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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第005章] 5-14

風の息吹の儀

担当:サンドラ・カサンドラ

男に追いついたスローンさんが剣を一閃させると、男の懐中から魔獣使いのアスタリスクがこぼれ落ちた...。

頼みの綱を失った男は、慌てて風のクリスタルを返して命乞いをしてきたが、スローンさんがわざと見せた隙に乗じて斬りかかってきたところを、今度こそ胸を深々と断ち割られて絶命していったらしい。

「ミューザで奪ったものをすべて返せとは言ったが...おぬしの命では、ミューザで奪われた命に釣り合おうとはとても思えぬ」

スローンさんが風のクリスタルを懐に抱いてその場を立ち去るのを、遠くで見つめるひとりの男がいた。
『支配人』である。

「恐ろしい爺さんだぜ...。風のクリスタルは奪い返されちまったか...。しかし...」
支配人は、足元に転がる魔獣使いのアスタリスクを拾うとほくそ笑み、後方に控える部下たちに休憩を命じた。

「ヤツらが引き揚げるのを待ってから出発するぞ」

***

洞穴の奥から、スローンさんがやってきた。
穏やかな気をたたえている...どうやら無事、風のクリスタルを奪い返せたらしい。

「その方らの協力のおかげじゃ」
「その方らには、是非とも礼をしたくたな。妖精どのをこれへ...」

ルミナを見つめたスローンさんは、風のクリスタルにいかなる用があるのかを、優しく問いただした。

「風のクリスタルの息吹を手に入れたいのよ」
「...息吹とは?」
「クリスタルの息づかい、想い...。クリスタルが存在しない世界に、クリスタルをもたらすための種のようなものよ」

「わかった。今この場で、その息吹を得る儀式とやらを行うがよいだろう」
まるで、問答の前からそうするのを決めていたかのようにスローンさんは、風のクリスタルを掲げてそう言った。

「さあ、あまり時があるとはいえまい。急ぐのじゃ」

***

辺りに工事用の資材が打ち捨てられているような薄暗い洞穴の中...およそ祭壇とはいえない場所に、風のクリスタルは浮かび上がり、辺りを照らしている...。

ルミナが祝詞を唱え始める...。

「我は、ルミナ。遠きヴェルメリオの世界にてクリスタルの母となる者なり!」
「かの地の風の災厄を祓い、さらなる荒廃を止めるため、願わくば、風の息吹を分け賜えらるとかたじけなく...何卒、何卒っ...!!

宙空に浮かぶ風のクリスタルから、光の粒が現出する。

「おお、あれが、風の息吹か...。なんと柔らかな、あたたかい...」

***

儀式を無事終えたあたしたちは、スローンさんに風のクリスタルを返却した。
「確かに。それでは、参ろうか」
スローンさんは、風のクリスタルを懐に収め、あたしたちは、ハルシオニアへの道を急いだ。

***

滝を抜けると、もうすっかり夜が明けていた。
春風の国ハルシオニア...そう謳われるのも納得の、のどかな草原が見渡す限り続いている。

「それじゃあ爺さん、俺たちはここで...」
結局は爺さん呼びしているスティールであったが、スローンさんもまんざらでもない様子だった。

「...そうか、グローリア王女にお会いしてもらおうと思っていたのじゃが」
スティールの目はクレアを見て、クレアは微かにかぶりを振る...。

「いや、やめておくよ。俺たちも急いで帰らないといけないんだ」
それほど急ぐ必要などなかったのかもしれない。でも、クレアはここで帰るべきだと判断し、あたしもそう思った。

「では、あらためて...助太刀、感謝いたす」
スローンさんは、折り目を正して礼を言うと、そのまま丘を下っていってやがて見えなくなった。

「...あっ、そういえばさ...」
ルーファスが、数年後のウィズワルドやサヴァロンに土のクリスタルや水のクリスタルが存在することを、スローンさんに教えてやればよかったね...とさも残念そうにしている。

「...う~ん、どうだろう...」
クレアは、今スローンさんにそれを教えるべきではないと思ったらしく、あたしもそれには同意見だった。
スティールなんかは、ルーファスが意見を却下されたのを見て「以下同文ってヤツだ」と、ルーファスの真似をしてからかっている。

「む...! なんだよそれ~」
怒っているのは口だけで、笑みをこぼすルーファス。
(ほんと、ようやく元のスティールに戻ってくれたよ...)

唯一不機嫌なルミナが、皆を呼ぶ。
あたしたちは、ほほ笑みながら光に包まれた...。

***

一方、ハルシオニア王宮内では、スローンに連れられたグローリア王女が、ハルシオニア王プラシドに謁見していた。

ミューザ国の受難を聞いたプラシド王は、ハルシオニアに2人が留まることを認め、責任を持つとまで言ってくれたという。

王宮から出たグローリア王女は、残り3つのクリスタルの奪還を誓い、そのためにはまずクリスタルの奪われた先を調べねばならないことを言明し、スローンさんはそれに従った。

ハルシオニアの日は、西に傾いてゆく。
2人と、物陰から2人の様子を窺う風の副将サガンの影を伸ばしながら...。