BRAVELY DEFAULT BRILLIANT LIGHTS

REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第5章] 5-18

家宰の手記

担当:ルーファス

テロール将軍は、ブラスに入城し、残敵掃討の指揮を執っていた。

「...俺を探しているんだって?」
将軍は、振り返ると、部下が示した書面に手早くサインをして追い払う。

「かつて、我がテロール家に仕えていた家宰の話は聞いておろう」
「ああ。そこにいるマイヨからな...」
将軍の横でほほ笑んでいるマイヨ兵士長の顔を見て、スティールが目を背ける。

「うむ...。マイヨが訪ねた元家宰は死病にとりつかれ余命いくばくもない身体であったそうだ」
マイヨ兵士長が事情を話すと、震える手である手記を手渡してくれたのだという。
当時のことについて、家宰はとても詳細に記していたそうだ。

「少し長くなるが...、我慢せよ」
そう言って、将軍は手記を開いて読み上げる。

***

幼王ブルース救出の部隊30騎は、東進の途中、ランケード夫人が遣わした急使に遭遇し密書を受け取った。

そこに書かれていたのは、幼王を救出するには東に直進するのではなく、北辺を迂回するように...キドケイユという村で幼王を保護してほしいというものであった。

「俺たちが知っている情報と相違ない」
そううなずくスティールであったけど、どこか寂しそうだった。
真相が明らかになっても、何も変わらないということか...。

将軍は、そんなスティールの消沈など意に介さず先を続けた。

当時、将校に過ぎなかった将軍は、ただちに馬首を北に向け、5日かかってキドケイユの村に到着した。
幼王は、ランケード家の馬車に隠れていたが、ケガひとつなく保護することができたのだという。

幼いとはいえ、王が臣下の馬車に乗っておられた...。
夫人が王家の財を奪ったという噂は...しかも馬車まで...。
強欲な夫人が、王家の馬車をも奪った...クランブルスでは誰もが聞いたことがある話である。

「だが、真相は違った...」
スティールの視線がわずかに上がる...。
サンディが、ランケード夫人は、幼王の囮となったのでは? と予想する。
将軍は、力強くうなずいてみせる。

「ちょっと待てよ...。それじゃ、マイヨの親父さんはどうして...」
サンディの予想がもし当たっているとしたら、これまで国中で思われていたランケード夫人の噂は間違いということになる。
しかし、そうするとマイヨ兵士長の父上は犬死にしたことにもなってしまう。
「...それも、家宰の手記に詳しく記されていた」
将軍が北へ馬首を向け出発した頃、夫人の急使は、マイヨ兵士長の父上に第二密書を手渡したという。

第二の密書...。
急使は、夫人からこう言い含められていたそうだ。

「救援の部隊の中で、一番年上の者にこう問いなさい。
 『貴公は、王家と四家、どちらに忠なるものか?』...と」

隊の中で一番年長だったマイヨ兵士長の父上は、「我は、生涯王家に忠なるものなり」と即答し、第二の密書を受け取った。

密書には、こう書かれていたという...。

「北辺を迂回した隊がたとえ幼王を保護できてもザレルの追撃に遭えばひとたまりもありません」
「王家に忠なる者であれば、隊を二分しそのまま東進し、私とともに死んでください」
...と。

スティールの視線の先のマイヨ兵士長が静かにうなずき、家宰から聞いた当時の話を語ってくれた。

王家の馬車と財宝を奪ったランケード夫人は、幼王には「北の寒村にでも向かうがいい!」と言い捨て、幼王を乗せた馬車が北へ向かうと、夫人は王家の馬車に乗って西へと出発したらしい。

夫人が乗る王家の馬車は、莫大な財宝を積んでいて遅々として進まない。
ついにはザレル軍に追いつかれ、夫人は我が子と一緒に命を落とした...それが、スティールたちが子どもの頃から聞かされた夫人像だった。

しかし、真相は違っていた...。
ランケード夫人は、幼い我が子とともに王家の馬車に乗り、幼王ブルースを北へ落ち延びさせるための囮となったというのだ。

幼い我が子を幼王の身代わりに...。
夫人が王家から奪ったという財宝は、野にばらまかれ、ザレル軍の追撃を大いに鈍らせた。
身代わりとなった我が子を本物の幼王ブルースに見せるため救援の部隊を、第二の密書にて二手に割かせ、共に討ち死にすることでそれ以上の幼王捜索の芽を摘んだのだという...。

「壮絶な...、まるで武人のようなお人だったんだねぇ」
みんなのランケード夫人像が、一転した。

「スティール...」
マイヨ兵士長の手が、スティールの肩を叩く...。

「ランケード夫人...君の母上は、巷に流布するような欲にまみれた人なんかじゃなかったんだよ!」
「ああ...。そうだ、な...」

「そして、俺の父親も...」
マイヨ兵士長の頬には、涙がつたっていた...。

「幼王を救出したテロール将軍に逆らって無駄死にした頑迷な騎士...俺は、そんな親父への嘲笑を聞かされて育ってきたんだ」

「でも、今回の旅でようやくわかったんだ。俺の親父は、幼王を救うため敢えて死地に飛び込んだ、王家に忠なる者であったとね!」
将軍が、大きくうなずく。
マイヨ兵士長は、涙を拭うこともなくスティールの肩をバンバン叩いている。
「ランケード夫人が、幼王の囮となっただって...!」
もう一人、別な悲鳴を上げる男がいた。
共和国軍に送ってもらってようやくブラスに到着したクルーンである...。

「なんてことだ...!! 俺は、俺は...」
その場にうなだれるクルーンを横目で見た将軍は、「...場所を変えるぞ。ここから先は、余人に聞かせたくないのでな」と小声でつぶやいた。

「では、大講堂の方へ」
クレアが将軍を案内するために先を歩いた...。