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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第2章] 2-19

エタルニアからの帰還

担当:スティール・フランクリン

結局、あの防護服の研究員は見つからなかった。

ケガでもして動けなくなっているのか...と、クリスタル祭壇から不死の塔の出口までを軽く捜索してみたが、見つかったのは10数体ものザレル兵の亡き骸だけ...。
ヴィクターは、土のクリスタルが鎮静している好機を逃さぬよう、ケーブルの建設現場に戻ることを決断した。

  ***

不死の塔を後にした俺たちは、まさに強行軍だった。
唯一体力的に心配だったホーリーはサンディが背負い、雪原を走破した。
途中、魔物の襲撃もあるにはあったが、初撃で怯ませたらその後は逃げの一手...急いで戻ることだけを優先した。

あれから8日...。
エタルニアの街で、宿屋の周りの雪下ろしを手伝っている俺たちの元に、ヴィクターがやってきて、2番ケーブルが無事竣工したことを報告した。
報告を聞いた俺たちは、ヴェルメリオに帰ることにした。
世話になった宿屋の主人に礼の挨拶を済ませ、人目のある街中で魔法陣を出現させるわけにもいかないので、俺たちは街の外へと移動することにした。
見送りに...とヴィクターもついてきた...。

  ***

2番ケーブルの最後の工程とは、ルーファスの提案で"弾性が強い可動式のケーブル"を激甚断層の部分に接続するというものだったのだが、それを実現するのには、土のクリスタルの参詣を元帥府が許可を出す2週間をほぼ丸々かける大仕事だった。

まず、ヴィクターが剣聖カミイズミの専用艦『柳生』でラクリーカまで赴き、『テイコフ重機』という町工場に工事の趣旨を伝えて図面を引いてもらう。
続いて、予備の分まで該当装置のパーツを作成してもらい、テイコフ氏ならびに作業員と一緒に飛空艇『柳生』でエタルニアに帰還...。
クレアが錬金術で、運び込まれてきた部品の弾性強化の錬成を施し、最後はテイコフ氏と作業員、エタルニアの技術者総出での突貫作業でようやく完成した。

ちなみにこのテイコフ重機は、4年前の『聖騎士の決起』で使用された3艇の飛空艇に対して『厳高地』を越えられるよう推力アップの改造をした小さな町工場で、それが縁で、公国と親交が生まれ、今では新造艇の開発なども手掛けている。
テイコフ氏は、薄紫の髪をした人のよさそうな大男で、4歳になる息子と3歳になる娘を溺愛しているらしい。クレアに対して「娘に泣かれるので早いとこ仕事を済ませて帰国したいんですよ」...と常にこぼしていたという。

  ***

すでに3番ケーブル、4番ケーブルの建造許可も元帥府から下りたようだが、その間に1番ケーブルもこの新工法で改修することが決定している。

クレアは、都合ケーブル4本分のパーツに追加で弾性強化の錬成を行わねばならず、それが完了したのがつい先日のことだった。

2番ケーブルが竣工して以降、ヴィクターは俺たちに敬語を使うようになり、どうにも調子が狂う。

  ***

俺たちがヴェルメリオに帰還する場所を探して雪原を歩いていると、突然、雪渓が崩れ、巨大な竜が姿を現す。
誰かに使役されているような小物にはとても見えない。

サンディ曰く、『ミズチ』といわれる巨竜は、氷のブレスを吐きながら襲いかかってきた。

  ***

ミズチは音を立てて崩れ落ちた。
このままでは、騒ぎを聞きつけた街の人が駆けつけてきそうだった。

「それじゃあ、私たちはもう行くわね」
クレアは、ランタンをかかげ、ルミナが俺たちの足元に魔法陣を浮かび上がらせる。
少しだけ寂しそうな表情を浮かべたヴィクターの前で、俺たちは光に包まれた...。

  ***

俺たちがヴェルメリオに帰ってゆき、ヴィクターが消えかかる魔法陣を眺めていると、後方からエインフェリアとホーリーが走ってきた。

2人とも息を弾ませ、ホーリーなどは何度も転んだのか、そこら中を雪だらけにしている。

「まったく、ホーリーがぐずぐずしてるから...」
エインフェリアの小言など、どこ吹く風のホーリーがニコニコ顔で小さな小箱をヴィクターに差し出す。

「これをね。ヴィクターに受け取ってもらいたくて...。ついさっき届いたのよ」
ヴィクターが小箱を開けてみると、それは眼鏡だった。

「おおっ...視界がこんなにもクリアに...!」
試しに眼鏡をかけてみたヴィクターが感嘆の声をあげる。

「すごい...! 君たちの顔も、遠くの厳高地もはっきり見える!」
「ふっ、よかったじゃないか。ちゃんとホーリーに礼を言わないとな」
「ああ、ありがとうホーリー。これで...」
3人の笑顔が雪原に弾ける。
しかし、この直後ヴィクターが発した一言が、辺りを凍りつかせ、ホーリーの人生すら大きく変えることになる...。

「...これであの子を、ヴィクトリアをしっかりと診てやることができる...、」
ヴィクターは無邪気な笑顔で、ホーリーは一瞬何を言われたのか理解できずに...それぞれ言葉が出ない...。

すると中央回廊を駆けてくる人影...あの双子の技術者のひとりである。
「ヴィクター主任...! ヴィクトリアの容体が...! な、何者かが薬液に黒波動を流したようなんです!」

北へ向かって駆け出すヴィクター。
ヴィクターの仕打ちに逆上し、追いかけるエインフェリア。
その場に泣き崩れるホーリー...。

そこに、ある男が通りかかり、泣きじゃくるホーリーに声をかける。
その巨体と割れ鐘のような大きな声に、ホーリーの泣き声はますます響き渡るのであった。

  ***

俺たちは、賢者の間に戻ってきた。
俺は、急いで出発前に仕掛けた装置の元へ向かい、様子を確かめる...。

出発前に仕掛けておいた蚊やり香は、ぜんぶ焼け落ちていた。
蚊やり香とは、蚊を追い払う線香をぐるぐる巻きにしたもので、ブラスでは一般的な虫よけとして親しまれている。
俺はそれを4巻きほど紐でつなげて、鉄の網でできた装置に吊るし、出発直前に火をつけておいたのだ。

嗅いでみると、ついさっき燃え落ちたような匂いを発している。
1巻の蚊やり香が、約1週間もつはずなので、俺たちは賢者の間を出発してから4週間ほど経過していることになる...。

前回はノータイムで戻ってきたのに対して、今回は4週間経過して戻ってきた...この違いはいったいなんなんだろうか...?
その辺りはよくわからない。あるいは、転移の数を重ねれば判明することなのかもしれない。

教授へ報告するレポートも、クレアが宿屋で仕上げておいたらしくすでに完成している。
俺たちは、ブラスへ戻り、ナメッタ渓谷に行って南の大地溝を確認すべく、賢者の間を出発した。