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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第010章] 10-2

ニーザ陥落

担当:サンドラ・カサンドラ

大講堂に入ってしばらくすると、しきりにルミナがチカチカとアピールしてくる。

ルーファスは気づいていないようで、スティールは気づいていながら無視しているのか知らんぷりしている。

仕方ないのであたしが声をかけてやる...。

「おや、ルミナ。ランタンの修理、終わったんだね」

待ってましたとばかりに晴れやかな笑みを見せて振り返ったのはクレアだった...。

「ええ、鍛冶工房のカーンさんに頼んでたのがようやく仕上がってきたのよ」
...と、修理されているのは見えているのに尚、ランタンを押しつけるように見せつけてくる...。

アピールしてきたくせに、いざ聞いてみると「具合って言われてもねぇ」とオスマシしているルミナ。

そんなあたしたちのやりとりを、デバコフ教授は何も言わずにただ眺めていた。

***

火の将王麗は、帰国していった。

デバコフ教授は、ブラスの顔役としてザレルの宣戦布告に対してどのような返事をしたのだろう?

「返事...? そんなもの、していませンヨ?」

教授は、何を言ってるんでスカ? と言わんばかり腕...ヒレをすくめている。
(教授が昨日、「返答するから宿でお待チヲ」と言ったんだけどねぇ...)

教授によると、
ザレルは正々堂々と宣戦を布告したかった。
ブラスとしては(戦いたくなんかないのに)宣戦を布告された。
...ただそれだけの話だという。

「軽く10万は動員できるというザレル軍を相手に、まさか「正々堂々と戦いましョウ」だなんて言えまセン」

そう言って教授はヒレをパタパタさせていたが、考えてみれば、クランブルス共和国が宣戦を布告されたわけで、その一都市に過ぎないブラスとして返事をしてやる道理はない。

(そりゃそうか...)
あたしらは、拍子抜けした感じをごまかすように顔を見合わせた。

「夕べ、クレアとスティールは王麗の部屋に呼ばれていたみたいだけど...」

ルーファスが、2人に尋ねる...。

夕べ、クレアとスティールが、王麗の宿舎に招待された。
宣戦を布告しに来た敵将に招かれ会いに行くことが、ザレルとの内通を疑われ、ブラスの結束が乱れる...という意味においてどれだけ危ういことなのかはクレアもスティールも理解はしていた。

「まあ、それでも会いに行ってくるわ...」
そう言って、王麗の宿舎に向かった2人は、夜が更けるまで王麗と話し合っていたようだ。

王麗は、スティールの実の父親、ランケード伯の最期について詳しく教えてくれるとともに、大王ザレル2世の詫びの言葉をスティールに伝えたという。

当然、文書なども用意はされておらず非公式なものにはなる。

ザレル2世は、居並ぶザレルの諸将の圧力に対し、たったひとりで一歩も退かないランケード伯の心胆に惚れ込んでいた。

「この者を我が配下に加えたい」その一心で、そのような誘いをすればランケード伯としては死を選ぶしかないことに気づけなかった...。

それを、当時を知る王麗に託したのだという...。

敢えて確かめもしなかったが、おそらくスティールはザレル2世の詫びを受け入れ、王麗を責めるなんてことはなかったのだろう。
きまりの悪そうな表情を浮かべたスティールだったが、それとは別に、教授のことをあれこれ質問されたことを明かした。

敵将に招かれているという警戒を解いていないクレアたちは、21年前の戦いでブラスを救ったことや、その戦いで人としての肉体を失って旅芸人が飼っていた大陸ペンギンに転生したこととか、ブラスの街に住む者なら誰でも知っていそうな情報を伝えるだけにとどまった。

デバコフ教授はかつて、21年前の戦いでザレル軍にも錬金術師がいたと言っていた。
その錬金術師は、おそらく同門であっただろうと教授はいう...。

元は王国に仕えていた教授と同門...つまり、ザレル側にいた錬金術師とは、ザレルに降った王国の錬金術師ということだろうか...。

***

考えてみると、火の将王麗は妙な使者だった。

ブラスの街を見学したいというから、あのボロボロの城壁や衛兵の詰所でも見せてやろうと思ったら、そんなものには見向きもしないで教授が造ったという内堀や、市場の様子や公衆の浴場、酒場街など、住民の生活について根掘り葉掘り聞いていった。

(さすがに錬金術を使っての水源や水利、緑地化に関しての技術は、戦時の機密に該当するので見学は遠慮してもらったが...)

「そうですか...。ブラスの攻略よりも、ブラスの行政に興味がおありでスカ...」

教授は、将としての王麗よりも、為政者としての王麗に興味を抱いているようだった。
王麗に宣戦を布告された時よりも深刻そうな顔つきに変わっている。

武を前面に押し出してくる敵よりも、内政を整え、じっくりと腰を据えて進出してくる敵の方が恐ろしいのだという。

***

「それと、命脈について質問してたわよ」
新品のガラスに囲まれたルミナは、いつになく饒舌だった。

王麗は、命脈を奪った異世界はどうなるのかをしきりに訊ねてきたといい、それは、他の四将も同じ思いであるという。

命脈とは、命のこと...。
命である命脈を奪えば、クリスタルは枯死してしまう。

それを、ルミナはクレアに代りに説明させていたため、王麗としては、目の前でチカチカしているランタンと、妙な間をもって語るクレアをずっと気にしていたのだという。

「ザレル2世が20年の眠りから覚めたのは、8つの命脈すべてを入手したからに違いないわ」

古の大錬金術師が殺害され、ルミナから奪われた『原初の繭』...。
本来『無のクリスタル』として誕生するはずだったそれが、命脈を揃えたことによって『闇のクリスタル』になって誕生したというわけか...。

***

「おっと、物思いにふけっている暇はありまセン」

黙っていてもザレルは早晩攻めてくる。
出来ることを精一杯やることにしよう...と、あたしたちは大講堂を後にした。

***

火の将王麗が、帰国していった日からわずか9日後、とんでもない一報が飛び込んできた...。

「国境の街ニーザ、陥落...!!」

その一報は、あまりにも早すぎた...。
王麗が急いで帰国したとしても大都まで5日はかかる。
大都で大王ザレル2世に復命した直後に軍を進めたとして、4日でニーザを陥落させることが可能かといわれればかなり厳しいだろう。

続報が入る...。

ザレル軍が国境に迫ったのを確認した共和国軍は、住民の避難を優先させ、希望者は、開戦前に新都や旧オーベック家領への避難を済ませていたのだという。

ニーザに残ったのは、降伏の手続きをするために街役人たちと、ザレルにかかわりが深い交易商たちなどで、ザレルからは丁重に扱われているという。

マイヨ司令官率いる守備兵は、ザレル軍との交戦を避けて新都方面へ退却していったという。

あの街の側にそびえ立つゴーレム像は、今回の戦いではザレル兵に見向きもされなかった。

四将による徹底した調練によって、蛮勇と無駄な突出を厳しく禁じられていた四将直属の軍は、常に大砲の射程外に兵を展開し、結局、テロール将軍が手塩にかけて建造した巨大ゴーレム像は、一発の砲弾も撃たずに接収されてしまった。

***

さらに続報...。

総勢8万ものザレル軍は、血砂荒野をニーザの西方へ進軍し、ブラスの真北の地点に大規模な陣を布いた。

8万という数字に、一同の表情が曇る...。

しかし、続いて大都からザレル大王率いる2万が進発したという一報も入ると、曇った表情が強張った笑みになった...。

(10万、か~...)
もはや笑うしかない戦力差であった。

***

陣の様子を視察する王麗の側を、大量の大きな原木を積んだ馬車の列が通り過ぎる。

草木が生えない血砂荒野において、木柵などに使われる材木などを現地で調達することはできない。
今、陣の外周に建てられている木柵などは、すべて大都よりも東の地から運搬されたもので、この一戦に備えて大神官ヅクエフが前々から準備をしていたものになる。

「王麗様、ニーザの共和国兵を追っていた土の将ガイラ様がお戻りになりました」

クランブルスの主要な都市へ向かっていた宣戦布告の使者が、続々と戻ってきている。

本来、王麗は国境の街ニーザへの使者であったのだが、大王ザレル2世の言葉をスティールに伝えることと、さらには王麗自身のブラスという街に対する興味から、直前に水の将ソーニャと代わってもらったのだ。

大都に一番近い国境の街ニーザへの使者であった水の将ソーニャが復命を果たした時、ザレル軍8万は進発を開始した。

ブラスから戻った王麗は、その軍団とすれ違うように大都へ急行し、大王に復命してすぐに先発の8万に追いつくべく急行した。

水の将ソーニャの用兵は堅実で、あの巨大なゴーレム像の大砲の射程を躱して兵を展開し、ほぼ無傷な状況でニーザの守備兵を西へと追いやり、王麗の占領作戦と、後の前線構築を円滑にした。

「ガイラ隊には、西方に備えて陣を張るように伝えよ」
あの西へ逃げていった守備兵が、このままでいるわけはない...。

クランブルスではテロール将軍が失脚したという噂も流れてきたが、王麗はあえてその情報を無視することにした。

あの勇猛果敢なテロール将軍がいるつもりで油断なく戦う...そうしていれば大敗はないと王麗は思っていた。

王麗は、近衛兵を呼び出し、大王ザレル2世と大神官が2万の兵を率いてこちらに向かっていることを告げ、大王ザレル2世が着陣する前に、大幕舎の設営を完了させることを厳命した。

王麗の視線の先に、設営中の大幕舎の姿が見えた...。
山をも連想する巨大な幕舎で、ザレル・ウルスの三つ目の紋様が縫い取られている。

それは、ザレル・ウルスが、ザラール帝の第三子が建てた王国であることを意味していた。