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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第4章] 4-9

水のクリスタル

担当:クレア

「あった...!」
隠し通路を抜けたスティールは、すぐに水のクリスタル祭壇を発見した。

浮遊した水のクリスタルが輝きを放ち、祭壇からは、こんこんと水が溢れて広間の床を浸している。

「間違いないわ。しかも、暴走させられている...」
水のクリスタルが放つ強い瞬きと、ルミナの羽の反応がリンクしている。

この床に広がる水が、屋敷の地下水路へ流れ込み...そして砂漠の地下水脈を通ってサヴァロンの町を水浸しにしている元凶というわけか...。
ルーファスのつぶやきに、ルミナは小さくかぶりを振る。

「元凶...、クリスタルの暴走で困るのも人間ならば、水のクリスタルを暴走させたのもまた人間なのよ」

人間こそが、元凶...そうともとれるルミナの言葉に、私たちは何も反論できなかった...。

  ***

スティールとサンディが、何かに気づき同時に振り返る...。
するとそこには、水の将ソーニャが立っていた。

「やはり、この世界にも来ていたんだねぇ」
サンディの言葉に、ゆっくりとうなずき返す水の将ソーニャ...。

「昼間の暑さには、たいそう体力を削られましたが、侵入するのをこんな夜中にしてもらい、助かりました」

「本来ならば、水の息吹を手に入れたそなたたちがここを立ち去るのを待っていればよかったのですが...」
正々堂々の勝負をして、私たちに勝ちたくなった...そんな気配を漂わせている。

いったいザレルは、そしてソーニャは、何のためにクリスタルをつけ狙うのか...。
ソーニャは、以前、私たちが聞いた"眠ったままのザレル大王を目覚めさせるため"とは、別の理由について語りだす。

今から20年前の『天衝山麓の戦い』...サイローン帝国とザレルが真正面からぶつかった大会戦において、大王ザレル2世は、重傷を負い、それ以来、目を覚ましていない。

しかし、その1年ほど前の『ブラスの戦い』において、大王の心は折られてしまっていたというのだ。

大王自ら指揮を執る親征...。
ザレル軍の士気は高く、ブラスの陥落まであと一歩というその時...!
突然現れたひとりの錬金術師によって、ザレルの兵は壊滅させられたという。

ソーニャが聞かされたというザレル側の遺恨など、ザレルに包囲されたブラスの民が持つ遺恨に比べれば、些細なことだと断言できるが、心を折られたと思っている方にとってみれば、そのような比較は関係ないのかもしれない。
そしてそれを、ソーニャも理解しているようだった...。

水の命脈を入手せねばならない水の将ソーニャとしての使命...。
戦闘民族ザレル...いや、ザレルを統べる『大神官』が抱くというブラスへの遺恨...。
ソーニャの、祖国ツララスタン再興の夢。
そして、ソーニャが望む、私たちとの正々堂々の勝負...。

ソーニャは、自分がすべきこととしたいことが、大神官のブラスに対する遺恨という、ソーニャにとって納得がいっていないことを大元にして存在していることに思い悩んでいるようだった。

  ***

「あんたにとって、ブラスへの遺恨なんてこれっぽっちも感じてないんだろう? 俺たちとの勝負は、それこそ互いに精いっぱいやり合えばいいってだけの話じゃねぇか?」

スティールが、退屈そうにつぶやいたその一言が、ソーニャの瞳から迷いを祓う。

「な~に敵に塩送ってるんだよ」
そう文句を言うルーファスも、スティールが言う通りだと思っているらしい。

「ふっ...。そうでした...」
ソーニャは鉄斧の柄を握りしめ、ゆっくりと旋回させ始める。

ソーニャの悲願は、あくまでも祖国ツララスタンの再興...。
そして、野に躯をさらしたままの同胞を弔ってやることにあり、

「それ以外のことは...、すべて些事!!」 
ソーニャは、鉄斧をピタリと私たちの方へ向け、大きくうなずいた。

「うん、それでいい...! さあ、正々堂々やり合おうじゃないか!!」
サンディも大剣を構え、ソーニャに応じる。

ソーニャは左手の指輪を宙にかざして念じた。

「指輪よ、我に無限の戦場を与えよっ...!!」

  ***

ソーニャ主従との嵐のような戦闘の途中、突然、あの石柱が浮遊する異空間の情景は晴れ、元のクリスタル祭壇へと戻ってきた。

私たちは、かろうじて立っていられているが、水の将ソーニャの周りには、数人のザレル兵が倒れ、あるいは膝をついている。
(あの空間が、この戦いは痛み分けだ...とでも言っているようだった)

スティールは、ルーファスが(もう無理だ)とアピールするのを無視して「こっちはまだまだイケるぜ?」と強がってみせる。
サンディは、そのやりとりに反応を示さず、ひたすら息を整えようとしている。

「こ、こ...こちらこそ...!!」
ソーニャの口調が巻き舌になってゆく...。

「さあ、もう一戦っ!! もう一戦参られよ...!! 参らレよ~~~~!!」
息を殺したサンディが、大剣を上段に構え、ソーニャの一撃に備えている。

すると、鉄斧を旋回し始めたソーニャの腕を掴む者がいる。
ソーニャの足元にうずくまっていたザレル兵だった...。

「...ソーニャ様、兵たちが...! このままでは、兵たちが...もちま...せ...」
...皮肉にも、それを言っているのが起き上がっている最後の兵だった。
そして、そのザレル兵士も直後にその場で倒れ込む...。

「どうする? まだやるかい?」
それとも、そのぶっ倒れた兵たちを連れて、退いてくれるかい?

「できたら、そっちの方がありがたいんだがな~」
スティールは、あえて本音を明かしてソーニャに撤退を促している。

「ここは、退かせていただきます。またいずれ、どこかで再戦を...!!」

ソーニャは、周りに倒れている兵士3人を一度に担いで、呆気にとられている私たちを置いてクリスタル祭壇の間を去っていった。

弔えなかった同胞が...と語っていたソーニャ。
サンディは、降伏した兵は最前線に送られて死ぬまで戦わせられるのが戦の常...。
命を落とした同胞を弔うことも許されないこともよくあること...きっとソーニャもそんな境遇にあったのではないかと推察し、うつむいた。

「...あのまま戦い続けていたら。勝ち目はなかったかもしれないねぇ」
私たちが、ソーニャが去った通路を眺めていると、ルミナが儀式を急かしだす...。

「さあ、さあ...前座はおしまいよ。とっとと、水の儀式をしてしまいましょう」
俺たちの激闘が前座だとよ...スティールとルーファスが、呆れた顔をして両手をすくめる...。

  ***

「我は、ルミナ。遠き世界の、クリスタルの母となる者なり!」

「かの地の水の災厄を祓い荒廃を止めるため、願わくば、水の息吹を分けたまへらるとかたじけなく...」

最近のルミナは、ルーファスが教えた古語調の祝詞をすっかり堂に入った態度でよみあげることができている。

水のクリスタルから水の息吹が現出し、ゆっくりとランタンの周りを回り始める。
ルミナの羽の、水色の紋様がゆっくりと発光し、儀式は終了した。

  ***

屋敷内でこれだけの大暴れをした(あの石柱が浮遊する空間での音は外部に漏れないにしても)のだから、そろそろ屋敷の兵士たちも起き出してくるころだろう...
私たちは、早々に屋敷を出ることにした。