々しい音を立てて扉が左右に開いてゆく...。

「未だ半信半疑ではありますが...、この小さき者を目の当たりにし、あなた方の真摯な眼差しを見れば、妖言と決めつけるわけにもいかないでしょう」
扉が開き切ると、再びオリビア様はあたしたちに向かって優しく語りかける。

「元々、その『息吹』というものは、『継晶の儀』という次代のクリスタルを生み出す儀式で必要不可欠な思念体のひとつで、比較的穏当にクリスタルへの負担が少ない儀式で得られるものだと、クリスタル正教の聖典に書かれています」

"私の監視の下"という条件ではありますが...と、水の息吹の入手を許可してくれた。