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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第5章] 5-6

ゼビュンカ渓谷

担当:サンドラ・カサンドラ

あたしたちは、西を目指してただただ歩いた。

日を追うごとに野営飯から鮮度のある食材が消えてゆき、最近では、保存食をどうにかこうにか旨く食うためのスキルが注目され、ルーファスが持ってきた香草やクレアがカバンに入れている香辛料が救世主になっている。
(要は、単純に濃い、インパクト重視の味付けになっている)

もっとも...、それでもなお共和国軍から支給される食糧に比べれば雲泥の差...と、マイヨ兵士長はニッコニコしているのだが...。

***

風景の中に、血砂荒野と比べて明らかに緑が増えてきている。
木の実や、道すがら狩った獣肉などが野営飯に上るようになり、何より、水の入手が比較的容易になったことがありがたかった。

「...よし、ようやく着いたな」
道が2つに分かれていて、その間に、風化してよく読み取れない道標が立っている。

このあたりはすでにオーベック家領で、あたしたちが目指すゼビュンカ渓谷は、ここからさらに西へ...。
マイヨ兵士長は、南にある旧テロール家領へと向かうとのこと。

あらためて、クレアが道案内の礼をすると、マイヨ兵士長は「いやいや、こちらこそ久しぶりに楽しい旅だった。あんなに美味い野営飯にありつけるとは思わなかったよ」と白い歯を見せている。

「...じゃあな」
「...ああ」
去り際、マイヨ兵士長があたしたちへのものとは少しだけ違う雰囲気で、スティールに声をかけ、スティールもそれに応えていた。

***

マイヨ兵士長の姿が小さくなった頃、あたしたちも西へ向かって出発した。

「どうせだったら新都を見て回りたかったな~」
ルーファスのつぶやきにクレアもうなずき返す。

あたしたちは、オーベック家領に入る前、アルデバイド家領を横断してきた。
クランブルス新都は、22年前に旧王都から落ち延びてきた幼王ブルースとその遺臣のためにアルデバイド公が自身の副都を献上し、新たな国都にしたという。

その新都が遠くに見えるぐらいまで近くにきていたのに、なぜかマイヨ兵長は道を変えて新都には近寄ろうとはしなかった。

なんだか敢えて避けていたようにみえたんだけどねぇ...あたしが、なぜそう感じたのかを確かめていると、スティールの押し殺したような声が聞こえた。

風に乗って、誰かが悲鳴を上げているのが聞こえてきた...!!
あたしたちは、声のするほうへと走り出した...。

***

「危ないところを、ありがとうね」
腰が曲がった老人が、抜けた歯をスースーいわせながら笑っている。
近くに住んで木こりをしているらしく、魔物に襲われていたところに偶然あたしたちが居合わせたのだという。

あたしたちは、オーベック家領の暴風被害について調査しに来たと告げ、老人に案内を頼んでみると、快く承諾してくれた。

***

老人の後をついてしばらく歩くとすぐに、風を肌で感じるようになった。
それでもまだ渓谷の外側で、渓谷内はこんなものでは済まないという。

稜線の向こう側がゼビュンカ渓谷...。
西側のオーベック海に向かって走る2つの丘陵の間に、200を超える風車群が建っているのだが、最近の暴風騒ぎで全滅してしまったらしい。

稜線の向うの雲が、危険な匂いを感じるほどに速く東に流されてゆく。
稜線の手前に建つ風車は、風によって羽根がもぎ取られてしまっている。
その風車より向うへ行くのはやめておいた方がいい...そういって老人は去っていった。

峰の外側ですら近寄らない方がよい強風が、渓谷の中では吹き荒れている。
調査はすべきだ...しかし、誰もが行くべきではないと思い始めていて、まなざしをルミナがいるランタンに向ける。

「なによ~...最近、なんだか眠気がすごいのよ...」
眠そうに眼をこするルミナに事情を話すと、しばし考えた後に自らの羽を指し示す。

「あ、ルミナの羽が反応している!!」
ルミナの見立てによれば、これは風の力が暴走している状況なのだという。

ルーファスは、またブラスに戻って賢者の間へ向かうのか...と、ここゼビュンカまできた徒労感を嘆き、対してスティールは、クランブルスの北西部を巡れて、地図作成の精度が上がると、この旅が無駄ではなかったと思っているようだった。

普通に話すようになったスティールと、それを過度なまでに喜ぶクレアやルーファス...。
ずっと眠っていたルミナからすると異様な雰囲気に感じるのかもしれないけれど、一緒にいたあたしたちからすれば、どれだけ待ち望んだ雰囲気であったことか...。

暴風被害の検分は、稜線の外まで吹き荒れる風、現地人の証言...調査としては十分だろうと結論付けて、あたしたちは、ブラスへと帰ることにした。