BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第3章] 3-12

夕闇の蝶

担当:サンドラ・カサンドラ

「もう、ここまでで結構です」
オリビア様は、このままではあたしが護衛を続けてしまうと思い、ヴェルメリオへ戻り、かの地を救う使命を完遂すべきだと諭してくれた。

「私も、これから街に戻って戦いに備えねばなりません。エタルニア公国の文化侵攻に対して、クリスタル正教が発する腐臭に対して...。そして、濁りとぬるま湯に甘んじようとする民に対しての戦いの準備を...!」
オリビア様は、ためらいながらもはっきりと明言された。

辛く、孤独な戦いになる...。
"あたしが見てきた今後の世界"では、オリビア様が予想された通り、公国のブラッドローズ特務隊に追われ、そして特務隊の息がかかった者や特務隊の暗躍に気づかない者たちから煙たがられて、孤独な逃避行の果て、オリビア様は何者かによって殺害される...。

「しかし、私たちに未来の正教を託し、命を落としたアリーシャ司祭のためにも、司祭を守り通した忠義の騎士たちのためにも、私までもが目を背けるわけにはいかないのです」

「身の危険を感じたら、西へ。西へお逃げください」
オリビア様の決意が揺らがないと確信したあたしは、用意しておいた紙片を手渡した。

紙片には、フロウ大陸の西方にある『ダスク遺跡』の詳細な地図が記されている。
この地図に従えば、遺跡内に仕掛けられた無数の仕掛けは難なく解除できるはず。
遺跡の先にある隠れ里で、嵐が過ぎ去るのをじっとお待ちいただければ、あるいは...。

後は、オリビア様自身が隠れていることを外部に知らせてしまうことが懸念された。
あたしは、おばば様やオリビア様の肉親、ご親友のアニエス様にですら連絡をとってはいけないと念を入れた。

最後に、正体を問われたあたしは、『夕闇の蝶に仕えていた者』とだけ伝えた。
フロウエル西方の地をダスクといい、ダスクとは夕闇を意味する。
そして、ダスク地方を治めるグランツ伯爵の家紋は、蝶...。

あたしが居た世界では、公国暦14年...つまり来年、グランツ公爵は病没し、爵位も領地もフロウエルに返納されてグランツ家は消滅する。

あたしは、一人娘に先立たれ後継ぎもなく死んでゆく公の静逸を侵したくない一心で、なぞかけのような言葉を残したのだが、オリビア様はしっかりと酌んでくれたようだった。
「それでは、ここでお別れしましょう」
「お元気で」

あたしたちは、クレアの周りに集まり、ヴェルメリオへと帰る光に包まれた...。

  ***

賢者の間に戻ってきたスティールは、いの一番に出発前に仕掛けていった装置の確認をしていた。

今回、蚊やり香に刻みを入れて経過時間まで測れるように工夫したという装置は、まだ燃え落ちていなかったらしく、あたしたちが異世界に出発してから約3日と14時間ほどが経過していたことを示しているらしい。

フロウエルで過ごした時間としては、1日も経過していなかったように思えたが、この時間のズレは何を表しているのだろうか...?

そんなことよりも...あたしらは、急いでブラスの街へ戻り、ゴリーニ湖へと向かうことにした。