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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第2章] 2-1

悪夢

担当:スティール・フランクリン

「ふ~、ようやくニーザに到着したな...」
視界に入ってくるあの巨大なゴーレム像...。
俺は、ビル...いや、スコーピオン・ビリーとの遭遇で荒れていた行動のすべてを改める機会をずっと探していたのだが、結局はニーザにたどり着くまでずっと、みんなに不機嫌な姿を見せつけていたことになる。

将軍が留守だったら報告なんかすっ飛ばせばよい。
俺たちはブラスの社会人学生。もともと将軍に報告する義務があるわけではない...。
少し饒舌になった俺をルーファスが嬉しそうに覗き込んでからかう。

クレアもサンディも、直接俺の傷に触れずにいてくれる。
いいやつらと出会ったもんだ...。

  ***

ニーザの街中に立派な軍施設があるにもかかわらず、テロール将軍は戦時と同じ、幕舎を本営としていた。

俺は、できるだけ感情を抑えてナメッタ村で起きた出来事を将軍に報告した。
ナメッタ村近郊の間道からクランブルス領内への侵入路があることは、将軍の予想通りだったようだが、サソリ団のような大所帯が抜けられるほどのものがあるとは思っていなかったらしい。

樹木によって封鎖されていたナメッタ渓谷をどうやって通ることができたのか...ルミナの存在に言及する可能性が少しでもありそうな部分は、徹底的に濁した。

サンディが、『会同』という言葉について何か知っているかと尋ねると、あのテロール将軍が珍しく狼狽の色を浮かべたのを俺は見逃さなかった。
ナメッタ村でS・ビリーが言っていた言葉...将軍はそれを知っていながらわからないと嘘をついている...。

話題を変えたがっている将軍は、踏みたくはなかったであろう地雷を自ら踏み抜いた。
「ところで、それなる2名は...?」

待っていましたとばかりに直訴を始めるクリッシー。
クリッシーがイトロプタの者だと知ると、将軍はあからさまに顔をしかめた。

クリッシーが住民総意の直訴状を手渡そうとするも、ガンとして受け取ろうとしない将軍...。
将軍とクリッシーとの会話で、少しずつではあるが、イトロプタの街の現状が見えてきた気がした。
イトロプタの街は、ガーマ王国の圧政に晒されているわけではなく、むしろ待遇はとても良く、厚遇されているといってもよい。
イトロプタが圧政に喘いでいるというのなら話は違ってくるが、そうでないのならガーマ王国の同盟国であるクランブルス共和国に介入する理由も権利もない。

ザレルの侵攻が現実のものとなっている今、ガーマ王国と同盟を維持するのは、クランブルス共和国の重要な国策。
ゆえに、クリッシーの直訴に耳を貸すわけにはいかない...それがテロール将軍の一貫した立場であった。

  ***

落胆するクリッシーの姿を見た将軍は、この件をデバコフ教授に一任することに決め、俺たちにニーザの宿で止まってゆくよう勧めた。

なんだか、ここニーザの宿に泊まるたび、厄介ごとを押しつけられているような気がする...。

  ***

クリッシーたちは、ナメッタ村からニーザの街までの道中では、俺たちから少し距離を置いていて、野営の焚火すら別だった。そんなクリッシーであったが、ニーザの宿では少し話す機会があった。
(ローブの男は、疲れているからと部屋から出てこなかった)

クリッシー・タイド 20歳。
イトロプタの街の裕福な家庭に育ち、世界教の隠れ信徒からイトロプタの独立・クランブルスへの復帰を説かれて脱ガーマ運動へ傾倒していったらしい。
理想に燃えている様子はうかがえるのだが、どこか地に足がついていない感じが気になった。

俺たちは、デバコフ教授との関係などを簡単に話した後、各々の部屋に戻って眠りについた。

  ***

ブラスまであと1日という地点での野営...交代で見張りに立ち、俺は、サンディと交代し、仮眠に入る。

俺は、夢を見ていた...。

9年前のあの日...。
おびただしい血を流し、地に横たわる親方...。
血のしたたる義手を掲げて、ビルの眼は狂気に染まっていた。

「...これが、一人前になったお前に、親父が渡そうとしていた腕輪だ」
ビルが銀色に輝く腕輪を示す。
そのような品があったことは耳にしていたが、今はそんなものどうでもよかった。
たとえ、それが俺の出自を証明する品だったとしても...。

お宝なんざ、肌身離さず大事にしていてもこうして強い者に奪われてしまう...何かにとり憑かれたかのようにブツブツつぶやいていたビルは、実の親を手にかけたことを詰問する俺の言葉なんか聞こえないようだった。

「悔しいか? ああ、悔しいだろうな~」
ビルが妖しく目を細め、まるで名案でも浮かんだかのように笑みを浮かべる。

「そうだ...。いっそのこと、一生忘れねぇように...刻んでやるよ...! お前の身体になぁ~!」

ビルの右手が俺の胸倉をつかみ、宙に持ち上げる。
左手の義手...3つの鉤爪で持った腕輪を、同じく義手についたバーナーで焙り、俺の胸元に押しつけた...!

肉の焼けるにおい...。
どこか遠くに聞こえる俺自身の叫び声...。
「この腕輪は、俺様がもらっておいてやるぜ...。じゃあな~! あばよ。ハッハッハッハ...!」
遠ざかるビルの声...。

大汗をかいて飛び起きる...。
これで、何度目だろう...。
ここまでが、この悪夢の1セットだった...。

  ***

いつの間にか、見張りを交代していたクレアがカバンからタオルを出して手渡してくれる。

「どうしたの...? 汗びっしょりよ」
なんでもねぇ、悪い夢を見ただけさ...これまでこの悪夢を見るたびに発し続けていた言葉を吐いて、俺は不貞寝を決め込んだ。

東の地平線がうっすらと明るくなってきている。
焚火がパチパチ音を立てていた...。