BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第4章] 4-17

一変

担当:ルーファス

ブラスの街は、どこかいつもと違う雰囲気に包まれていた...。

住民たちの視線が冷たい...。
皆、僕たちと目を合わせないようにしながら、背後から、物陰から僕たちを睨み続けている。

(...しっ、来たわよ!)
(あれが、あのランケード伯の息子かい...。どおりで蛇のような人相だと思っていたよ)

(あっ! アイツでしょ? 夕べお父さんが言ってた悪人の子って)
(シッ、ダ、ダメでしょ!!)

年かさの住民ほど、声は潜めているが辛辣な言葉で...、子どもは無邪気な分だけ容赦がない...。

いたたまれなくなったスティールが駆け出してゆく...。
僕たちは止めようとしたけれど、間に合わなかった。

  ***

「こんなにも噂が広がるのが早いとはねぇ」
サンディが大きくため息をついた。
戦場でS・ビリーが語ったのを耳にした、僕たちが逃がした馬車の御者やカッシーオ家中の者が、ブラスの街に避難してきた際に街中に吹聴したらしい...。

「...ったく、もっと遠くまで逃がせばよかったのかねぇ」
サンディは髪をバリバリ掻いて悔しそうにしていたけど、あのサソリ団が迫る中、非戦闘員の彼らをあれ以上遠くへ逃がすなど不可能だった...。

スティールがいなくなり、陰口こそささやかれなくなったが、相変らず僕たちに向けられる視線は冷たい。

「話は聞いたよ」
唯一近づいてきて声をかけてきたのはイヴァールだった...。

「イヴァール、違うのよ。あれは、サソリ団の頭目が騙っただけで...」
イヴァールは、クレアの言わんとしていることを十分に理解した上で、それでもブラスの民が受けた衝撃と、抑え切れない心情を代弁した。

「...たしかに、盗賊風情の世迷言かもしれない。でも、ランケード夫妻に対しては、ここブラスの民は他の国民以上に悪感情を抱いているからね」

ザレル侵攻の前から、宰相ランケードの苛政はひどいものだったらしく、ブラスやニーザからたびたび徴発しては、王都(現、大都)に運び入れていたという。
そんなところにザレルが侵攻してきて、まさかの王都陥落...。
宰相がしっかりしていれば、翌年の『ブラスの戦い』もなかったかもしれないなどともいわれている。

「ボクやクレアの両親も死なずに済んだかもしれないんだ」

イヴァール自身、死んだ両親の恨みをスティールに抱く感情などこれっぽっちもないのがわかる...。
ブラス市民の感情の大元がどこにあるのかを、自分やクレアの両親の死をもって言い表しただけなのかもしれない。

むしろ、この状況にあるスティールへの同情、そして、自分の力では住民たちの感情をどうすることもできないという無力感すら覚えているのかもしれない。

「そうだ。デバコフ教授が大講堂に来てほしいって。...ちゃんと伝えたからね」
イヴァールは、僕たちに集まる見えない視線をひと睨みして、雑踏の中に去っていった。

  ***

スティールがいないことを指摘したデバコフ教授だったが、僕たちの反応をみて、構わず話を進めた。

「クレアたちには、ニーザの街へ...テロール将軍の元に行ってもらいたいのデス」
将軍の元へ...? いったいどんな用件で?

教授は、将軍が僕たちを呼ぶのは、オーベック家領の件についてではないかと推察しているようだった。

オーベック家とは、『クランブルス四家』のひとつで、先日行ったカッシーオ家領の北方に位置する。

ヴェルメリオ大陸の西にある海洋『オーベック海』は、古来より良港に恵まれ海洋貿易基地として発展したこのオーベック家領から名づけられている。

近年、謎の暴風が領内に吹き荒れ、船は港に寄港できず、自慢の風車群は壊滅状態にあるという。

「謎の暴風...ですか。でもそれが、テロール将軍とどんな関係が?」
クレアの質問に、教授は種明かしでもするような口調で答える...。

「オーベック家は、テロール将軍の昔の主君ですノデ...」

  ***

錬金ゼミ生が、錬金術をもって高潮を鎮めたなどという噂がオーベック家の耳に入ったのか、あるいは、ブラスにやってきたカッシーオ家の者が将軍の耳に入れたのか、はたまた噂を信じたオーベック家の方々が、藁にもすがる思いで将軍にとりなしを依頼したのか...だいたいそんなところだろうと教授は推察しているようだった。

「東へ西へと大忙しのところを気の毒に思いまスガ...」
そう言いかけた教授の言葉を遮るようにサンディが返事をしてしまう。

「いいえ、すぐにでもニーザの街へ出立しましょう」
僕もクレアも大きくうなずき、サンディの意見に賛成する。
こんな淀んだ空気の街中にいるよりも、荒野で雨風に晒される方がどれだけマシなことか...。

僕たちは、教授がテロール将軍あてにしたためた書簡を持って、大講堂を後にした。

  ***

街中で、とぼとぼと歩くスティールを見つけた僕たちは、新しい任務を伝えた。
スティールは、言葉少なに了承した。

そこに、クルーンとあの歴史好きの老人が現れて、スティールに罵声を浴びせ始める...。

「あれだけ街の者にちやほやされていたお前が...、まさかあの悪名高きランケード夫妻の忘れ形見だったとはな...」

「何がブラスの英雄だっ...! 聞いてあきれるぜ!!」

「とっとと、街から出て行け...! こ、この悪童...、疫病神が...」

肩を落とし、手を震わせていたスティールが、駆け出してゆく...。
クレアが後を追う。

僕は、咄嗟に詠唱を始め、怒りに任せて2人の手前に雷撃を放った...。
サンディが、僕の腕を掴む...。

「大丈夫、当ててないよ。それとも、今度こそしっかりと当てようか...?」
僕の手中に小さな電撃が走るのを見たサンディは、ものすごい力で僕の腕を握って、
「もういい。あんたの気持ちは十分わかったよ。さあ、クレアたちの後を追おうじゃないか」
...そう言って、僕のさらなる暴走を制止してくれた。

クルーンたちは、腰を抜かしている。
僕たちは、クレアの後を追った...。
サンディに握られた腕が、やたらと痛かった...。

  ***

僕たちがデバコフ教授の依頼を受ける数日前のこと...。

国境の街ニーザ、テロール将軍の幕舎では、オーベック家の使者が将軍に目通りしていた。

「旧主オーベック家からの直々の使者とは、このテロールへどのような詰問ですかな?」
将軍のけん制をほほ笑みで否定する使者であったが、これはテロール将軍側に、過去に主家から何か詰問されることをした、あるいは現在もしていることを表している。

使者は、近年オーベック家領に吹き荒れる暴風の被害について述べるとともに、カシオタの街の高潮騒動が収束したことを挙げ、それは、デバコフ教授の教え子『錬金ゼミの生徒』の錬金術によって成されたことだと聞き及んだことを告げる。

そこで、デバコフ教授と親交があるテロール将軍に、とりなしを頼みに来たというわけだ。

将軍は、使者が去った後、さっそくデバコフ教授へ書簡をしたためることにした。

(...錬金の力で、高潮を鎮めた、か...)

幕舎の外に掲げてある旗が、風に吹かれてバタバタと音を立てた...。