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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第007章] 7-15

不穏な気配

担当:ルーファス

「さて、無事火の息吹が手に入ったことだし、そろそろ賢者の間に帰ろうよ」
僕のなんてことのない言葉を、用事が済んだからってさっさと撤退すんのか? 薄情すぎないか? などとスティールにたしなめられた。

え、そんなつもりで言ったおぼえはないんだけどな...と、自然に泳いだ視線の先では、サンディが自身の武具を念入りに点検している。

クレアが代表して火の巫女様にお礼をしていると、お付きの信徒たちが駆け込んでくる...。

「た、大変です!! 神殿正面の剣派の部隊に、突出してくる気配があります!!」

ああ、そういうことか...。
神殿の外で陣を構える剣派兵と黒鉄之刃兵に、才蔵さんから預かった書状を届けて何とかしないといけない...。

「や~っとわかったか...」とばかりにスティールがニヤつき、サンディが無言でうなずく。

信徒たちの(本人たちにとってはその気はなかったとしても十分過ぎるほどの)挑発に激昂して突出してきた剣派兵たちを黙らせ、そのまま敵の総大将のところまで突き進み、才蔵さんから預かった書状を届けてやろう。
いつも通りの荒っぽいスティールの提案であったが、僕たちがヴェルメリオに帰還しつつこの場を収めるにはこれ以外の手はなさそうだった。

あらためて礼をするクレアに火の巫女様は何かを言いたそうにしていたが、言葉を飲み込んでいるようだった。

「よし、行こうぜ!!」
スティールの掛け声で、僕たちは神殿に侵入してきた剣派兵に向かって駆けだした...!

***

神殿内に侵入してきた剣派兵たちは、スティールとサンディの一撃で蜘蛛の子を散らすように壊走していった。

神殿の外に出ると、ひときわ声の大きい3人の剣派兵が、周囲の兵たちに檄を飛ばしている。

「よし...! 火の神殿へ突入するぞ!!」
「火のクリスタルを奪取するんだ!!」
「いやいや、奪取だなんて生ぬるい! 我らはアンチ・クリスタリズムの理念に深く共鳴した剣派兵!」

...見れば、心なしか腰が引けていて声だけが立派な"よくいるヤツら"であるのがありありとわかる。

「火のクリスタルを破壊して、未だにクリスタルを信奉する盾派のヤツらに一泡吹かせようぞ!!」
3人にスティールとサンディが迫り、斬撃を放つと、間合いからずいぶん離れた位置にいたにもかかわらず、こちらに背中を向けて逃げてゆく。

勢いに乗じて、剣派の軍中を突き進む我ら錬金ゼミ生...。
しかし、さっきからサンディもスティールも素振りだけで誰一人斬ってはいないし、僕も雷撃を放っていない。

聞きしに勝る弱兵だな...。
負けず嫌いな声だけが勇ましい敗走兵にいざなわれるようにして、僕たちはとうとう敵将の眼前にまでたどり着いた。

***

これまで何の抵抗もなく進んでいたのが、急に何か見えない壁のようなものに遮られたような気がした。

才蔵さんと同じ格好をした、おそらく黒鉄之刃兵と思われる数名の兵が、太刀を構え静かに気を発している...。

「狼藉者っ!! このお方をどなたと心得る!! 黒鉄之刃、隠密部隊を統括するキキョウ・コノエ様だぞ!! 控えおろう!!」

どうやらここに才蔵さんの書状の受取人がいるらしい。
スティールにうながされ、クレアが才蔵さんの書状を掲げる。

「黒鉄之刃キキョウ・コノエ殿に申します!! 私たち、カッカ火山の麓であなたたちの同胞、才蔵さんと出会いました」

敵陣に衝撃が走るのが...そして、僕たちに向けられていた鋭い殺意も薄れてゆくのがわかった。

「才蔵さんは、私たちにこの書状を託し、残念ながらこの世を去りました。そしてこれが、黒鉄之刃団長、剣聖カミイズミの書状でございます!」

クレアが差し出した書状を、ひとりの黒鉄之刃兵が丁寧に押し抱くようにして受け取ると、キキョウと思しき長身の女性のところへと持っていった。

書状に目を通しているキキョウの細い目はみるみる見開かれると、突然ドロンという音とともに周囲に煙が立ち上り、中から見知らぬ女性が現れ、超高速な何かをまくし立てる...。

「こ、この花押(かおう)はまぎれもなく団長のもの!! 火の神殿の総攻撃が本当に団長のご本心なのか確認に出した才蔵が、よもや帰らぬ者になっていたとは...! 嗚呼、無念。やはり、団長は火の神殿の総攻撃など下知してなどおられなかった。すべては毒薬爆弾の失態を打ち消そうとした薬師カ・ダと、剣派のバカどもの仕業であったとは...! 思えばあのカ・ダという男、団長や元帥殿よりひとつ年上のくせにお二人の下風に立つことをずっと根に持っているようであった。このままでは、このままでは...!!」

再び元の姿に戻ったキキョウは、書状をたたむと両手でかかげ、おそらく剣聖カミイズミに対して礼をした。

先ほどの黒鉄之刃兵...おそらくキキョウの側近に、クレアが持ってきていた才蔵さんの遺髪を手渡すと「かたじけない」と丁寧に礼をして、後方にまで下がった剣派兵たちに向かって大音声を放った。

「聞いたかっ!! 我が団長は、決して火の神殿攻略の命令など
下していなかった!! すべては一部の慮外者と、そやつと共謀した愚か者の仕業!!」

「我らは今すぐにここを撤退する!! よいな!!」

さっきまで声だけは立派だった剣派兵は、すっかり黙り込んでしまっている。

敵将キキョウは、再びあの女性に変化すると、
「危うく一部の慮外者の口車に乗って、火の神殿に攻撃を加え、取返しのつかないことをするところでした。団長の書状を届けていただいたこと、そして才蔵を葬っていただいたこと、感謝に堪えません。此度のことは、我が黒鉄之刃の更なる汚点になっていたのは必定。誇り高き我が軍団の名をこれ以上穢すわけにはいかないのです...」
そう言って、変化を解き、敵将キキョウの姿で頭を下げた。

その後方では、剣派兵がまるで黒鉄之刃兵に追い立てられるようにして退却してゆくのが見える。

「私たちも帰りましょう。賢者の間へ」
僕たちは、剣派と黒鉄之刃の両兵の姿が小さくなるのを確認して、ヴェルメリオへと帰還した...。
その後に起きた惨劇のことなど、予想だにせずに...。

***

一時は剣聖カミイズミの書状に従い、火の神殿から撤退することにした剣派兵たちであったが、当然納得などいっているわけもない

「や、やるか?」
「ああ、やってやろうぜ」
「今なら敵は、ほんの少しの従者と火の巫女ひとり...」
「俺たちだけでも、火のクリスタルを奪取できる、か...」

彼らの中で沸き上がった不平は身の程よりもはるかに大きく膨らんで、彼らにとって都合のよい大義へと醸成されてゆく...。

剣派兵は、黒鉄之刃の一団が遠ざかるのを待って、ひとり、またひとりと火の神殿の方へと引き返していった。

火の神殿からの反撃があったと報告を受けた。
反撃には応じなければ武門の恥...彼らの勝手な論理が再び火の神殿、そして火の巫女カーシャに降りかかろうとしていた...。

***

剣派兵たちの再反転の報を受けた火の巫女カーシャは、従者たちに神殿を退去することを命じると、自身は火のクリスタル神殿へと立てこもった。

大きな音を立てて閂(かんぬき)が破壊され、そこから異様な甲冑に身を包む巨大な男、ザレル軍の火の副将ウージが現れる。

剣派兵の鬨(とき)の声はまだ遠く、火の神殿の正門を突破していないはず...。
ということは、彼の両の拳から滴り落ちる血は...。嗚呼...あの子たち...。

「...ふっふっふ。大人しくそこをどいてもらおうか。なぁ~に、火の命脈を奪われたクリスタルはじきに...」

すべてを悟ったカーシャ様にウージがにじり寄る。

「エイゼンの子ら...よ...風を、...風を連れて...き...」
カーシャ様の耳には、自身がつぶやいた言葉も、剣派兵によって神殿正門が打ち破られた轟音も届くことはなかった...。