BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第005章] 5-4

エサカルモ火山北麗

担当:スティール・フランクリン

あれから、どのぐらい歩いたのだろう...。
血砂荒野のはるか向こうにかすむ山々の形が知らないものになってきた。

道に詳しいマイヨ兵士長が先頭を歩き、自然、俺は最後尾に下がった。
俺は...、(しんがりのためだ)そんな強がりを自分に言い聞かせ、皆の気づかいに甘え続けることに心苦しさを感じながら、虚勢を張ることをやめられないでいる...。

(このまま、離れてしまった方が...)
この旅で十数度めかの身勝手な感情に染まりかけた時、マイヨ兵士長の声が響いてきた。

「もうすぐ日も暮れる...。少し早いが、休むとしよう」
(見え透いたことを...。いや、見透かされていたのは俺の方か...)

サンディとマイヨ兵長によって、驚くべき手際の良さで火が熾され、クレアが野営飯の素材の取り出しをブブに命じている。

(なにやってんだよ。早く来て手伝えよ)
...とばかりにルーファスの野郎が顎で合図する。

(お前ぇだって何もしてねぇじゃねぇか...)

***
「ブラスの社会人学生ってのは、こんなに豪勢な野営飯を食ってるのか!」
マイヨ兵士長が驚きの声をあげる。

羊肉の香草焼き、ロールキャベツ入りホワイトシチュー、デザートには、ニーザの街で調達したフルーツまで並んでいる。

ただでさえ、厳格なテロール将軍の指揮下にある上での新都からの兵糧遅配...。
マイヨ兵士長が持参していた兵糧は、保存が利くように硬く焼しめられた黒パンのみで、副菜は現地調達と言い渡されていたという。

俺たち4人も、ひとりで野営している時にこんな豪勢なものを食ったことなどない。

拠点を出発してすぐの野営の時ぐらい美味しいものをたっぷりと...そんな、錬金ゼミローカルなルールは、出会ってからずっと続いている。

俺は、自分の取り分をプレートによそって、焚火から少し離れた岩の上に腰かけ、骨付きの羊肉にかぶりついた。

マイヨ兵士長が、ひと匙ごとに旨い旨いと叫んでいた...。

***

満足そうに腹をさするマイヨ兵士長が、砂に簡単な地図を描いて皆に土地の説明をしだした。

俺は、しばらく聞き耳を立てていたが、とうとう我慢できなくなって、プレートを片付けるためだからなと、無駄にアピールしながら焚火に近づいてゆく...。

***

俺たちがこれから行軍するのは、ヴェルメリオ大陸最大の活火山、エサカルモ火山の北側の麓にあたるらしい。

エサカルモ火山は、東側の山腹に噴火口がある珍しい活火山で、今でも活発な火山活動をしている。

エサカルモ火山の南麗にはゴリーニ湖があり、
北麗をこのまま西に進むと、クランブルス四家の筆頭アルデバイド家領、そしてクランブルス新都がある。

俺たちは、このアルデバイド家領を横断して、その南側に広がるオーベック家領へと向かうらしい。

エサカルモ火山の東へと棚引く噴煙は、酷い時には遥か東の天焦山脈の黒煙にまで連なるといわれている。

ただでさえ少ない日照を遮って、大陸北辺の民を困らせているエサカルモ火山の噴煙...もしかするとその西側で起きているオーベック家領の暴風騒ぎが影響しているのだろうか...。

クレアの問いにマイヨ兵長がうなずいた時、バチっと焚火が音を立てた...。

***

「...ちょっと、いいかな?」
クランブルス西部の土地の名を暗唱しながら歩いていると、さっきまで先頭を歩いていたはずのマイヨ兵士長が目の前にいる...。

「ぐずぐずしてると、あいつらが先に行っちまう」
...目を逸らして脇をすり抜けようとする俺に、体を入れて制したマイヨの野郎は、「そうだな...、なるべく手短に済ませよう」と腕を広げて遮ろうとする。
「俺の父親は、22年前に戦死したんだ」
マイヨの腕を振り払い先へ進もうとする俺の足を、マイヨの発した一言が制止した...。

***

マイヨの父親は、若き日のテロールと同じ、オーベック公に仕える騎士で、22年前の王都陥落の時、幼王ブルース救出の部隊30騎の一員であった。

東へ急行する幼王救出部隊は、途中で二手に分かれた。
若き日のテロールがいた、北へ迂回した部隊が幼王ブルースを見事救出した。
さっきから一切歯を見せないマイヨが、まるで22年前の情景を見るかのような遠い目で言った...。

「そして、迂回しなかった部隊に、俺の父親がいた」

ランケード夫人の密書に従って北へと迂回した将軍は、幼王ブルースを救出し、従わなかったマイヨの父親は、夫人を追ってきたザレルの追撃部隊と遭遇して命を落としたのだという。

マイヨの父親は、勇敢に戦って死んだらしい。
しばらくして遺体の代わりに父親の兜と剣が届けられたといい、兜は正面から断ち割られ、剣は中ほどから折れていたという。

「なあ、ランケード夫人の密書とは、果たして幼王への救出を遅らせるためのものだったのだろうか...?」

今回、テロール将軍がかつての家宰にマイヨを遣わしたのは、その辺りのことも聞いてくるように...と言われているように思えてならないという。

「...君が、思いもよらぬ出自の秘密を聞いて混乱するのもわかる。一時は腐るのも仕方ないことだろう。だがな...」

混乱してつい黙り込む俺に、マイヨのおそらく正しいであろう言葉が突き刺さる...。

「ほれ、あいつらが道に迷い始めている。さっさと行こうぜ」
俺の、苦し紛れの言葉を、マイヨは遮らなかった...。