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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第005章] 5-2

血砂を西へ

担当:ルーファス

ニーザの街で食料と旅の物資を調えた僕たちは、将軍に手配してもらったニーザの宿に一泊して翌朝、日の出とともに出立した。

「ねぇ、スティール。オーベック領は、西に向かえばいいのよね?」
クレアが子どもでもわかることを敢えてスティールに尋ねる。
仲間にそんな要らぬ気を使わせてしまっている...その痛々しい空気を少しでも何とかしようとスティールの方でも徐々に言葉を重ねようと努力している。

僕もサンディも決して茶化すこともなく、クレアの、決心の歩み寄りに感謝して顔を見合わせ、うなずき合った。

「おーい、ちょっと待ってくれ...」
振り返ってみると、大きな荷物を背負ったマイヨ兵士長が駆け足でやってきていた。

***

マイヨ・ネィズ兵士長...。
テロール将軍の側に仕える、とかく横柄な態度を取りがちな軍人の中にあって、温和な雰囲気のある人物。
あれだけ厳格な将軍の側にいるから相対的に温和に見えるのだろう...と笑ってみせる姿は、まごうことなく温和そのものだった。

マイヨ兵士長は、オーベック家領に住む、かつてテロール家の家宰を務めた人に話を聞いてくるように、将軍に命令されたらしい。

旅は道連れ...スティールも不案内だというクランブルス西方に詳しい同行者が現れ、自然とクレアの表情はほころんでいたけど...。

せっかく歩み寄りを見せたスティールが、また僕たちに距離を置いてしまったような気がした。

僕の視線が落ち着いた先のサンディが、仕方ないさ...と苦笑しながら、先を歩むスティールの方についてゆくよう、目で合図してきた。

***

スティールとの距離が、なかなか埋まらない。
時折、クレアが声をかけるのに一瞬歩みを止めることはあっても、またすぐに背中を見せて歩き出してしまう。

「...ったく、いつまでへそを曲げてるんだか」
サンディが、クレアが気落ちしないようにわざと大きな声で呆れてみせる。
僕も、そうだそうだとうなずいてみせる。

クレアは、僕たちの気づかいを知った上で、それでもなお、あの悪名高いランケード伯の実の息子であるという境遇を思いやり、スティールをかばった。

ランケード伯が当時、王都近隣の地域に強いた苛政と、ザレルの急襲で国都を失うという失態に対する失望...。そしてそれによってブラスの攻防戦があり、その戦いで両親を失ったクレアの感情は、僕やサンディなど外部から来た者にはとてもわかり得ない想いなのだろう。

ふと全員が黙り込んでしまい、また空気が重くなりかける...。

「俺が、将軍の家宰だった人に会いに行くのも、実はそれを確かめに行くためなんだ」
マイヨ兵士長の柔らかい物腰の声が、皆の沈みゆく気持ちをかき混ぜてくれる。

22年前といえば、後にクランブルス唯一の将軍とまでいわれたコレス・テロール将軍も、まだ青年将校で、テロール家の家督を継ぐ前のこと...。

当時の青年将校テロールは、ザレルの侵攻に対処するために国中を転戦していて、ランケード夫人の密書やその内容、密書に従ったことなどは憶えていても、それが当時における大局として、どのような位置づけになるのかは憶えていないのだという。

マイヨ兵士長は、テロール家を切り盛りしていた家宰ならば、当時のことをよく憶えているだろう...と、側近のマイヨ兵士長を派遣したらしい。

マイヨ兵士長が、さらに何かを語ろうとした時、先頭のスティールの怒声が響き渡る。

見れば数匹のオークに囲まれている...。
僕たちよりも早く駆け出したマイヨ兵士長が、スラリと剣を抜きはらっている。
サンディが大剣を上段に振りかぶりながら走り、隣ではクレアが「私たちも!」とばかりに僕を見つめる。

(何も僕らまで行かなくても...。はいはい、わかりましたー)

***

僕らが駆けつけた時、戦いは既に終わっていた。
マイヨ兵士長が褒めたたえるのを無視してスティールはまた先へと歩いていってしまう。

「すまないねぇ」...そう詫びるサンディにマイヨ兵士長は、「彼に負けないように、俺たちも急ごうか」と、白い歯を見せてほほ笑んだ。