BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第008章] 8-1

北へ

担当:クレア

ある日、サンディやルーファスと街中をぶらぶらしていると、地図工房の親方から呼び止められ「スティールの小僧はどこにおるのじゃ?」 ...と尋ねられた。

スティールが製図を頼んでいたゴリーニ湖周辺地図の下絵に、いくつか質問があるそうだ。

(今ならきっと『物思いの崖』だろうな...)

物思いの崖...錬金の街ブラスの東側にそびえる孤立丘のことで、ブラスに住まう者なら誰もが...最近では来訪者のみんなも...何かあるとその崖の上からブラスの街を見下ろしては、しばし物思いにふけるという人気のスポットになっている。

私たちは、後で地図工房に寄らせますと親方に言い置いて、物思いの崖に向かった。

***

元々は、数万年という年月を風雨に浸食された孤立丘であった崖の入り口は、足しげく通う住民の手によって石の階段が造られ、お年寄りのためにロープ製の手すりなどが用意されている個所もある。

住人たちによって整備された石段が途切れると、それ以降は大きな岩が階段状になっているところを頂上に向かって登っていく。

住民が物思いをする一番人気はやはり頂上で、先客がいる場合などには、次の人は一段低い、『たまり』と呼ばれるところで待っているか、そこで物思いを済ませてしまったりもしている。

私たちがたまりに到着すると、何人かの見知った人が頂上の方を見て(スティールなら頂上にいるよ)と無言で教えてくれる。

ここに来る人たちは、他人の物思いを邪魔しないように終始静かにしている。私たちは、先客たちに会釈をしながら、頂上へと向かった。

***

崖の頂上にいるスティールは、眼下を見下ろしていた。

しかし、おそらくスティールが見ていたのは、地に伏して動かなくなったS・ビリーの亡き骸だったように思える。

S・ビリーの亡き骸は、クランブルス共和国軍の検死の後、実父の仇とはいえ義理の兄弟にあたるスティールに引き渡されることになった。

流石に生前の行いのせいで、ブラスの郭内への埋葬は許されそうになかった。また、ブラスの外に埋葬するにしても、墓石などは盗賊などの崇拝の対象になりかねないと、街の長老たちからやんわりと釘を刺された。

私たちは、血砂荒野の何の目印もないような場所に深い穴を掘ってそこにS・ビリーの亡き骸を埋葬した。

S・ビリーがスティールの胸に火傷を負わせたランケード家の腕輪は、実に9年ぶりにスティールの手に戻ってきたことになるが、当のスティールとしては腕輪自体にさほど思い入れはなく、スティールが何軒か持っているという隠れ家のどこかに無造作に置いてあるのだという。

***

スティールは、私たちが声をかけるまで気づかなかったようだ。
少し驚いたみたいで、案の定S・ビリーが今わの際に言い残したことをずっと考えていたのだという。

「ス、スティール...、キドケイユの村へ...行け...そうすれば、親父のことが...わ...」

キドケイユ村...今では廃村になっていて、誰も住んでいないらしい。

22年前、ザレルの侵攻に遭い、幼王を連れて王都を脱出したランケード夫人...いや、スティールの実のお母さんが幼王を落ち延びさせたというクランブルス北辺の寒村...。

「行ってみましょう」
私の声は、スティールの耳に届いていただろうか...。

「...しかし、遠いぞ? 『北の大地溝』のすぐ近くまで行かないといけない。教授はゴリーニに行ったまま戻ってこねぇしな...」
それは、私に対してというよりは、自分に何かを言い聞かせているようなつぶやきだった。

ふとわれに返りこちらを向いたスティールに、私は大きくうなずいて言った。
「決着を、つけにいかないとね...」

錬金の街ブラスの学搭と、錬金のピラミッドの間に太陽が沈んでゆく...。
たまりでは、その夕日をお目当てに崖を登ってきていた人たちが静かに物思いにふけっている。

「行ってみるか、キドケイユの地へ」

***

留守をお願いしたところ、
「ふん、まるで君たちがブラスの街を守護しているような物言いだね」
...と、いつも通りの嫌味で返してくるイヴァール。

それに対するスティールの言葉があまりにも切れのない普通の返しだったことに訝しがるイヴァールに、サンディが力強く答えた。

「そうさ、今回のキドケイユ行きは、スティールの切れ味を取り戻す旅だからね」

最近のスティールの様子がおかしいことを、イヴァールも感じていたらしい。
いつもなら嫌味の追い討ちでもありそうなところだったが、いつになく普通の見送りとなった。

***

血砂荒野を北へと歩く...。
最近、ルミナの具合があまりよくない。

息吹を集めれば集めるほど、ルミナの具合が悪くなっているようだった。

スティールは、ルミナに肉のあつものでも作ってやろうぜと、カバンに香草を持っているかどうかを尋ねてきた。

あつものとは、羹と書き、肉や野菜を煮込んだ上澄みのこと...要はスープのことらしい。

栄養があって消化にもよく、スティールやビリーもケガや病気で伏せっている時などに、親方から作ってもらっていたのだという。

突然、岩陰から出てきたオークが槍をしごいていきり立っている!!

「なんだよ、あつものになりに来たのか? あいにく、手前ぇの肉は臭すぎて使えねぇんだよ」

ちょっとだけ、スティールの鋭さが戻ってきたみたいだった。

***

私たちが、突っかかってきたオークの相手をしている頃、カシオタの街では、Mr.ローズとそのお供の姿が見受けられる。

首尾を尋ねてくるお供に、
「いかがも何も、アルデバイド家もオーベック家と同じさ」
...とローズは両手をすくめてみせる。

そしておそらく、これから向かうカルモ家も...。
ローズ主従は、ここのところ四家の当主たちと会談してクランブルス西方を巡っているらしい。

そして、いずれもローズにとって会談は不調に終わっている...。

「例のものを積んだ船が、ゲレスを出港したとのことです...」
お供の報告は、イライラし始めてきたローズの気持ちを少なからず晴らしてくれた。

「...あいつは、味方になってくれるだろうか...」
この時、ローズが思い浮かべた者は、果たして誰のことだったのか...。

主従の脇を、カシオタの子どもたちが笑いながら駆け抜けていった...。