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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第005章] 5-19

王家と四家の確執

担当:サンドラ・カサンドラ

学搭に入ると、デバコフ教授がテロール将軍を出迎えた。

普段は開放されていない要人用の階段をのぼり、将軍と教授、あたしら錬金ゼミの一同が入った後に扉を閉め、マイヨ兵士長とイヴァールが聞き耳を立てる者がいないかを見張っている。
(後ほど、どんな話があったのか、しつこいほどにルーファスが質問責めにあっていたようだが...)

「...それで? 余人に聞かせたくない話ってなんだ...?」
スティールにとって大きなストレスであったランケード夫人の件がようやく落着したというのに、まだ余人に話せないことがあるという...。
余裕ぶっているスティールであったが、心穏やかではないはずだ。

「クランブルス王家とクランブルス四家の確執についてだ」
テロール将軍は苦々しく、デバコフ教授は呆れ気味にしている。

四家とランケード伯との確執ならば、子どもでもわかるほど有名な話であるが、それは、あくまでも近年になって顕在化した表層のもの...。

「古くは、世界教にまつわるもので、900年前、サイローン帝国で起きた宗教改革にまで遡る...」

予想外の年代と組織が出てきて、クレアもスティールも困惑の表情を浮かべている(あたしとルーファスは、いまいちピンときていない困惑...といったところか)。

「これから私が語るのは、歴史学では習わぬことも含まれる。詳しいことは、後程デバコフ教授から教わるがよい」
(教授が、迷惑そうな顔をしている...)

***

900年前、サイローン帝国で起きた宗教改革では、時の教主が追放された。
サイローンの外へ放逐された教主とごくわずかな弟子を、当時、いち地方領主に過ぎなかったクランブルス家が保護したことですべてが始まった...。

世界教を庇護し、その威光も借りて周辺の領土を武力で切り従えたクランブルス家は、ついに王号を唱えることとなる。
今から約850年前、クランブルス王国が誕生し、世界教は国教となり、再び隆盛を誇るようになった。

ところが、約400年前、かの有名な『クランブルスの大乱』が勃発する...。
王国が樹立した時にクランブルス家に加勢した諸侯が一斉に王家に背き、当時の王は、一時流浪の憂き目を見る。
その流浪の王を助けたのが、『四剣』...アルデバイド、オーベック、カッシーオ、カルモの4人の領主。
彼らの力添えによって、見事中央に返り咲いた放浪王は、王家に背いた数百もの諸侯を攻め滅ぼし、後・クランブルス王朝を確立する。

それは、今もなお童話『放浪王と四剣の物語』として人々に語り継がれている。

「ここまでが歴史学で語られるもの...これ以降は...」
余人に聞かれたくない、いわゆる歴史の闇の中の出来事というわけか...。
将軍の渋面は色濃くなり、教授などは窓の外の風景を見ている。

内乱を終息させたクランブルス王家と四家は、共に手を取り合い、隆盛を誇るのだが、水面下では四家と世界教の間で熾烈な権力闘争が始まっていた。

総勢13人の四家の当主、6人の教主が暗殺に倒れ、200年にも及ぶ政争に敗れた世界教は、今から150年ほど前に、再び国教の座を追われてしまう。

手足であり両翼であった世界教を失ったクランブルス王は、四家を大いに恨み、それが王家と四家の確執となって現在に至る。

***

大講堂の中では、重苦しい空気が漂い、将軍の許可を得て少しだけ窓を開けて空気を入れ替えた。

王家と四家、そして世界教...。
傍から見たら関係なさそうな組織がずいぶんと入り組んできた。

将軍は、さらに続ける...。

一説によれば、王家と四家と世界教...3者の確執が、クランブルス王国建国当時からあったこというものがある。

統一の前、クランブルス家が世界教の威光を利用して、四家の祖となった領主を切り従えて領土を拡大したため、それを恨んでいた四家が、王家の政に不平を持つ諸侯を糾合してクランブルスの大乱を引き起こさせたというものだ。

あり得ない話ではない...。
正教と公国の確執なども、古代の恨みが発端になっている節があるとアリーシャ司祭に聞いたことがある。

「想像以上にドロドロしてやがった...」
吐き捨てるように呟いたスティールに、将軍は肩をすぼめて言った。

「今のような四家の台頭著しいクランブルスでは、とても表立って言えない話ではあるがな...」

「将軍は、今でも王家に忠なる者なのですね」
「ふっ、勤王を信条としてきたが...、そのせいで四家が牛耳る議会からは、ずいぶんと煙たがられておるわい」
クレアのまっすぐな視線に少し照れた将軍は、巨躯を縮こませてみせ、皆をほほ笑ませた。

「こうしてみると、四家ってのは、巷でいわれているほど清廉でも何でもないって印象だねぇ」
あたしの呆れ声が、窓の外まで聞こえそうだ...と。教授がしきりにヒレをクチバシにあてていた...。

***

将軍は、先ほどニーザの街へ帰っていたという。

「今夜あたり、酒場で奢ってもらおうかと思ってたのに」
あたしが残念がっていると、デバコフ教授がぽそりとつぶやく。

「テロール将軍は、下戸で有名でスヨ。一滴でも口にすると真っ青になるそうデス」
あんな巨体でルーファスのお仲間...そう思うと笑えてくるものがあるが、総司令官が酒を飲むと真っ青になるなんて情報、ザレルに知られると厄介なことになりそうだ...などと余計な心配も浮かんでくる。

***

「それで、異世界での首尾はいかがでしタカ?」
教授の質問に、クレアが無事風の息吹を入手できたことを報告した。
あいかわらず、ルミナは出てこようともしない。

「そういえば...、地下神殿に打ち捨てられていた鉄の塊がなくなっていたんだが...」
しばし考えていた教授が、議会からの命令で、機工島ゲレスの職人たちが先日回収していったことを告げた。
見たこともない仕組みがたくさんあるとかで、大変興味を持ったようだ。

***

学搭を出ると、そこはもういつものブラスの街に戻っていた。
気のせいか、スティールに向かう冷たい視線もなくなったような気がする。

あたしたちが、今宵の飲みの場に向かって歩いていると、クレアがある人影に気づいた。

「あの~...、グローリアさん、ですよね?」
振り返ったグローリアは、少し硬い表情で受け答えする。

「私たち、スローンさんに...」
「スローンに...?」
グローリアは目を大きくして驚き、嬉しげに遠い目をする。

「あ、いえ、スローンさんのお噂を耳にしたもので...」
異世界に行って共に戦ってきた...そんなことは言えるはずもなく、クレアは少ししどろもどろに応える。

「立派な剣士でいらっしゃったんですね」
クレアの言葉に、あたしたち全員が深く同感のうなずきを見せる。

「ええ...。わたくしのかけがえのない恩人で、感謝してもしきれぬほどの、人生の師でした」
グローリアは、少しだけ悲しげに目を伏せ、やがて誇りに満ち溢れた笑顔を見せた。

風がそよいで、グローリアのスカートを静かに揺らした...。