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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第5章] 5-7

新たなる将

担当:スティール・フランクリン

来た道を帰る...ただそれだけのことなのに、道案内のマイヨがいないだけでこんなにも不安になるものか...。


「...そっちの道を行けば、新都に行けるらしいわ」
「新都の辺りも見て回ってからブラスに帰る?」
「スティールの地図作りも捗るんじゃない?」

さっきから、やたらとクレアが話しかけてくる。
いや、俺を気遣ってくれているのは痛いほどわかっていたけど、文字通り"それどころ"ではなかった。

なるべくキツくならないように気をつけながら、生返事でクレアを前に行かせる...。

***

俺が後方を警戒しているとサンディが近づいてきてくれた。

さっきから...新都を遠望できるようになってから、いくつもの視線を感じている。
監視だけではとどまらず、場合によっては害意すら感じるような冷たい視線だ...。

マイヨと一緒にいる時から微かに感じていた。
マイヨも、これがあるから新都へ近づこうとしなかったのかもしれない。

サンディにしんがりを任せて、俺は先頭を歩くことにした。

クレアとルーファスじゃ、どこに行きつくかわかったもんじゃねぇ...そう言ってるそばから道を外れてゆく2人の姿があった。

(なんであんなに自信満々に道を間違えられるんだ...?)

舌打ちを置いて、足早に2人を追った...。

***

一方その頃、大都の地下深く『繭の玉座』では、大神官が、ラヴィヤカ国から来たナンナンという姫と引見していた。

ナン・ナンナン(25歳)。
風の将、そしてザレル大王の妃候補となる。
例のごとく、指輪を授け、サガンという副将もつけた。
大神官は、ナンナン側の事情をすべて知っているようで、含みを持たせた形で幕舎へと下がらせた。

ナンナンが下がった後も、繭の玉座の堂下では、大神官とサガンのやたらとぼそぼそとした会話が続く...。

「出撃が近い。それまであのナンナンという娘を飼いならしておけ。」

昨年、ザレルの兄弟国のザナ・ウルスが、ナンナンの祖国ラヴィヤカ国に侵攻を開始した。

ラヴィヤカとは、小国ながら歴史ある密林と遺跡の国...深いジャングルが侵攻の足を鈍らせているとはいえ、国力の差は明らか...。

つまりナンナンは、祖国に侵攻してきた大国の兄弟国へ嫁ぐことで、講和を結びたいと願っていることになる。

サージ、ウガン、そしてサガンも含めた4兄弟は、19年前、大神官の左右の耳目から造り出された存在...。

手段を選ぶなという大神官に、風の将ナンナンを犠牲にしてでも? ...と問い返すサガンであったが、「お前の命を犠牲にしてでも...だ」と大神官は鼻で哂うのであった。

***

繭の玉座から下がったナンナンは、気を紛らそうと地上に出て、さらに気落ちすることになる...。

大都の城壁は、22年前の攻防によって破壊されたままになっている。
今もなお、ザナ・ウルスの大軍によって侵攻されている祖国ラヴィヤカを、嫌でも思い出させる...。

「なんなん...、なんなん...?」

「ラヴィヤカ国の御姫様として、蝶よ花よと育てられたあたしが...、なんでこんな荒涼とした大地にたったひとり連れてこられんとアカンの...?」

ナンナンの叫びは、風に乗って東の空へとかき消されて行く...。

「...国を、滅ぼされないようにするため、でしょう?」
ナンナンの後ろに現われた水の将ソーニャは、取り乱すナンナンをなだめるように語って聞かせる。

「故郷を離れて大陸の西の果てまでたったひとり...。さぞかし不安でしょうが、あなたの祖国はまだ滅びていません」

既に祖国を滅ぼされてしまったソーニャにとって、ナンナンの境遇は、まだ挽回のしようがあるともいえる。

「大神官殿には気をつけて、いいわね...」
そういって立ち去るソーニャに、ナンナンの「なんなん?」という叫びが木霊する...。

***

ブラスの街へ帰ってきた俺たちは、クレアは教授に報告、サンディたちは買い出し...と手分けして出発の準備をすることにした。

俺は、ロープの替えを取りに、いくつかある隠れ家のひとつに向かおうと歩いていると、一番聞きたくない声に呼び止められた。

クルーンだった...。

「よぉ~、これはこれは...。有名貴族の御曹司どのじゃねぇか...なんだ、まだブラスの街にいるのかよ。あんな悪評を持つ両親の子だとわかって、よく恥ずかしくもなくこの街を歩けたもんだ...」

クルーンがまた俺の出自について何やら言ってきているのはわかった。
しかし、以前とは違って右から左へと聞き流せている俺がいた。

(そんなに卑しい顔つきしなくてもいいだろうよ...)

これまでの俺だったら、こんな男を力でねじ伏せるのもわけはないし、むしろ、そんなことを考える前にぶちのめしていただろう...。

だが今は、この場にクレアやサンディ、ルーファスがいないことに、素直に感謝している俺がいて、それが、何やらとても嬉しかった...。

雇い主に急かされて、クルーンがまた嫌味を言って去っていった。
クルーンは、ニーザの街まで荷運びの旅に出るらしい。

(さーて、替えのロープ、替えのロープっと...)
俺は、足早に隠れ家へと向かった...。