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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第3章] 3-2

女優交代

担当:クレア

大都の地下深く『繭の玉座』...。
大神官と話す、土の副将サージとよく似た大男、ウガンの姿が見える。
土の将サージは、命こそ取り留めたものの、いまだに起き上がることができていない。

「こたびの妃候補は、『ツララスタン』の姫君だそうだ...」
ウガンは、しばし考え込むそぶりを見せる。

「確か8年前、我がザレルの兄弟国、ザール・ウルスによって滅ぼされた北の小国でございますな」
兄弟国...この誰もが使う響きに、大神官は呆れにも似た感情しか湧いてこない。

ザラール帝国の始祖、英雄ザラールの没後、4人の息子が巨大になり過ぎた帝国を4つの王国に分割し、各々が英雄ザラールの遺志に従い、大陸の四方に侵攻を続けている。
しかし、4つの国はそれぞれ代替わりをし、互いに困った時にしか使者を遣わさぬような間柄になり下がったといえる。

(20年前、我らザレルの救援の使者を黙殺したザール・ウルスが今さら何を...)

大神官の調べによると、近年ザール・ウルスは、2世大王が病を得たことによって世継ぎ争いが勃発しつつあるという。

此度、大王の妃候補を使者として送ってきたのは、後継者争いで劣勢の立場にある者であろうことは容易に想像がつく。
そして、送られてくる旧ツララスタンの王女は、大王の妃となって祖国の再興に口添えをしてもらおうという腹づもりであることは明確だった。

ウガンは、首を傾げる。
「いくら大王様のお妃とはいえ、兄弟国が支配したツララスタンの再興など叶うとはとても思えませぬが...」
たしかに、いくら大王の妃となったとしても、仮にも兄弟国が8年も前に滅ぼした小国の再興など、よほどのことがない限り不可能であるといえる。

しかし、旧ツララスタンの王女を送りつけてきた者にとっては別である。
仮に妃の座におさまることができれば、自身は隣国ザレル・ウルスの影響力を得ることができ後継者争いが優位になる。たとえ後継者争いに敗れたとしても、有力な亡命先が祖国の隣国に存在するという極めて有利な立場で再戦することが可能になるのである。

いずれにせよ、この地に送られてくる旧ツララスタンの王女には、余計なことは言わず、再興という餌をチラつかせておけば馬車馬のように働くだろうということで、大神官とウガンの間で意見が一致した。

  ***

水の将ソーニャ・ツララスタン(21歳)
8年前にザレルの兄弟国ザール・ウルスに滅ぼされた小国ツララスタンの王女。
帰順したザール・ウルスで戦功をあげ、かの地の水の将に任ぜられ、此度の表敬訪問の折、ザレルにおいての水の将をも拝命しザレル2世の妃候補となった...。

  ***

水の将ソーニャは、戦闘民族ザレルの都、『大都(だいと)』の郊外に佇んでいる。
極寒の地ツララスタン生まれのソーニャにとって、天焦山脈から大都に吹きつける涼風などは、まるで真夏に吹く風のように暖かく感じられた。

22年前、俗にいう『王都の戦い』でこの地を手に入れたザレル・ウルスは、打ち破った城壁を修繕するわけでもなければ、クランブルス王国の建造物を破壊し尽くすわけでもなく、ただただ旧王都の廃墟の周辺に数万もの幕舎を建てて"都"としている。
戦に勝った国の文化や人をただただ呑み込んで、有用なものは吸収し、不要なものは別に壊すわけでもなく放っておく...。
祖国ツララスタンを滅ぼしたザール・ウルスの兄弟国というのもうなずけるものだった。
  ***

後方から、ソーニャの名を呼ぶ声がした。
振り返ると、神官と呼ばれる白装束の男がかしこまっている。

「大神官様がお呼びです」
神官の言葉に、それゆえにこちらにまかり越したのだと反論するソーニャであったが、ここは大都の西側で、大神官が待つ『繭の玉座』がある旧王国宮殿とはまったくの逆方向となる...。

しばしの沈黙の後、2人は旧王国宮殿へと向かった...。

  ***

『繭の玉座』で大神官に引見した水の将ソーニャは、開口一番「大都は暑い」と言い放った。
大都に吹きつける風ですら夏の風に感じるソーニャにとって、その地下深く、年中温度が一定な繭の玉座などは、真夏のように感じるらしい。

大神官は、ソーニャの願いが祖国ツララスタンの再興にあるであろうことを言及しソーニャもまたそれを否定しない。

大神官は、土の将ガイラの時と同じように、ソーニャに黒い指輪を授け、異世界に向かい2つの異世界から『水の命脈』を手に入れてくるよう命じる。

ガイラほどではないにしても、ソーニャもまた異世界という言葉にさして疑問を挟まずに大神官の命令を受け入れた。
それは、幼い日に国を滅ぼされ、父や兄を殺した国の兵として手柄を立てて水の将にまで昇りつめたソーニャの、運命を受け入れる悲しい姿勢だったのかもしれない。

さらに大神官は、ソーニャの副将として、背後に控えるウガンを付けてよこした。
(副将...、いや、監視というわけですね...)
ソーニャは、ザール・ウルス時代とまったく同じ扱いもまた黙って受け入れるのであった。

  ***

繭の玉座から退室するソーニャとウガンを呼び止める者がいた。
身の丈ほどもある大剣を背負う少女...左足を引きずり、肩にも傷を負っているのが見て取れた...。

「サージ...! サージではないか! もう体の具合はよいのか?」
少女は、ウガンに駆け寄ってウガンの腕や肩をさすった。喜びの表情さえ浮かべながら...。

「これはこれは、土の将ガイラ様...、私は、水の副将ウガンにございます」
驚くガイラにウガンは、丁寧に説明する。
「土の将サージは、ウガンの兄で、ウガンは四つ子の3番目の弟です」

「そして、こちらが水の将ソーニャ様。大王様の新たなるお妃候補です」
ソーニャを紹介したウガンの口調が、冷たいものに変化してゆく...。

「負傷してしばらく戦陣に立てぬあなた様と、同じく使い物にならぬ我が兄サージの代わりにね...。くっくっく...」
視線とともに肩を落とすガイラ...。
それを見ていたソーニャの瞳に怒りの炎が灯る...!

「その方、口を慎みなさい」
ソーニャの制止を軽く見たウガンが、なおもガイラ主従をあざ笑う。

「大事な使命を前にして、負傷して戦陣に立てぬとは、ザレルの臣として恥さらしもよいところ。...弟として情けなくて情けなくて」
ウガンは、ソーニャの性根を大きく見誤っていた...。

「大王様のために尽力し、負傷したお方に対しての物言い...。血を分けた兄弟に対してのその言いぐさ...。今すぐ撤回し、詫びなさい...」
静かにではあるが、ソーニャの口調がだんだん巻き舌になってゆく。
ソーニャが燃やす怒りの炎は、ウガンに目にもはっきりと見えた。

(あなたの祖国再興のライバルとなる者を哂っただけではないか...)
ウガンの言い訳など、ソーニャは無視して言い放つ...!

「命令です。今すぐ非礼を詫び、この場を去りなさい!」

ウガンが去った後の回廊で、2人の妃候補の沈黙がしばし続いた...。

  ***

時折出没する魔物を倒しながら、私たちは西へ、ゴリーニ湖に向かって歩き続けた。

「...もうそろそろだな」
スティールがそう言った辺りで、空気が少し湿気を帯びてきているような、少し生臭い感じがするようになってきた。
いずれもゴリーニ湖に近づいている証だという...。

後方から、足を引きずるクリッシーさんが追いついてきた...。
スティールが言うように、へばりながらも脱落せずによくついてこれたといえるけれど、クリッシーさんは「...私がいた頃よりも生臭さがキツくなっている」と、さらに先を急ごうとする。

「よし、じゃあ小休止だ。クレア、飯にしようぜ」
急がないといけないのに...不満げにしているクリッシーさんをサンディが無理やり座らせる。
「あんたが無理をしてぶっ倒れると、体格的にあたしが担いでいくことになるじゃないか。あたしらは腹を満たす。あんたは、体力を少しでも回復する...! いいね」

私は、ブブちゃんに取ってもらった膏薬をクリッシーさんに手渡した。

  ***

焚火を囲んで食事をした。
私が買っていたみんなの好物はとっくになくなっていて、スティールが岩陰で見つけてきた水を煮沸して豆と干し肉のスープを作り、すっかり硬くなったパンを浸して食べた。

「へぇ~、ゴリーニ湖ってのは、一周するのに半月もかかるのかい? デカい湖なんだねぇ」
スティールが地面に描いたゴリーニ湖の地図を覗いてサンディが驚きの声をあげる。

湖岸には、大小20もの漁村や港町があって、ゴリーニ湖で獲れる魚は、クランブルス内陸部の貴重なタンパク源になっているし、その水上航路はクランブルスの南北交易の要衝にもなっている。

スティールは、地面に描いたゴリーニ湖の東にある地点に小石を置いて、
「この東側にある漁村、ゴリーニの名を冠する一番古くて大きな村なんだ」...と行先を示した。

「...教授、今助けに...ムニャムニャ...」
食事をしてすぐに寝入ったクリッシーさんの寝言が聞こえる。
朝方に出発すれば、昼前にはゴリーニ村に到着するだろう...私たちは交代で仮眠をとることにした。