BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第007章] 7-10

内戦の記憶

担当:サンドラ・カサンドラ

「...巫女さんってさ、もっとおしとやかっていうか、もっと弱々しいものだとばかり思ってたよ」

「あ~、俺もだな。火の巫女さん、やたらと活動的だもんな」

ルーファスやスティールが(いや、これはあたしも含めてか...)これまで出会ったクリスタルの巫女といえば、オリビア様とアニエス様のみなのだ...巫女に対してそんな先入観を抱くのも無理はないだろう。

「たしか、最初出会った時、魔物(ヒートゴーレム)を殴ってなかった?」

「ああ、攻撃するにしても、聖なる呪文とか炎の魔法攻撃とかじゃねえのな...」
これに関しては、さすがのあたしも面を食らった...。
まさか素手で殴りにゆくとは...。

「サンディは正教騎士団にいたんだろう。火の巫女様のことは知らなかったのか?」
急に水を向けられたが、あたしも詳しいことは何も知らされていなかった。
活発な噴火を繰り返すカッカ火山の麓という立地は、あらゆる意味で世間とは隔絶されているから、中央とのかかわりが薄いものであった...というだけではなく、どうも火の神殿自体が、エタルニアの土の神殿を頂としたクリスタル正教教団とは、一定の距離を置いていた節がある。

正教騎士団にいた時にあたしが聞いた火の巫女様に関する話といえば、かの聖騎士の決起の以前から巫女として火の神殿におわしたことぐらい...。

聖騎士の決起は、正教暦2385年。
この時代公国暦13年は、正教暦2397年になるので、聖騎士の決起となると今から12年前となる。

「...ってことは、あの巫女さん、サンディよりもだいぶ年上じゃねぇのか?」おそらく...詳しい事情を知らないあたしは、おそらく...そう答えるしかできなかった。

前方を歩くカーシャ様を見れば、「とてもそうは見えねぇな~」というスティールのつぶやきにも同意せざるを得なかった...。
褐色の美しい肌艶、快闊過ぎる身のこなし、性格は...また別なのかもしれないが、言動も行動もとにかく年をとっているようには見えないのだ...。

ふと、前方に見える炎のような美しい髪が沈み込んだように見えた。
同時に先頭を歩く4人が乱れる...。
2人の従者が一目散にこちらへ逃げてきて、クレアが手招きしている。
カーシャ様は、また魔物を殴りにかかっているようだった。

あたしたちは、クレアたちの方へと駆けだした。

***

公国暦12年、エタルニア公国最高意思決定機関六人会議が再三制止したにも関わらず、エイゼンベルグでは剣派によるクーデターが勃発した。

当時のエイゼンベルグの盾派は、東西南北にある都市からそれぞれ10万もの兵を動員できるといわれていた。

対するクーデターを起こした剣派の動員兵は4000余...。

エタルニア公国にとっては、どうあっても益のない軍事介入になってしまうが、公国が掲げるアンチ・クリスタリズムの思想に共鳴の意思を示していた剣派の窮地を見過ごすわけにはいかず、聖騎士ブレイブが最も信を置いていた剣聖カミイズミに剣派の軍事支援を命じた。

団長 :ノブツナ・カミイズミ
副団長:ハイレディン・バルバロッサ
    カ・ダ、プリン・ア・ラ・モード、キキョウ・コノエ
公国軍第一師団『黒鉄之刃』精鋭2000名
カミイズミ専用準重飛空艇『柳生』
バルバロッサ乗艦『ファンキー・フランキスカ号』
エタルニア公国海軍400名(戦闘艦艇45、支援艦艇30)

剣派兵4000に、黒鉄之刃兵が2000...いくら精鋭揃いとはいえ、1都市あたり10万もの兵を動員できる盾派に、よく挑んだもんだな...。
文字通り、桁が、2桁ほども違う...。
スティールもルーファスも、戦争などへの参加経験はないが、それでもこの戦力差が途方もないものであるのはわかるらしい。
しかしながら、剣聖カミイズミ率いる黒鉄之刃は、10万の盾派兵と何度も対峙し、時には退けすらしたのだ。

***

あたしが冒険家時代、戦史好きの物書き(後でシヴァーセンという有名な歴史家であることを、その著書から知ったものだが...)から聞いた話によれば、黒鉄之刃によるエイゼンベルグの内戦介入は、黒鉄之刃本体が上陸する以前から開始されていたという。
聖騎士ブレイブの内示を受けた剣聖カミイズミは、公国海兵と艦艇の動員許可を得、それを副団長のキャプテン・バルバロッサに預け、3ヵ月にも及ぶ海上練兵で徹底的に鍛え上げさせた。

公国暦12年某月――。
エイゼンベルグの西方、ユルヤナ海では海賊被害が頻発する。
所属を一切わからぬように偽装された船団が、エイゼンベルグ行きの商船を襲っては、沈まぬ程度に船倉に穴を開けて航行不能にする...。
積み荷を奪うわけでも、船員を殺害するわけでもない。
見逃された数隻からの報告を受けたエイゼンベルグ海軍が海賊を掃討すべく海域に向かうと、そこに待ち受けていたのは、バルバロッサ率いる新生黒鉄之刃海軍であった。

カミイズミ専用準重飛空艇『柳生』による上空からの索敵・支援・空爆と、一糸乱れぬバルバロッサの艦隊運用によって、出撃したエイゼンベルグ海軍はわずか半日の海戦によって全滅し、エイゼンベルグは北西の制海権を失ってしまった。

この大勝により、公国からエイゼンベルグ北部の剣派本拠地『シュタルクフォート』への上陸と補給のルートは確立したのだが、黒鉄之刃2000名は、まだ公国に留まっていた。

代りに、エタルニア元帥府所属の土木工兵隊500名がシュタルクフォート入りし、シュタルクフォートの要塞化を進める。

一方、バルバロッサ率いる黒鉄之刃海軍は、休むことなくユルヤナ海を南下して、エイゼンベルグ首都『ハルトシルト』の海上を封鎖すべく進軍し、出撃してきたエイゼンベルグ南方海軍を撃破...そのまま東へと転戦を重ね、ついにはエイゼンベルグの制海権すべてを掌握するに至る。

黒鉄之刃といえば、剣聖カミイズミの水際立った用兵術や、グラープの地において盾派東方軍団10万が全滅した大会戦、プリン・ア・ラ・モードのエイゼン大橋対峙戦などが有名だが、内戦の間ずっと制海権を掌握し続け、他国からの軍事介入や物資の補給を一切許さなかったキャプテン・バルバロッサ率いる黒鉄之刃海軍の活躍を無視することはできないのだという。

その後、キャプテン・バルバロッサの旗艦、ファンキー・フランキスカ号は、海賊海において行方不明になってしまうが、黒鉄之刃海軍による制海権維持は、エイゼンベルグを全面撤退するまで続くことになる。

***

スティールがあたしの話を遮り、耳を澄ます...。
蒸気が噴き出す音や、腹の底に響くような地鳴りに交じって、何か嫌な高音が聞こえてくる...。

「こ、これは、まさか...!!」

「オイオイオイ...、勘弁してくれよ」

すぐそばに、あの見慣れた光が発生した...!!