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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第1章] 1-13

帰還

担当:スティール・フランクリン

まばゆい光が掻き消えると、そこはあの『賢者の間』だった。
クレア、サンディ、ルーファス...全員揃っている。

突然、3人が3人とも魔法陣の外側を確認しだす。
どうやら出発前に、クレアは魔法陣の外側にヒカリゴケの軽石を置き、サンディは床に刀傷を、ルーファスは魔法の暗号を記していて、それらがちゃんとあることを確認したらしい。

「なんたって、行くのが異世界だからねぇ。帰ってきたら、もとの世界かどうかを一番知りたいと思って、印をつけたのさ」
サンディが得意げに笑う。

(その印が刻まれた、出発した時とは別の世界に戻ってくることはねぇのか...?)
俺は、無粋な疑念を打ち払うかのように、みんなの準備を感心してみせた。

  ***

「でもよ、ルーファスはよかったのかよ」
ウィズワルドは、ルーファスにとっての故郷...残らなくてよかったのか?
俺の問いに、ルーファスは笑いながら答える。

「だから、故郷ではないんだって...。それに...」
あの世界はたしかにエクシラント大陸だったけれど、ルーファスがいたエクシラントとは少し違うような気がしたというのだ。

そういえば、エルヴィスが言っていたミューザ襲撃は3年前で、ルーファスが言っていたのは2年前だった...。

つまり俺たちは、ルーファスがヴェルメリオ大陸に転移してきた年よりも1年後のエクシラントに転移していったということ...か?

混乱する俺、俺の仮定に大きくうなずくルーファス...。
クレアとサンディは顔を見合わしている。

俺たちの困惑をよそに、ルミナは彩りが灯った羽の紋章を見せつけて喜んでいる。

  ***

ブラスの街に戻る前に、俺たちの異世界転移がこの『賢者の間』に及ぼした影響を調査していこうというクレアの提案に従って、俺たちは賢者の間の調査をした。

魔法陣、玉座、瓦礫の配置...、半日ほど賢者の間の調査をしてみたが、特段出発前と変化があったようには思えなかった。

「やっぱり骨折り損だったかしら...」
意気消沈するクレアに、少なくとも"変化がなかった"ということが判明したじゃねぇかよ...と笑ってみせると、ルーファスが驚いたような目でこちらを見ている。

何か変なことでも言ったかと焦ったが、ルーファス曰く、今のは俺にしては気の利いたことを言ったのだという...。
(議論好きのインテリのいうことは、よくわかんねぇや)

  ***

遺跡内に、落盤というよりも地震のような揺れがあった。
俺たちは、魔物との遭遇を念頭に置いた上で、ブラスの街へ戻ることにした。

  ***

クレアの顔をしげしげと眺めるデバコフ教授の沈黙が、大講堂の空気を重くする...。

「...それで? 地下神殿の最奥『賢者の間』の調査探索...が、わずか半日で完了したというわけでスカ...」

ウィズワルドでは、一泊もしていない。
それなのに、俺たちがブラスの街に帰ってきたのは、街出発してからわずか半日後だったらしい...。
ブラスの街から賢者の間に行くまでに野営をしてきたことを考えると、ノータイム帰還どころか、少し時間が巻き戻っての帰還ということになる。

教授の視線を逃れるように、クレアは賢者の間の調査報告書を提出した。
まさか、あの骨折り損と思っていた調査がここで役に立つとは...。

足早に目を通し終わった教授は、調査報告書を持って大講堂から退室していった。
今日の錬金ゼミは休講にするとのことだった。

  ***

俺たちが学搭を出たのは、昼飯時が終わった頃だった。
俺は一杯引っかけてゆくから...と別行動をとろうとしたところ、みんなついてくることに...。
昼飯時が終わったというこの時間帯。
見るからに大酒飲みそうなサンディ。
食いしん坊だというクレア。
酒が苦手で食が細く、あっさり系の飯が食いたいというルーファス。
...条件が加わるたびに、俺が知ってる食堂、酒場、屋台のラインナップがどんどん絞られてゆく...。

俺たちは、最終的に絞られたその店に向かうことにした。

  ***

そこは、広くも狭くもない間取り、落ち着いた雰囲気と客層、昼間っから酒を出し、飯も時間帯に囚われずに出してくれる店で、俺自身はあまり利用することはなかったが、錬金ゼミ4人で...とあらば、最適そうな場所だった。

...まず驚いたのは、クレアが結構イケる口で、笑い上戸なこと。
ルミナとルーファスは、予想通り下戸で、サンディも予想通り大酒のみ...酒豪とか酒仙とかいうレベルかもしれない。

ケラケラというクレアの笑い声が響き渡り、酒場の雰囲気にそぐわないかと、主人の顔を窺うも、にっこりと笑い返してくれ、周りの客も別に気にしていないようで少しほっとする...。

試しに...とクレアと同じものを数滴飲んだルミナは、ランタンの中でグロッキー中。
飲むと真っ青になるタイプだというルーファスは、消化によさそうなポトフを頼んでちびちび食っている。

サンディは...、それこそ酒場の主人が(在庫的に)心配になるぐらいのハイペースで飲み、顔色ひとつ変えやしない...。

俺といえば、顔はすぐに赤くなるのだが酔っぱらったことは生まれて一度もない。
さし飲みで相手を油断させたり、酔ったふりをして周囲の会話を盗み聞きしたりなど、なかなか便利な体をしている。

  ***

陽気なクレアの笑い声や、矢継ぎ早に酒を注文するサンディの姿を見ていると、少し離れた場所で飲んでいる酔っ払いたちの声が耳に入ってくる...。

どうやら最近地震が多いらしく、発掘溝の足場が崩れるなど被害が出ているらしい。
南の大地溝辺りが震源で、地震によって大地溝がまた南北に伸びたらしい。

  ***

昼過ぎから飲み始め、そろそろ日が暮れる時間になってきた。
街では、発掘現場から引き揚げてきた荒くれどもが、思い思いの酒場や屋台に繰り出すころだろう。

一滴も飲んでいないルーファスが、舟を漕ぎ始めている...。
どうやら単純に旅の疲れが出始めているらしい。
クレアはニヤニヤ笑みを浮かべながら居眠りをしている。

俺は、旅の中で、ルーファスから聞いていた情報をもとにエクシラント大陸の地図を作っていた。
ぶっ倒れる前にチェックしてほしい...と、紙の束をルーファスに差し出す。

「へぇ~、スティールあんた...。なかなか器用なんだねぇ~」
...とサンディは笑ったが、盗賊なんか器用じゃなきゃ生きていけないし、知らない土地に行ったらまず地図を作るというのは、死んだ親方の教えだった。

「地図が頭に入っているということは、暗闇で松明があるようなものだ」
親方はそう口酸っぱく言い続け、地図を作るつもりで土地の情報を得ることで、より地形や都市や村の配置の把握がしやすくなると俺に教えてくれた。

  ***

紙束をルーファスに無理やり持たせて、今日のところはお開きにすることにした。
サンディがお代わりしたばかりのジョッキを大慌てで飲み干す。

ナメッタ村への出発は、...明日、朝飯を食ったぐらいの時間には出立しようと思っていたのだが、クレアやルーファスの状態をみるに、昼過ぎぐらいにずらした方がよさそうだった。

俺はクレアを、サンディがルーファスをそれぞれ担ぐようにして、酒場を後にした。

  ***

一方、ザレルの繭の玉座では、土の副将サージが『土の命脈』を手に入れて大神官に復命していた。

主の撤退を敵に見せつけて油断させ、その後、命脈を奪って帰ったサージの行いを、大神官は、褒めるでも蔑むでもなく『土の命脈』を受け取り背を向ける...。

土の将ガイラが駆けこんできて、サージの帰還を大いに喜ぶ。
自身を逃がすためにしんがりを受け持ち、傷だらけになって土の命脈まで手に入れてくるとは...! と、こちらは、サージが面映ゆくなるぐらいにお人よしっぷりを示している。
大神官は、これから大王様が眠る繭に、土の命脈を捧げる儀式を始める...と、2人を下がらせて、繭の玉座へと向かった...。