BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第003章] 3-11

水の息吹の儀

担当:ルーファス

やはり、ルクセンダルクのクリスタルは巨大だ...。

水の巫女オリビアさんによると、クリスタルは、ほんの小さな欠片から5000年の年月をかけて一人前のクリスタルとなり、人々に恩恵を授けるようになるのだという。
もうすぐ8000年を数えるルクセンダルクの歴史が刻まれ始めた時には、すでにクリスタルは存在したというから、目の前の巨大なクリスタルの晶齢も、少なくとも8000年以上ということになる...。

「今、母巫女様の封印を一時的に解除しました」
水のクリスタルに何かを祈っていたオリビアさんが振り返る。

「時を置かず、水の息吹の入手を...」
オリビアさんに促され、クレアがランタンを掲げる。

ルミナが姿を現し、祈りを捧げる...。
「我は、ルミナ。遠き世界のクリスタルの母となる者なり!」

「かの地の水の災厄を祓い、さらなる荒廃を止めるため、願わくば、水の息吹を分け賜えらるとかたじけなく...」
...3度目ともなると、祝詞も過たずに捧げられる。

水のクリスタルから水の息吹が現出し、ランタンの周りを回り始める。

「あ、あれが、水の息吹...!」
オリビアさんも、水の息吹を実際に見たのは初めてだったらしい。

ルミナの羽の水色の紋様がひとつ、彩られる...。
サンディに促されて、すかさずオリビアさんが水のクリスタルに封印の結界を張る...。

  ***

「...これで、水のクリスタルへは、何人も介入することができなくなりました」

ただ一人、私との思い出の言葉を知る者以外は...。
それが、風の巫女アニエスであることを言い当てたサンディに、軽い驚きを覚えながらもオリビアさんはゆっくりとうなずいて見せた。

  ***

水の神殿を出た瞬間にわかる闘いの気にスティールが、そしてサンディが反応する。
僕は、クレアと一緒にオリビアさんの前に立ち、敵が姿を現すのを待った...。

「ブラスの者は立ち去りなさい。わたしたちは、水のクリスタルに用がある」
水の将ソーニャが姿を現すと、そこかしこの茂みからザレルの兵がわき出てくる...。

「水のクリスタルは、たった今、水の巫女様によって封印されたわ...!」
クレアの叫びにも、「それでは水の巫女を置いて立ち去りなさい」とソーニャは取り合わないし、うちのサンディ姐さんもそんなことは承服するはずがない。

  ***

譲り合うわけにはいかない同士の気合いがぶつかり合う...。
そんな中、水の将ソーニャは、ザレル側の、そしてソーニャの事情を語り始める。

「わたしたちは、20年間眠りから覚めぬ大王様を目覚めさせるため...。そしてわたしは、大王様の妃となり、祖国ツララスタンの再興を言上するため...! 何が何でも水のクリスタルを、水の命脈を入手せねば、なラんのです...!!」

ソーニャの口調に巻き舌が混じり始め、僕たちの脳裏にあの剛腕によって繰り出される斧の恐怖が蘇る...!!

「あんたにとって、大王様や祖国の再興が大切なように、この世界の人にとって水の巫女様も水のクリスタルも大切なんだ...! みすみす引き渡すわけにはいかないね!」

水の将ソーニャはサンディの啖呵を、他所の世界へ介入し自ら死地に飛び込む愚かな行為と憐れんだが、ルクセンダルクがサンディの故郷であることを知ると状況が変わってくる。

故郷を再興させたいソーニャと、故郷の危難を防ぎたいサンディのぶつかり合い...。

(これじゃあ、戦いは避けられそうにないよね...)
僕は、オリビアさんに従者と一緒に下がっているように合図すると、水の将ソーニャは左手の指輪を宙空に構え、念じ始める。

「大神官様からいただいた、古の指輪の力を今ここに...! 指輪よ、我に無限の戦場を与えよっ...!!」

  ***

また、あの巨大な石柱が浮遊する空間...。
僕たちにとっては幾度目かの慣れ親しん...でいるわけでもない世界。
水の将ソーニャは、初めて見る光景なのか少し驚いていたが、すぐさま不気味な音を立てて斧を旋回し始める...。

  ***

辺りの景色がフロウエルの花園に戻った...。
サンディが大剣を構える後方で、クレアが、スティールが、肩で息をしている。
僕は、一度地についた膝をなかなか上げられないでいた。

「先の一戦に比べれば、なかなかに見事な連携でした...。なれど、氷河をも砕く我が力には遠く及びません!」
ソーニャの鉄斧がゆっくりと旋回し始め、だんだん巻き舌になってゆく...。

「わたしの凍土のような固き信念に比べレば...、ブラスの者たちよ、そなたらの信念など、薪ストーブに乗った雪玉に過ぎぬ...!」

ソーニャの喩えをスティールが「もろいってことだろうよ...」と言っていたが、僕には薪ストーブに雪球を乗せることの意味自体がよく理解できなかった。
スティールは、きっと(お前ぇ、んなこと考え込む余裕があンなら、とっとと立てよな...!)と思っているはずなのに無言で息を整えている。

(あんまり、使いたくはなかったんだけどな...)
僕は、強張って動かない膝周りの筋に指をあて、小さな電撃でショックを与える...。
立ち上がった僕に、クレアがエーテルの瓶を投げてくれる。
僕は、グビりとエーテルを飲み干し、口を拭った。

「あたしらの信念が...、あんたの信念と比べてもろいかどうか...確かめてもらおうじゃないか...!!」
サンディの啖呵、折れない心が、武人としてのソーニャの心を躍らせる...。

「おもしロいっ...!! それではいざ、もう一戦っ!!」
ソーニャの鉄斧が再び旋回しようとしたその時、水の副将ウガンが制止する。

「ソーニャ様、いけません...! 今の戦いで、立ち上がれる兵はもうおりません」
見れば、ソーニャの周囲には、地に伏す者や膝をつくザレル兵が幾人もいる...。

たったひとりでも戦おうとするソーニャと、ザレル兵ひとりひとりにも家族がいる...ここは勝ちを得たままお引きくださいというウガンとの押し問答がしばらく続き、ソーニャとウガンは、負傷した兵を連れて茂みの中へと撤退していった。

  ***

遠くの林の中で、おそらくは水の将ソーニャがヴェルメリオへ戻ってゆく閃光が見えた。

サンディが、そしてクレアとスティールが、次々と膝をつく...。
僕たちにとってみれば、水の将ソーニャが撤退していったというよりは、見逃してもらったようなものだった。

僕は、激しい吐き気に襲われていた。
エーテルを飲み干した後に戦いが終わってしまったために、行き場をなくした魔力がバーストしているのだった。

僕たちは、隠れていたオリビアさんと従者とともに、周囲を警戒しながら水の神殿を後にした。

  ***

そんな僕たちを、茂みの陰からじっと見ている男がひとり...。
水の副将ウガンである。

「ふん、敵将が引き揚げれば、さすがに油断して気が緩むよなぁ...!」

ウガンは、先ほど、水の将ソーニャに撤退を進言していた真摯さなど微塵も感じられない凶悪な雰囲気を漂わせている。

水のクリスタルには2重の封印が施されていたが、そのようなものは所詮、クリスタルを至宝と思う者が施したものに過ぎない。
水の命脈さえ奪ってしまえば、水のクリスタルなどどうなってもよいと思っているウガンにとっては、クリスタルが破壊されることを厭わず封印を引き剥がせるというのだ...。

ウガンは、背後を確認しながらゆっくりと水の神殿へと入っていった...。