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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第004章] 4-3

出立の準備

担当:サンドラ・カサンドラ

「いつまでブラスにいるつもりなんだ?」
...そんなスティールの問いも、別に早く出て行けといっているニュアンスではない。
「いつまでって...、ずっといたいですね」
...応えるクリッシーも、はにかんだ笑顔を見せている。

クリッシーは、もうイトロプタの問題には、あまり興味がないという。

デバコフ教授と一緒にブラスの街に帰ってきていたクリッシーであったが、教授をはじめ、いろいろな人からクランブルス共和国とガーマ王国の関係、2国それぞれの思惑について、世界教に関する噂...イトロプタの再併合についての意見をあらためて聞き、考えが変わっていったらしい。

世界教といえば、クリッシーと一緒にブラスに来て、その後姿をくらました宣教師はどうなったのか...、クリッシーにもまったくわからなかった。

イトロプタの街で、そしてナメッタ村までの道中、ナメッタ村からニーザまでの道々で、宣教師からイトロプタの独立についてそそのかされてきたことを思い起こすクリッシーは、こうやって彼から離れてみると、あの時の妙な情熱はなんだったんだろうと大いに不思議がっていた。

今後は、できれば錬金ゼミに入れてほしいと教授に頼んでみたらしいが、クリッシーの国籍がガーマ王国にある以上、勝手にゼミに入れるわけにはいかない...と保留になっているらしい。

そこで一計を閃いたスティールは、クリッシーとルーファスに耳を貸すよう人差し指で合図した。

これからブラスの街は、デバコフ教授の采配でゴリーニ村に向けて支援物資を届けることになっている。
そこで、クリッシーを、魔物や盗賊が出没しそうな難所を避ける水先案内人として、役人に推薦しようというのだ。

どうせクリッシーの錬金ゼミ入りに難色を示すのは、事なかれ主義の役人たちだろう...。
だったら、クリッシーに目に見える活躍をさせて、役人の印象を良くしてしまえ...という策になる。

「それで? 僕は何をするんだい?」
ルーファスの問いに、スティールはニヤリと笑った...。

  ***

珍しくスティールとルーファス、あたしとクレアが、男女に分かれて旅の買い出しをして回った。

「どうせお前らの買い物は長いんだろうな~。俺たちは先に飲んでるよ」
そう言っていたスティールとルーファスは、まだ酒場に来ていない。

"クリッシーの件で、役人と話をしてくる"と言伝はあったのだが、あたしは2杯目をそろそろ飲み終わり、クレアもお代わりをミートドリアにするかビーフシチューにするかを真剣に悩んでいる...。

あたしの3杯目、そしてクレアのビーフシチュードリアがやってきた頃、スティールとルーファスが酒場に入ってきた。

スティールによると、頭の固い役人たちは最初こそ難色を示したようだが、前もってクリッシーを輸送隊の隊長に紹介していたことが功を奏し、とどめはルーファスの正論の雨あられによって、まんまとクリッシーを輸送隊の水先案内人に任命させてしまったのだという。

酒場の主人にスティールは黒ビール、ルーファスはジャスミンティーを注文する。
普段は反りが合わなそうな2人でも、ひとたび組むとなかなか凄みのあるデュオになる...クレアと2人で笑っていると、遠くの席で気勢を上げる2人組の声が聞こえてきた。

  ***

ひとりは、街でよく見る歴史好きな老人で、もうひとりはある商隊の荷運びをしているクルーンという男だった。

「...だぁ~からよぉ!」
2人とも出来上がっているらしく、大声で、ろれつが回っていない。

四家があれほど王都を西に移した方がいいと言っていたのに、時の宰相ランケードは首を縦に振らなかった。

遡ること数年前のクラム817年、第40代国王ドミニクは暗殺されてしまうが、宰相ランケードは、継承順位を無視して、幼いブルース王子を第41代クランブルス王に即位させてしまう。
そこに、突然ザレル軍が国境を急襲してきた...。

クルーンはそれを20年前のクラム825年と言っているが、一緒に聞いていたクレアがかすかにかぶりを振っている。たしか、正確には22年前のことだったよね...あたしの問いに、クレアもルーファスもうなずきで応じてきた。

「宰相...いいや、奸臣ランケードの野郎はよぉ!」
そう叫んだクルーンは、ジョッキをテーブルに叩きつけ、続ける。

「自分の命惜しさに、幼王と王都の民を見捨ててザレルの敵陣に投降しやがった...!」
一緒に飲む老人の他にも、周りのテーブルからも同意の声と喝采が次々と上がる...。

  ***

「本当に、国中から嫌われているんだねぇ。ランケード伯っていうのは...」
あたしのつぶやきに、スティールが残り少なくなった黒ビールを惜しむように、口をつけながら答える。
「まあな、王と民を捨てて敵陣で斬首された宰相なんて好かれる要素なんか微塵もねぇだろうよ」

そこに、先ほどのクルーンと老人が千鳥足でやってきて大きな声をあげる...。
「おっ、あんちゃんたち...、アレだろ?」

今をときめく錬金ゼミの生徒...テロール将軍直々の依頼を請けたり、ゴリーニ村での騒動を収めたりと、あたしたちのことは街中の噂になっているらしい。

「一杯おごらせてくれ」と主人を呼ぼうとするクルーンを手で制したスティールは、「さあ、明日は早いんだ。そろそろ引き揚げようぜ」とそう言って黒ビールを一気に飲み干した。

  ***

翌朝早く。
あたしたちは、いつもの通り下役人に届けを出して城門をくぐった。

あたしらの姿が朝靄に消えゆく中、下役人の元に街の衛兵が駆けこんできていた。
テロール将軍からの書簡を預かっていたのに、クレアに渡すのをすっかり忘れていたのだという。

その内容は、"サソリ団が国境を越えたという情報があった"というものであったが、あたしらが向かったのは、ピラミッドの地下遺跡...。
方角的にもサソリ団と遭遇することはないのでは? ...という下役人の意見によって、衛兵はあたしたちを追うことをやめたのだという...。

  ***

「先に言っておくけど、妙な出立の儀式はナシにしてよね!」
賢者の間に到着したあたしたちは、ルミナの小言を聞かされることになった。

出立の儀式とは、クレアが魔法陣の外に軽石を置いたり、あたしが大剣で床に傷をつけたりしていた、いわゆる同じ世界に戻ってこれたのかどうかを確かめる印付けのことであったが、あたしたち全員が正直少し飽きてきていた。

その証拠に、前回改良型の蚊やり装置まで作って躍起になっていたスティールが、今回は何も設置しようとしていない。

肩透かしを食らったルミナが不機嫌そうに皆を魔法陣の上に集合させ、それこそいつもの『見える見える』の決まり文句を唱える...。

「見える、見えるわ...!」

「国土を憂う王子と、国を盗もうとする盗人の思惑が交錯する渇水の大地が...」

「王女の来訪に復讐の詩を献じるために砂漠を流離う詩人の姿が...」

魔法陣から光があふれ、あの足元から消えてゆく感じとともに、あたしたちは光に包まれた...!

  ***

大都の地下深く、『繭の玉座』...。
大神官は、あたしたちが異世界に旅立ったことを察知していた。

水の将ソーニャ主従に出撃を命じる大神官は、ソーニャに対し、なぜザレル大王を目覚めさせることに奔走するのか、その意義を語って聞かせる。

  ***

(...わたしは、祖国ツララスタン再興のため...。お母様や妹たちのため...。何があっても水の命脈を、わたしの手で...)

何度目かのウガンの呼びかけに、ようやくソーニャは我にかえる...。
どうやら、出撃の準備が整ったようだ。

思いつめるソーニャにウガンは、すでに1つの水の命脈を手に入れているのだから、さほどの功を焦る必要はないとなだめてみせるが、ソーニャは、先の手柄はあくまでもウガンが立てたものと言ってきかない。

副将の手柄は、将の手柄ではないか...ウガンはソーニャの気持ちが理解できずにいたが、ソーニャが置かれた境遇をみれば、納得がいったのかもしれない。

ソーニャの故郷ツララスタンは、9年前、ザール・ウルスの侵攻を受けて滅んだ。
母や妹たちとともに助命されたソーニャは、以降、ザールに帰順して、ザールの兵として戦った。

ソーニャや、旧ツララスタンの遺臣たちは、常に最前線に送られては死に物狂いで戦ったが、その戦功はすべてザール出身の将に横取りされてきたのだという。

「わたしは、ツララスタン再興のために、ザレルに嫁いできたのです」
うわごとのように繰り返すソーニャ...。
ウガンは、かぶりを振りながら、ソーニャを魔法陣の上にいざなうのであった。