BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第4章] 4-15

衝撃

担当:スティール・フランクリン

「ぶっ、ぶっ殺す...!!」
俺は、我を忘れてビル...いや、スコーピオン・ビリーに向かって突っ込んでいた...。

ほんの数歩駆け出した直後、ふと我に返った俺には、なぜかみんなの様子が手に取るようにわかった。
クレアの俺を制止する声、サンディが2人に援護と撤退の準備を指示して、俺の後に続いてくれている...。

(よし、気兼ねなく突っ込める...!!)
俺は、ビリーが控える集団に向かって駆け続けた。

  ***

(ふっ、バカ野郎が...。また、スティールの野郎が血相を変えて突っ込んできやがる...)そう嘲笑ったビリーは、配下に命じて『魔封じの壺』を持ってこさせる。

「ふっふっふ...、さあて、何が出るかお楽しみといったところだな!!」
ビリーは、義手の鉤爪で、地に置かれた3つの壺をすべて叩き割った。

3つの壺からそれぞれ光の球が現れ、スパークする...!!
光の中から3体の小さな魔物が出現する...。

「なんでぇ...。高価な壺から出てきたのは雑魚3匹かよ。チッ...。まあいい、お前ら、こいつらを遊んでやんな!」

ビリーに命じられた3匹の夢魔たちは、妖艶な微笑みを浮かべながら突進してくる俺目掛けて襲いかかってきた...!

  ***

3体の夢魔に囲まれそうになるのを、サンディの大剣が阻止してくれた。
次いで、クレアとルーファスも駆けつけてくれ、俺たちは夢魔たちを撃退した。

「ほう、やるじゃねぇか!! 仕方ねぇ、手前ぇらの相手は俺様がしてやるよ」
ビリーは、太い首をゴキゴキ鳴らしながら、義手の鉤爪の動きを確かめている。

「ふん...、やっぱりメンテ直後は義手の調子もいい...。高い金払って機工島ゲレスの職人を呼びよせただけのことはあるぜ」

ビリーは義手を振り払い、巨体を前傾させる...。

「さあ、おっ始めようぜ~、スティール」
ビリーの片目が見開き、振りかぶった鉤爪が目の前に迫ってきた...!!

  ***

スコーピオン・ビリーひとりを相手に、俺たち4人は満身創痍の状態だった...。
遠巻きにしているサソリ団員たちも、俺たちの戦いを、かたずを飲んで見ている。

俺一人ならともかく...、こいつらがいる限り、ビリーなんかに負けるわけがない...。

  ***

「そうかい、そうかい。じゃあ、そのお仲間さんたちに、手前ぇの華々しい出生の秘密を聞いてもらおうぜ」

ビリーが何を言っているのか、一瞬俺にはわからなかった...。

「ああ、手前ぇも知らなかったんだっけな~...」

「親父が手前ぇにこの腕輪を渡そうとしていた9年前のあの日、俺は...激昂した手前ぇを軽く捻り倒して、目の前で親父をぶっ殺した...そして、」

ビリーは、首飾りにしている『形見の腕輪』を器用にも鉤爪で掴んで見せた。

「こいつをバーナーで焙って、手前ぇの胸元に圧しつけてやったんだよなぁ~」
その腕輪の烙印によって、俺の胸には醜い蜘蛛の火傷がついている...。

「ぷっ...、く、蜘蛛だって? 手前ぇら、あれを蜘蛛だと思っていたのかよ!!」
ビリーが腹を抱えて笑い始める...

「...な、何がおかしい...!」

「おかしいさ...! あんなに有名な紋様が、まさか蜘蛛だとはなぁ~!!」

「これは、手前ぇに謝らないといけねぇな...。あの時、俺は、ひとつミスをしちまったんだ...」

「慌て者の俺様は、焙った腕輪を手前ぇに圧しつける時、どうも、上下を逆さまにしちまってたみてぇなんだよ」
そう言うと、ビリーは形見の腕輪を一度わざと逆さまにしてこちらに差し出した後、上下を逆さまにして見せる...。

「あ、あれは...、炎と三日月の兜飾りに、大盾の意匠...ランケード伯爵家の、紋章じゃないか...!!」
サンディの言葉に、驚くクレアとルーファス。
俺は、視界が暗くなるのを感じていた...。

「へっ、さすがにクランブルス中から嫌われた、悪名高き宰相閣下だぜ...」

「幼王と民を棄て、ザレルの軍門に降った上で殺されたランケード伯...」

「そして、夫を裏切って王都を脱出し、託された幼王から財宝を奪って置き去りにし、その後、ザレルに追撃されて死んだランケード夫人」

「あのクランブルス四家と拮抗するとまでいわれた大貴族の紋章が...地蜘蛛みたいな不格好な代物に間違えられるとはな!!」

俺の耳にビリーの声はしっかり届いている。
しかし、そのあまりに衝撃的な内容に、俺の脳がそれを拒絶しようとしている...。

「22年前、あの『王都の戦い』の直後...、親父の隊がいた戦場は、ひでぇ追撃戦の後だったらしくてなぁ。ザレル兵が過ぎた後には、無数の屍が葬られもせずに打ち捨てられていたという」

「親父の隊は、金目のものの他に、高熱を発して記憶をなくしたガキ...スティール、手前ぇを拾ってきたんだ」

「半身馬車の下敷きになって息も絶えだえだった貴族の夫人から、気を失った手前ぇと一緒にこの腕輪を引き取ったんだとよ。この子をどうか頼みます...ってなぁ」

気がつけば、俺は地に両手をついて呆然としていた...。
クレアもサンディもルーファスも...何も言えずにただ俺を見ているだけだった...。

  ***

サソリ団員のひとりがビリーに近づいてきて、馬車のお宝をすべて積み終わったと報告した。
ビリーは、ゆっくりとうなずき、「これで、次の会同では門前払いを食わないで済みそうだ」と目を細める...。

ビリーは、地に這いつくばる俺など眼中にないかのようにクレアたちに言い放つ。

「おい、スティールなんかとつるんでる物好きなお仲間さんたちよ~、こいつは、国中から嫌われる夫妻の子ども...。そして育ちはチンケな盗賊団...」

「こんなヤツと一緒にいると、この先得することなんか、何ひとつねぇ...!」

「こいつに力を貸し続けて命を失うか、それともここでサッパリと縁を切るか、よ~く、考えることだな...!!」

...そう言い放つと、ビリーは高笑いしながら手下たちに引き揚げを命じた。

俺は、赤い砂を握りしめ、クレアたちは、奪われて行く馬車を見送るようにただただその場に立ち尽くしていた...。