BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS
REPORT錬⾦ゼミ活動レポート
[第3章] 3-1
スティールの長剣
「デバコフ教授がゴリーニ湖で危機に陥っている」
クリッシーは、その情報を伝えるために単身ブラスの街まで歩き通してきた。
極度の疲労で、今は宿屋で眠っている。
「教授を助けにゴリーニ湖へ...!」
あたしらは、2手に分かれて遠征の準備に奔走した。
クレアとルーファスは、食料と雑貨の買い出しに朝市を重点的に見て回っていた。
「しかし、ずいぶんと買い込んだね」
ブラスの街からゴリーニ湖まではとても遠い。
血砂荒野の変わり映えしない景色の中を何日も歩き通すことを考えれば、せめて食事ぐらいには彩りを感じたいだろう...そんなクレアの思いは、抱え込む紙袋の多さに表れていた。
スティールが好きなラズベリージャムに、サンディが好きなカニ缶、ルーファスの好物の粒マスタード...。
(ちなみにルーファスは、マスタード系の辛さが好物だが、トウガラシ系の辛さはからっきしという面倒くさい舌を持ち合わせているらしい)
よく焼きしめたパンや、干し肉、豆類、岩塩などの食材はもちろん予定日数分以上持ってゆくのだが、ちょっとした好物を持っていくだけで、志気が格段に違うものだ。
「クレアの好物はいいのかい?」
そう尋ねるルーファスに、「私はジャムもカニ缶も粒マスタードも全部好きだから」...と、満面の笑みを見せるクレア。
「しかし、そんなに買い込んだら荷物になるだろう?」
そんなルーファスの心配を、クレアは笑い飛ばす。
「平気よ。ブブちゃんがいるから」
クレアがブブちゃんと呼ぶのが、カバンから触手を出している"何か"であるのはルーファスも理解していた。
クレアがブブちゃんをカバンの中身の管理人のように利用しているのも何度も見ている。
(しかし...、この触手は、ブブちゃんとはいったいなんなんだろう...?)
...おそるおそる触れようとしたルーファスが、ブブちゃんに引っぱたかれる!!
「こらっ! ブブちゃん、ダメでしょ...!! ルーファスは私の大切な仲間なのよ...!」
クレアがまるでペットを叱るようにブブちゃんに言い聞かせるも、ブブちゃんは好戦的に触手をぐるぐる回している...。
平謝りするクレア。
「へ、平気さ...」と、ずれた眼鏡をもとに戻すルーファス...。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛...」
ブブちゃんは、クレアが買いそろえた食材をひとつひとつカバンの中に詰め込むのであった。
***
一方、あたしとスティールは、鍛冶工房の前に来ていた。
だいぶ前からスティールの長剣が、柄元が傷んでいるのに気づいていたあたしは、出発前にメンテナンスしておいた方がいいと思い、工房に連れ出したのだ。
バレてたか...と少しだけバツ悪そうにするスティール。
あたしは、ずっと心の中に留めておいた疑問をぶつけてみた。
「なあ、スティール。あんたは、どうしてその長剣を選んでいるんだい?」
一瞬、目を伏せたスティールが、「体格に合ってねぇってか?」とおどけてみせる。
あたしは、こうなったら取り繕っても仕方ない...と、あえてはっきりとうなずいてみせた。
スティールは、小柄な体格には似つかわしくない長剣を使っている。
それなのに、逆手持ちや極端な下段構えなど、あまり長剣の利点を活かせているとは思えない構えをしているので、ずっと不思議に思っていた。
「昔っから、短剣の方が上手く扱えたし、実は今でもそっちの方が得意だったりするんだ」
そう言いながらスティールが長剣を握ると、やはり柄の部分がカチャカチャと音を立てる...。
「親方が...、死んだ養父フランクリンがな...」
スティールの育ての父親は、「お前は、この長剣を扱えるようになるんだ」...そう頑なに言い聞かせたんだそうだ。
スティールの長剣は、別に名刀というわけでもなく、かといってナマクラというわけでもない。
刃も柄も、傷んでは直し、使えなくなっては交換し...と、すでにどのパーツも親方に買い与えられた頃のものは残っていないのだという。
親方という人は、長剣を縦横無尽に扱えるずいぶん立派な体格をしていたのかと思いきや、スティールと同じように小柄な体格だったらしい。
実子のビリーの体格のよさと比べられて、スティールの方が本当の息子なんじゃないかと仲間からよくからかわれていたんだという。
「あいつは、それも気に入らなかったんだろうよ...」
...そう言って、長剣を横にはらってみせるスティール。
やはり柄の部分が音を立てる...。
実は、スティールに長剣を勧めた親父さん自身も、長剣の扱いは、得意ではなかったのだという。
スティールが育った盗賊団の仲間にも、ナイフや手斧は得意でも、正統な長剣使いなど誰もいなかった。
いつしか、長剣を逆手に構えるような、妙な癖がついてしまったのだという。
はじめはあたしも独特な剣技だと思っていた。
しかしその分、剣には余計な力がかかり、傷みやすくなるものだ。
あたしたちが、鍛冶工房の扉をノックしかけたその時、遠くからクレアとルーファスが駆けてきた!
「スティール、サンディ。やっと見つけた...!」
地下坑道で落盤騒ぎがあって、露出した横穴から魔物が湧き出たらしい。
「修理は、そいつの後で...だな」
スティールは長剣を片手に、地下坑道入口に向かって駆け出していった...。
***
翌々日...予定より1日遅れの朝、あたしらはブラスの街を出立した。
前の日に起きられるようになったクリッシーが、どうしても連れてゆけとしつこいので、仕方なくなく日程を一日ずらしたのだ。
クリッシーは、無理をして歩き続けている。
病み上がりなんだから無理をするな...スティールの言葉になど耳を貸さない。
あたしは、休もうとしないクリッシーの肩口を掴んで、力ずくでその場に座らせ、
「無理してヘトヘトな状態で現地に着いたって意味がないじゃないか」
...そう言い聞かせる。
一度腰を下ろしてしまったせいか、クリッシーは大人しくなった。
***
クリッシーの話によると、ゴリーニ湖の中央にある『グラネ島』というところからやってきた『ゴリーニ湖賊』の一団が、村長の娘をさらってゆき、教授が娘を救い出すために舟を出したところ、湖水が腐りだして村に戻ってこられなくなったらしい。
「湖水が腐りだした...まるで『大穴事件』の時のようだねぇ」
あたしのつぶやきに、皆、顔を上げる。
***
あたしがルクセンダルクにいた頃、ある国に『闇の大穴』が発生して、その影響で世界に4つあるといわれたクリスタルがすべて闇に覆われてしまった。
風は止み、火山は荒れ狂い、地殻変動で大地は浮沈を繰り返し、世界中の海洋が腐りはじめた...。
幸い、風の巫女一行の活躍によってすべてのクリスタルが闇から解放されて元の清浄な状態に戻れはしたものの、それまでは、一部を除いて世界中の海洋で船舶の航行ができなくなってしまった。
***
(ゴリーニ湖には、まったく関係のない話ではあるが...)その後、風の巫女は仲間たちとともに『闇の大穴』を滅することに成功し、その功でクリスタル正教の頂点『法王』の座に就くことになる。
あたしが光の球に包まれる数日前に、風の巫女の法王就任のニュースが世界中を駆け巡ったのを鮮明に憶えていた。
つい先日、エタルニアでヴィクターと行動をともにしていたのが公国暦5年。
そして、あたしがヴェルメリオにやってきたのは、公国暦17年のこと...。
***
「もう、いったいいつまで油売っているつもりですか...!」
突然クリッシーが立ち上がり、西へ向かってずんずん歩き出す。
スティールの見立てによれば、ゴリーニ湖までは、あと4日の行程だったが、それはあくまでもクリッシーがへばらないで歩き通せたらの話...。
「あいつ、左足にマメができてやがるぜ」
早くもスティールの目算は崩れたことになる...。
前方では、クリッシーが足を引きずりだしていた。