BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第009章] 9-17

邂逅

担当:クレア

「俺も出るぞ...」
ブルース元国王は、第三陣に続いて先ほど送り出した第四陣がブラスの街にたどり着こうとしているとの報告を受け、豪奢な飾り付きの床几(しょうぎ=陣中で使う折り畳み式の椅子)から立ち上がった。

当然、従者はそれを止めたが、吝嗇なブルース元国王は、王たるこの俺が立ち上がってまで宣言した一事を惜しんで聞き容れようとしない。

(目立ちたがり屋...)
従者が宣教師に対してだけ聞こえるように囁いた言葉も聞きつける勘の良さと、それを聞き流す図太さをも持っている。

(これが、己が野望のためではなく内政のために発揮されたのならさぞかし...)
2人の様子を眺めていた宣教師は、そう思わぬわけではなかったが、王の野望はすなわち世界教の復活につながる以上、それを否定するわけにはいかない。
「これより、第41代クランブルス王ブルース自ら、ブラスの街へ入城する...!」

ブルース元国王の宣言とともに、近衛隊が進軍の準備を開始する。

しかし、それらの手を止める注進が、前線からではなく、中軍の左翼方面から入ってくる。

「どうした、騒々しい...」
ブルース元国王の機嫌は、みるみる悪くなっている。

「て、敵襲にございます...!! 北方より、とてつもない勢いの小集団が
ここを目指して突入してきております...!!」

「なに...!?」
(なぜ北から...?)ブルース元国王が従者の方を見て、従者は宣教師の方を見る。
しかし、宣教師にも何のことかわからなかった...。

***

近衛の兵たちが、美麗な装飾がされた大盾を持ってブルース元国王の周りを固めていると、小競り合いをする物音が徐々に近づいてくる...。

突如、轟音とともに木柵がぶち破られ、もうもうと砂煙が立つ。

「な、何者だ...!? ここを第41代クランブルス国王ブルース陛下の本陣と知っての狼藉か...!」

怒号が飛び交う中、砂煙の中から小柄な男が歩み出て応える。

「ああ、狼藉しにわざわざ迂回して来たんだからな」

スティールに続き、サンディ、ルーファス、クレア、そしてデバコフ教授が現れ、周囲を警戒しながら並び立つ姿は、まるで絵本の主人公たちが大見得を切るような絵面になっている。

「俺たちは、正義の狼藉者様ご一行だよ」

スティールの育ち丸出し・イタさ全開の口上に、ルーファスが不満げにしている。

「ほう、正義の...とな。王に弓引くことが、お前の正義なのか...?」

おそらくあれがブルース元国王なのだろう...大盾を持つ近衛兵に守られた黄金の甲冑を着た大男がスティールの口上に食いついた。

権威をチラつかせて身分が低い者の声を封じようとする高慢さそのものが、きらびやかな鎧を着ているようだった。

しかし、その程度の圧でスティールの口が塞がるわけもなく...。

「ああ、そうさ。これから血迷った悪しき王様をギッタンギタンに懲らしめるんだ。正義の味方に決まってんだろう?」

血迷った、悪しき王、懲らしめる...スティールが口に出すひと言ひと言に、(マスク越しで見えないが)従者の顔に太い青筋が刻まれるようだった。

「ち、血迷った、だと...! 下郎っ、言葉を慎め!」
スティールは、端から従者など相手にしていない。
スティールの鋭い眼光で見据えられているブルース元国王が、敢えて胸を張ってみせる...。

「ふん...。四家の専横を除き、ザレルに奪われた国土を奪還しようと理想に燃える俺を悪しき王だというのか、小僧」

大きな度量を示すべく、ゆったりと語り始めたブルース元国王だったが、言っているうちに怒りが増してきたのか最後の方ではこめかみに太い青筋が浮き上がっていた。

「理想、ねぇ...」

鼻で笑い、「どうですか、みなさん!」...とばかりに周囲のギャラリー(当然、王の近衛兵たちも含まれる)に王の勘違いをアピールするスティール。

「理想、理念、主義、主張...、そんな薄っぺらいもののために、自国の民が懸命に生きる街を大軍で包囲し襲う...どう考えたって血迷ってるし、悪しき...いや、愚かな王だろう?」

「ふっ...、ずいぶんと弁が立つのだな。錬金ゼミの生徒たちよ」

苦し紛れに王が放った言葉が、一瞬、スティールの舌を止める...。
(うん? 俺たち、まだ名乗ってはいねぇはずだが...)

「俺とお前たちは、一度出会っている」
そう言って、王は袂から薔薇の絵があしらわれた仮面を取り出した。

「そ、それは...!!」
ルーファスが、サンディが、驚愕の声をあげる。

私は、ひとりだけ「え~~~~~っ! Mr.ローズぅ~!?」と甲高い場違いな声をあげていた。

私たちが血砂荒野で出会ったMr.ローズは、たしか側にいる従者と同じような背格好だったはず...。

スティールなどは王を見上げ、
「どんなカラクリでそんな体型変えられんだ...?」
従者との差をしげしげと見比べている...。

「ブルース王...いや、ブルース元国王にお聞きしたいことがありマス」

場が和みかけるのを引き締めるように、デバコフ教授がわざわざ"元"と言い直しながら問いかけるも、大陸ペンギンがパタパタしているだけで余計に和みだしてしまう...。

「なんだ? 錬金ゼミ教授...いや、21年前、ブラスの奇跡を起こした大錬金術師デバコフよ」

幾分、元国王の機嫌も元に戻ってきてしまっている。

(んだよ、せっかく崩しが効いてきたのによ...)
...と思っていたスティールだったが、こちらもつられて少し笑いかけている。

デバコフ教授とブルース元国王は、3年前、ブルース元国王が平民に落とされ鬱々としていた頃に、一度クランブルスの新都で出会っているらしい。

「して...? 生徒たちを扇動して王の本陣を襲ってまで俺に何が聞きたい...」
(こやつもまた、正論を振りかざして俺を非難するのだろうな...)
急に面倒臭くなってきたブルース元国王は、あからさまに退屈そうにしている。

デバコフ教授が此度の挙兵の目的について問うと、ブルース元国王は、国の病巣である四家を除き、ザレルによって失われた国土を回復するためと答え、教授が付け加える形で、そのザレルとの決戦のために『賢者の意思』を手に入れる必要を感じ、ブラスを攻めたことに相違ないかをあらためて問う。

(わかっているではないか...)
気分を良くしたブルース元国王が、饒舌になる...。

「各家の勤王派の将兵と結託し、機工島ゲレスで量産したエリートバエル50両を投入することで、四家は潰すことができた」

「...しかし、ザレルと戦うにはそれだけでは心許ない。四家が破壊させようとした超兵器『賢者の意思』が必要なのだ」

ブルース元国王は、デバコフ教授の質問に答える形をとって、実はこの陣中にもいる、同胞への攻撃に反対する意見を抱く者へのアピールもしている...。

その抜け目のなさに誠実さの欠如を感じた教授は、しばし黙り込む...。

その姿をみて、ブルース元国王は何かを思い浮かべ、口の端を歪ませていた。

「そうか...。デバコフ、お前は『賢者の意思』の在処を知っているようだな」
教授は、『賢者の意思』を体内に秘した者を南方ガーマへ逃がしたと答えても、それを教授の嘘だと感じている元国王は、「たとえガーマを攻め滅ぼしてでも手に入れてみせる」...と、豪語してみせる。

まずは、私の側にいるスティールの悲しげな気配を感じた...。

スティールの実の両親が、命を懸けて守り通した幼王が、我が野望のために隣国を攻め滅ぼしても構わないと言ってのける恥知らずな王に育ってしまったことに、静かに...そして深く落胆する気配だった。

次いで、その隣にいるルーファスとサンディからは、みるみる怒りの気配が沸き上がり、ルーファスなどは無言で詠唱を始めていた...。

「『賢者の意思』を体内に秘した者を南へ逃がしたというのは...、嘘だな...? まだお前が持っているのではないのか...? 元、王国錬金術師デバコフよ...」

デバコフ教授が、諦めのため息をひとつつき、肩を落とした...。

同時に、強大な力で木柵がなぎ倒されて、無粋な機甲兵器たちが乱入してくる。

「ブルース国王陛下、お下がりください...! ここは、我ら近衛の出番にございます。者ども、続けぇ~~~!!」

スティール、ルーファス、サンディの冷たい殺気が、ブルース元国王から迫りくるエリートバエルたちに移る...。

ルーファスの手のひらで、雷(いかづち)が爆ぜた...!

***

煙を上げて地面に崩れ落ちている3両のエリートバエル...。

一両は、サンディの大剣で脚の関節部分を破壊され、他の2両はスティールとルーファスによって同士討ちをさせられ片方は大破、もう片方も歩行できなくなっている。

操縦していた兵は、いずれもとうにハッチを開けて逃げ出している。

「ふん、やるではないか...」
ブルース元国王は、余裕を見せようと必死だったが、この狼藉者たちを討ち取る者はおらぬかと周囲を見回している...。

「だが、今の騒ぎを聞きつけてブラスに向かった第四軍が戻ってこよう...。お前たちに勝ち目はないぞ...?」

近衛兵たちは大盾を構えたまま微動だにしない...。
陣中に残存するバエルが駆けつける気配もない。

「あらためて降伏を勧告する。俺に降り、『賢者の意思』を差し出せ。そうすれば...」

「断るっ...!!」
世界教にとって、すなわち王家にとっても仇敵に等しい錬金学の存続を赦してやると言いかけたのに、それを全否定するスティール...。

「ふっ、またお前か...」
ブルース元国王は、教授でもなければ、錬金学に精通しているわけでもなさそうな小僧が、王たる自分の言葉をいちいち遮ってくることに内心呆れながらも、不思議と嫌な感じはしなかった。

(むしろ、懐かしい感じさえ...)
そう思いかけた時、宣教師が口を開く...。

「陛下、この者こそ、かのランケード伯の忘れ形見にございます」

弾かれたように一度宣教師の顔を見て、再びスティールに視線を移し、目を丸くするブルース元国王...。

「なに...? 小僧、名をなんという」

スティールに、かつて実の両親が命を懸けて助けようとしたブルースへの興味は完全に失せてしまっている。

極めて事務的に、フランクリンの名を語り、本当の名を尋ねられても「さあな」とはぐらかす。

スティールからランケードの名を語られることに期待し始めているブルース元国王には絶対に応えないようにし、且つ、相手が嫌がる急所を確実に突く...。
「盗賊フランクリンに拾われた時、俺は記憶を失っていて本当の名なんか知らねぇんだ。誰かさんを落ち延びさせるために、身代わりになった結果だそうだぞ」

「宰相ランケードとその奥方の忠誠には感謝の言葉もない」

そう神妙な顔つきを作りながら、ブルース元国王が、勤王だったランケード伯の忘れ形見のお前なら...という都合のよい論調でスティールを言いくるめようとしても、

「だ~から断るっつってんだろうが!」
...と、取り付く島もない。

「俺が物心ついた時にはもう、王都はザレルの都になっていた。共和制を布いた今のクランブルスにも、特に不満はねぇ」

再びスティールの舌鋒が鋭さを増す...。
四家を打倒して、ザレルによって失った国土を回復することが本来あるべき理想の国家像だと断じるブルース元国王の浅はかさを鼻で哂い、

「理想...か。さっきも言った通り、あんたの言う理想や理念、主義、主張は全部、贅沢品なんだよ」

(俺の掲げる理想が贅沢品...、この小僧は何を言っている?)
スティールの言葉は、ブルース元国王に聞こえてはいてもまったく響いていなかった。

スティールは一瞬迷った後、ひとつ唾を吐いて自身の身の上を語りだす...。

「俺は盗賊フランクリンに拾われ、ガキの頃から生きるのに精いっぱいだった...」

「表立って人様に言えないようなこともたくさんしてきた」

スティールが言う、人様に言えないようなことを私も知らない...。
でも、スティールが感じた痛みや、微かに期待していた幼王への落胆は、わかる気がした。

「あんたの言う、理想とか理念なんていう贅沢な言葉は、俺にはちっとも響かねぇんだよ。ましてや、その理想の国家像とやらのために、ただ生きるために必死な民が集う自国の街を襲っているときたもんだ...」

もしスティールの実の父親ランケード伯が存命でこの場にいたら、きっと自身の掲げる理想に賛同してくれるに違いない...そう信じて疑わない元国王...。

「い~や、きっとチビなくせにバカでかい声であんたを叱責していたと思うぜ?」

「俺はな、こいつらと...俺にとっては国家なんかより遥かに大切な仲間と旅をして、2人の父親の偉大さに気づかされたんだ」

「ランケード伯、ランケード夫人、マイヨ兵士長の親父さん...大勢の犠牲の上で今があるあんたが、こんな愚かな真似してるのが、俺は、どうしても許せねぇんだ!」

スティールの絞り出すような声を、私たちだけではない...王を守る近衛兵たちも静かに耳を傾けている。

「ブルース元国王...」
デバコフ教授は、一貫してブルースを王とは認めていない...。

「これが尊貴な家に生まれ、市井の塵埃(じんあい)にまみれて必死に生きてきた者の叫びにございマス」

この国は、共和制を布いて早4年が経過する。
教授は、ようやくまとまりつつあるこの国を、歪(いびつ)ながら濁りながらも決して民を虐げないクランブルス共和国を支持すると明言した。

「世界教だろうが、王制だろうが、そして、錬金学であろうトモ...。民衆の支持を得られないものは、忘れ去られるものデス!!」

デバコフ教授の心を込めた諫言(かんげん)はブルース元国王へは届かず、その側近たちのプライドを大きく傷つけた...。

「王よ、この狼藉者たちを許してはなるまいぞ!!」

ブルースの従者と宣教師が、不気味な気を漂わせながら襲いかかってきた...!!

***

「ぐっ...、れ、錬金の徒め...」

私たちに敗れたブルース元国王の従者が膝をつき、体中から禍々しい何かが放出された後、動かなくなった。

「やなり、『先人』にゆかりのある者でしタカ...」
デバコフ教授が、小さくかぶりを振る...。

「...くそ...、世界教は...永遠な...り...」

宣教師が力尽きるのを確認したスティールが、ブルース元国王の方を見て、長剣を逆手に持って構える...。

「これで、あんたもお終いだな。悪しき愚王ブルース...!!」

怯むブルース元国王の脇を、巨大な火の玉が飛んできてスティールを襲う!!
「チッ...、だ、誰だっ...!!」

寸でのところで火の玉を避けたスティールが叫んだその先には...