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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第007章] 7-14

火の神殿

担当:スティール・フランクリン

「...火の神殿って...、」
思わずそうつぶやいた俺だったが、誰からの反論もなかった。

ところどころ床の割れ目から赤々としたものが覗き、場所によっては天井からマグマが垂れてきた跡が赤黒くなっている。

「地に沈んでいるのよ。この神殿は...」
何を当たり前のことを...とばかりにため息をつく火の巫女さん。
数年前は、カッカ火山の麓...地上にあった火の神殿も、徐々に地中へ沈降してゆき、今では壁からも床からもマグマがにじみ出ているというのだ。

鼻の奥にかすかに感じる焦げた臭いが何なのかを目で探っていると、
「あ、足元気をつけて...。靴、焼けてるわよ」

飛びのいてアタフタしている俺を笑ったルの字が、同じように飛びのいてアタフタしている。
ソールの大部分が焦げてしまったようで、そうとうに熱がっていた。

火の巫女さんが「神殿の最奥に行くにはコツがあるのよ」と、安全な箇所を示しながら歩いてくれようとしたその時、遥か後方から何かが切れた音がした。

俺は、火の神殿の裏口の足元に髪の毛ほどの太さの鋼糸を張っていた。
その鋼糸が切れる音と同時に、複数の甲冑が鳴る音...。
ザレルのヤツらも、火の神殿の裏口から侵入してきたようだった。

「来るよっ!!」
サンディが大剣を構えると、曲刀を抜きはらったザレル兵が数人、襲いかかってきた!!

ひとりが、急に飛びのいてぴょんぴょん跳び始める。
(うんうん、熱いよな~やっぱ)

***

攻めかかってきたザレル兵たちを一蹴すると、引き揚げてゆく兵の間から火の将王麗が現れた。

「やれやれ、しつこいお姫さまだ...」
俺のつぶやきが煽りだと思ったのか、王麗は「ザレルの重臣の娘であって姫ではない」と言い張る。

「ザレルの重臣の娘なんだろ? 立派なお姫さまじゃないか」
「いいえ、行政と外交、そして軍事にも精通する私は、いずれザレルの丞相となる身...」

(ブラスの街に戻ってきてからザレル出身の料理人、陳さんに聞いたところ)丞相とは、ザール帝国が成立する直前まで戦っていた東方の大国における宰相にあたる役職のことらしい。

煽りと持ち上げでいろいろと情報を引き出そうとしていた俺は、(これ以上の収穫はなさそうだな...)と踏んで、最後の煽り倒しに出る。

火の将王麗はカリカリしながら、敵である俺にうながされるようにして指輪をかかげ、あの石柱が浮遊する空間へと皆をいざなった。

***

王麗は、初めて来たというその異様な空間を何かを確かめるかのように眺めていたが、やがて、戦いを前に名を問うてくる...。

クレアが名乗り、俺が名乗り、サンディが名乗った頃にふと嫌な予感がよぎる。

ルーファスが名乗り終えた時、王麗が扇越しに小首をかしげる。

「あら、ポン・コーツとやらはどこにいるの?」
クレアとルーファスが一斉に吹きだす...。

「...あンのガイラのバカ娘め...!!」
あいつが吹聴した情報が、良くも悪くも敵に浸透してしまっている。

どうにか笑いを堪えているサンディが口火を切って、死闘が開始した。

***

配下のザレル兵のひとりが膝をついた時、火の将王麗はふと指輪をかかげ、異空間を解いた。

急に辺りがムワッとした熱気に包まれる。
こんな時、全身黒の皮ずくめが恨めしい。
横でルーファスが熱気にあてられてフラフラしている。

少し離れたところで王麗が配下のザレル兵と何かを話していている。
大方、退くかどうかを話し合っているようだが、兵士の方が納得していないらしい。
王麗が何かを語り、ザレル兵が不承不承うなずくと、王麗たちのいる地面が光りだし、やがていずこかへと消えていった。

***

俺たちが、思い思いに息を整えていると、火の巫女カーシャが近寄ってきて、目の当たりにした状況に対しての推論を披露する...。

「急に姿を消し、次に現れた時には敵が去っていった...。そして、あなたたちも満身創痍。...つまり、どこぞの別の空間で戦いをして、無事敵を撃退して戻ってきた、と理解していいの?」

呆れるほどに物わかりがよい巫女さんに、舌を巻いた。
クレアが、ほぼほぼ推察の通りだと答えると火の巫女さんはうなずいていたものの完全に納得がいっているわけではなさそうだ。

しかし、状況が、驚いている暇も、詳しく説明を聞いている暇も許さない。
俺たちは、火の巫女さんに案内されて、火のクリスタル祭壇へと向かった。

***

「いや~、やっぱりルクセンダルクのクリスタルは...」
巨大だな~...と、ルーファスが大口を開けて眺めている。

他のクリスタルも見たことがあるのか? という火の巫女さんの問いに、エタルニアで土のクリスタル、フロウエルで水のクリスタル、ラクリーカで風のクリスタル...とそれぞれの神殿で参詣し、息吹をもらったことを告げると、

「そう...。じゃあ、火のクリスタルからも、息吹をもらっていきなさい」
...と、まるで帰る前に晩飯でも食っていけとばかりの気軽さで勧めてくる。

「私は、物わかりがいい巫女なのよ」
火の巫女さんは、出会ってからこれまでの俺たちをずっと見ていて信を置き、加えて他のクリスタルから息吹を得たという実績もあるのを聞いて信頼してくれたらしい。

ルーファスなどの、嬉しいからこそのウザ絡みを軽くあしらった火の巫女さんは、儀式を促す。
クレアは、「もうひとり会わせたい者がいる」...とランタンをかざしてみせた。

「あらあら...。ランタンの中に、精霊? 妖精? 流石にびっくりね...」

「私は、錬金の妖精ルミナ。遠きヴェルメリオの世界にてクリスタルの母となる者よ」

「...つまり、そのヴェルメリオというのがクレアたちのいた世界で、この小さき者がクレアたちを導くもの、...ということで合ってる?」

...と、一事が万事この調子。
こちらが、説明が厄介そうだと思っていることを、いとも簡単に想像し、しかも的を射ているときている...ルミナも完全に面食らっていた。

「さあ、私は後ろで見ているから、さっさと儀式をお始めなさい。儀式を主導するのも、その子なんでしょう?」

俺たちは、まるで宿題を夕飯前に済ませなさいと言いつけられた子どものように儀式の準備をし始めた...。

***

「我は、ルミナ。遠きヴェルメリオの世界にてクリスタルの母となる者なり!」

いつものようにルミナが始めた儀式を、火の巫女さんは油断なく眺めている。

「かの地の火の災厄を祓い、さらなる荒廃を止めるため、願わくば、火の息吹を分け賜えられるとかたじけなく...何卒、何卒っ...!!」

火のクリスタルから息吹が出現した時には、それこそ軽く驚きの声をあげ、感心すらしていた火の巫女さんであったが、急に黙り込んでしまう。

儀式がすべて完了し、俺たちがルミナをねぎらっている中もどこか上の空で、心ここにあらずといった感じでいて、ついにはうずくまってしまう...。

「どうかしましたか...?」
駆け寄ったサンディが火の巫女さんに何かを言われたらしい。

儀式が無事終わってはしゃぐクレアとルーファス越しに、サンディの身体が微かに硬直する感じが伝わってきた...。