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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第007章] 7-11

火の将王麗との出会い

担当:クレア

「...これは、どういう状況?」
火の巫女カーシャ様は、さほど動じるそぶりも見せず、腕を組んで首をかしげている。
2人の従者はとっくの昔に逃げ出していた...。

私たちにとって見慣れた光の環が消えると、そこには数人のザレル兵と、大柄な男が立っていた。

「...ここは?」
大柄な男に問いただしながら、ザレル兵の中からゆったりとした赤い装束の女性が現れる...。

「火の命脈がある世界ですよ」
大男の答えに応えるでもなく、女性は自身の薬指のあたりに手をやって

「本当に、この指輪の力で異世界へ...?」
「そう説明したでしょう?」

2人の間に会話はあるのに、なかなか意思が通じ合っている感じがしないのは、従来の将と副将と同様といったところか...私がそんなことを思っていると、大柄の男がこちらを指さし、赤い装束の女性がこちらを見据える。

大男が両手を広げておどけてみせると、女性は、周囲の兵たちが止めるにもかかわらず前に進み出てくる。

「何やら、もめているわね...」
火の巫女カーシャ様も怪訝そうにしていたが、それもいつものことだった。
ザレルの将と副将は仲がよくない。
...にもかかわらず、なんだかんだと戦いを挑んでくる。

サンディが、カーシャ様に後方にいるよう言い置いて大剣の柄に手をやると、前に進み出た女性の朗々とした声が響き渡った。

***

「ブラスの者たちよ、よく聞きなさい!! 私は、ザレルの火の将王麗(おうれい)!!」

敵将王麗の名乗りに、意地悪スティールがさっそく煽りにかかる。

「お、新人か。...その割には、あんまり若くはねぇみてぇだな」

煽られた敵将が激昂してくれれば御の字...そんなスティールらしい皮算用だったみたいだけど、思わぬ方向からのツッコミが入る。

「おい、スティール。言葉に気をつけな」
「そうよ。気をつけなさ~い?」
仲間内で一番のお姉さんのサンディと、サンディよりもさらにお姉さんな火の巫女カーシャ様から、ともに不満げな叱声が飛んでくる。

「お、おう...わかった」
首をすくめたスティールに、敵将王麗の口上が続く...。

「...わずか7歳にしてかのクランブルス王都の戦いにて初陣を飾り...、」

王都の戦いに参戦しているということは、スティールのご両親についても何か知っているのかもしれない。

曰く、22年前の王都の戦い。21年前のブラスの戦い。20年前の天衝山麓の戦いのすべてに、ザレルの重臣であった父の副官として戦場をつぶさに見てきたのだという。

「ふん、やっぱり年とっ...」
どうしても口の上での優位を取っておきたいスティールだったが、速攻で後方の姐御たちからの叱責が飛んでくる。

「スティ~~~ルッ!!」
「ほんと...、気をつけなよ? 怒るからね...」
サンディが大剣の柄でスティールの背中を小突き、カーシャ様は拳を鳴らし始める。

「ブラスの民の中にひとりだけ無礼なのがいるわね...」
かたや、ザレルの姐御もまたイライラを募らせてゆく(そういう意味では、スティールの煽りも成功しているような気もしないでもない)。

大男が何かを促したが、火の将王麗はそれを拒否し、手にした扇を優雅に指し示すと周囲の兵は一斉に剣を抜いた。

***

颯爽と攻めかかってきたわりに、火の将王麗の戦いはどこか本気ではない感じがした。

挨拶代わり、あるいは、サンディがよく口にする威力偵察...一戦してみて敵の内情や姿勢を見極める...という感じか...。
スティールとサンディも似たような感想を持っていたようだった。
事実、兵の損耗もなく、あっさりと引き揚げていった。

火の巫女カーシャ様によると、思念を宿す場所はあと一か所とのこと...。
そこは、今いるところから火の神殿への途中にあるという。
私たちは、先を急ぐことにした。

***

最後の思念を宿す場所は、霊感など一切感じることはないと公言するスティールでさえ思わず息を飲むような、形容のしようがない独特の雰囲気を醸し出していた。

カーシャ様は、サンディの方へ振り返り、
「私が宿した思念を、ちゃんと読み取ってくれる人が現れてくれるのかしら」...と尋ねる。

「はい。一昨年前(公国暦11年)、風の巫女に就任しましたアニエス・オブリージュというお方が...」

サンディの返答にうなずいたカーシャ様は、少し念を込めた後、息を吸いこんで高らかに祈りを捧げた。

「エイゼンの子らよ、風を...風を連れてきて...!!」

カーシャ様は振り返ると、
「...さあ、火の神殿へ向かいましょう」
そう言って、火の神殿へ向かって歩いてゆく...。

「神殿の正面は、剣派の兵たちがひしめいているから裏口へ...。マグマだらけだから気をつけるのよ」
カーシャ様は、私たちへとともに、2人の従者たちに向かって注意をしているようであった。

***

その頃、火の神殿の正面には、黒鉄之刃と剣派の兵が陣を構え、臨戦態勢を取っていた。

物見の報告によると、現在火の神殿に火の巫女は不在であるとのこと。
それならば、この機に神殿に攻め入れば制圧もたやすい。
なぜ攻撃命令を出さないのか?

黒鉄之刃の将、キキョウ・コノエに神殿攻撃命令を詰め寄るのは、剣派の兵士たちだった。

キキョウが見る限り、戦場の場数を踏んでいる感じはせず、個々の武も大したこともなさそうな兵士たちであった。
それにもかかわらず、神殿への即時攻撃を進言してきて一向に退かない。

「黒鉄之刃副将のカ・ダ殿から直々に火の神殿攻略を命じられた!」
「神殿を前に布陣した後、一向に攻めようとはしない!」
「キキョウ殿は、いったい何をためらっておいでか!」

(自分を侮っているくせに、一応は将として敬うそぶりだけは見せている...)目をつぶったままのキキョウが、小さなため息ひとつで無視しようとしたその時、調子に乗った兵のひとりが一線を越えた。

「おじけついたか!」

ぎょっとしてその一線を越えた兵士を凝視する他の2人は、ドロンという音とともにキキョウの身を包んだ煙に驚き、今度はそちらを見つめた。

キキョウの側近の男は、何事もなかったかのように静かにしている。

煙が晴れると、中からエイゼンベルグの民族衣装のような着衣の女性が現れた。

「へ、変化した...? それとも、変装か?」
そうつぶやく剣派兵に、現れた女性が一気にまくしたてる。

「まず一言断っておくと、黒鉄之刃の副将はバルバロッサ提督であり、あの人品汚らわしい無能者のカ・ダなどでは断じてない。また、私が命じられたのはあくまでも弱兵のくせに血気に逸る兵たちを暴走させないこと...いわば私はお目付け役といったところ。目付の私が判断するのだからおとなしく命令に服しなさい。以上!」

(この指揮官の話すところ、初めて見たぞ)
(なんだこの超高速早口は...)
おそらくそんなことを思っているであろう2人の兵が、口をパクパクさせているところに、先ほどの空気が読めない兵士がまたも一線を越える。

「...ぬ、ぬううっ...!! 我ら剣派の精鋭を、弱兵と侮るのか!!」

キキョウが変化した女性の瞳から笑みが消え、ますます言葉の殺傷力が増してゆく。

「笑止。口ばかりが威勢よく攻守にわたって抑えがまったく利かず、戦線などお構いなしに逃走を図る...それを弱兵と呼ばずして何と呼ぶのか教えてもらいたいものだ」

そう言い終えると変化を解くキキョウ。
キキョウは、普段のクノイチの姿では一切言葉を発しない。
何かを発言する場合、必ず何者かに変装して、思いのたけを一気にまくし立てる。

それまで黙していたキキョウの側近が、もうよいでしょうとばかりにキキョウを手で制すと、剣派兵士たちにもわかる言葉で、しかしながら厳しくたしなめる。

「今われわれは、黒鉄之刃団長、剣聖カミイズミに確認の連絡を取っておる!! 団長の書状が届くまで、今しばらくはここ神殿の前で待機だ! よいな!!」

3人の剣派兵は、しぶしぶ引き下がってゆくのであった。
引き下がりながらも、あの愚将カ・ダの名や、おそらく使いの者への妨害について何やら語り合っている。

側近がキキョウにかぶりを振ってみせる。
キキョウは、聞こえるか聞こえないかの小さな舌打ちをして、袖越しに握るクナイをそっと仕舞い、殺気をぐっと飲み込んだ。