BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第007章] 7-16

それぞれの帰還

担当:クレア

その日、火の将王麗は、ザレルの都『大都』にいて、城外を吹き抜ける涼風に身をさらしていた。

22年前の王都の戦いで、ザレル軍の猛攻によって陥落した旧クランブルス王都は、当時から少しも変わっていない。

ザール帝国の、そしてザレル・ウルスの気風として、占領した都市を破壊し尽くしたり、再開発して利用したりということをあまり好まない。

元々が遊牧騎馬民族であったからか、城壁で覆われた環境を好まないから...という説もあるが、果たしてどうだろう?

王都の廃墟はそのままにしてその周辺に数十万もの幕舎を建て、兵や民、重臣までもがそこで暮らしている。

旧王都を利用するのは、大神官とその直下に配される神官ども、あとは繭の玉座におわす大王ザレル2世ぐらいのものか...。

王麗はついさっき、その大神官にさんざん嫌味を言われ、歯噛みしながら退室してきた。

副将ウージの策の膳立てをして、一足先に帰還を果たした王麗であったが、大神官に、ウージが戻らぬ時はいかがする? ザレルの重臣の御息女はずいぶんと悠長なことを語るものじゃと散々煽られ、危うく受けて立つところであったが、ぐっと堪えたのだ。

***

「この私が、いくらウージに策ありといえ、退却を選んでしまうとは...」
おもわず口にした言葉が、荒涼とした平原に風となって消えてゆく...。

ふと誰かに声をかけられ、少し慌てて王麗は振り返った。

王麗の背後に立ったのは、
ザレルの誇り高き武人、土の将ガイラ。
ツララスタンの姫君、水の将ソーニャ
ラヴィヤカの姫君、風の将ナンナン
...の3人。
王麗より前に、ザレル2世の妃候補として四大将軍に就いた者たちである。

(今のつぶやき、聞かれたかしら...)
そんな王麗の不安などどうでもよいとばかりに、水の将ソーニャが「お知らせしたいことがありまして」と切り出す。

いずれ、挨拶せねばなるまいと思っていた王麗であったが、同じ妃候補の王麗に対し...いや、3人が3人とも、いわゆる妃候補同士の確執などはまったく感じられない。

ソーニャもナンナンも一国の姫君。
ザレル出身のガイラはともかく、年長者で重臣の娘である王麗に対しての敬意の念すらうかがえ、王麗の方も一切の悪感情を抱かなかった。

むしろ、あの大神官から詳しい話など聞かされずに異世界へと飛ばされた、いわゆる同志ともいえる存在の3人だった。

「あ、それはそうと!! 土の将ガイラ...」
王麗の凛とした声に耳を傾ける3人。

「ブラスの者の中に、ポン・コーツなるものはいませんでしたよ?」
突然の詰問に、ガイラなどは目を伏せて口ごもっていたが、ソーニャもナンナンも目くばせして笑みを浮かべている。

配下の兵から食事の用意ができたと報告があった。
王麗は、自らの幕舎に3人をいざなった。

***

私たちは、賢者の間へと戻ってきた。
ふと見ると、ランタンの中のルミナの様子がおかしい。

「だ、大丈夫よ...。ちょっと疲れた...だけ。羽模様も...ほら、しっかり瞬いてるで...しょ...。残すところ、あとひとつ...ね...」
そうつぶやいたルミナであったが、ぐったりして羽はどことなくシナシナしていている。

ランタンの周りを何かで覆い、なるべく揺らさないようにしてブラスの街へと向かうことにした。

「(クレアは)、あんまり無理して戦わなくていいからよ」
そのスティールの一言に、やけに鋭いまなざしでサンディがうなずいていた。

***

いつものように地下神殿を進み、いつもと同じように襲撃してきた魔物を一蹴し、地上へと戻ってきた。

久方ぶりに嗅ぐ血砂荒野の匂い...エイゼンベルグの鉄が錆びたような匂いとはまた違った不快さが鼻をつく...。

「早くひとっ風呂浴びたいもんだねぇ」
そんなサンディの大き過ぎるつぶやきに、皆口々に賛同する。

「風呂の後は、当然酒場で...」
ルーファス以外の3人が、グヘヘ顔になっていると、後方から誰かに呼びかけられた気がした。

「お~~~い...!! クレアさ~~~~ん!!」
見れば、クリッシーさんが両手をぶんぶん振りながら駆けてくる。

エサカルモ火山の溶岩流に対処すべく、デバコフ教授と一緒にゴリーニ湖へと行っていたはず...。

***

街の共同浴場で長旅の汗を流した私たちは、いつもの酒場へと集合した。

クリッシーさんによれば、エサカルモ火山の溶岩流は、ゴリーニ湖畔の手前で急激に勢いをなくし、停止したのだという。

「ゴリーニ湖の人たちと一緒に造った防壁にも届かなかったので、教授もほっとしていました」
そう微笑むクリッシーさんは、見かけによらずなかなかな大酒飲みで、料理の香り付けのワインのせいでクラクラしているルーファスを尻目にさっきからジョッキを空け続けている。

クリッシーさんは、いの一番にブラスに朗報を伝えるために飛び出してきたが、教授はまだゴリーニ湖に滞在しているとのこと。

「今頃、大好きな魚料理に舌鼓でも打ってるんじゃない?」
そう笑い合った私たちであったが、教授が錬金術を使わなくて済んだことが一番ほっとできることだった。

***

私たちの和やかな雰囲気の中に、ふと、暗く冷たい何かが挿し込まれたような気がした...。

カウンターの端では顔なじみの交易商が、酒場のマスターの前でガタガタ震えている...。

「積み荷を奪われる分には、まだ我慢もできるってもんさ。でもよ...。...俺ぁもう怖くて怖くて...」
「何も、あんな惨たらしいことをしないでもなぁ...サソリ団のヤツらめ...」

(あっ...!)
そう思った時には、もうスティールは、2人のそばにいた。

「おい、サソリ団がどうしたって...?」
以前のような、触れたら誰でも傷つけてしまうような、あからさまな危うさこそ見せなくなったが、目を細めて左の口の端を少し上げるのは、スティールが嚇怒(かくど)しているとき特有の表情...。
さっきまでグロッキーだったルーファスも、真顔になって聞き耳を立てている。

***

それは、聞きしに勝る残虐さだった。

サソリ団は、襲ったキャラバンの積み荷をすべて焼き払い、隊長を惨殺した後、まるで見せしめのように血砂荒野に晒していた。

それも、まるでブラスの街を囲むように次から次へと...、確認できているだけでも東から北周りに7つのキャラバンが襲われている。

私たちは、またスティールが怒りに任せて飛び出してゆくのではないかとハラハラしたが、スティールは平静を保てているようだ。

「...わ~かってるって。いつかみたいに我を忘れて飛び出したりしねぇよ。それにこれは、十中八九、俺を誘っていやがることだしな...」

そう言ってジョッキを飲み干すスティールに、サンディもルーファスもほっとしていたようだったが...。

「クレア、明日の朝一番で、役人のところへ。イヴァールたちにも声をかけてくれ」

目を細め左の口の端を少し上げたスティールは、いつになく大きな音を立ててカウンターにジョッキを置いた。
ジョッキを握る手は、怒りに小刻みに震えていた...。