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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第6章] 6-14

港町サンヴァシィ

担当:サンドラ・カサンドラ

港町サンヴァシィ――。

『内海フロウ・ラクリー』唯一の、ナダラケス北岸にある港町。

対岸フロウエルの建築様式が色濃く残るのは、かつてこのナダラケスの北岸がフロウエルの前身となる大国フロウに100年ほど占領されていた経緯があるからである。

内海フロウ・ラクリーの沿岸は、どこも急峻な断崖になっていて船舶が接舷できるところはなかったのだが、ナダラケス王朝時代に数万にものぼる民を動員して断崖を掘削。港が造られ、以降、北ナダラケスの海の玄関口として栄え、戦時にはいち早く押さえられる≒狙われる要衝の地となった。

岸からすぐに水深が深くなっていることから大型船が接舷することができる良港で、近年では、エタルニア公国の飛空艇の水上試験場にもなっていた。

エタルニア公国は、ラクリーカで建造された飛空艇の機体に、公国から運搬された『飛行石』を搭載し、飛行試験をしているというのだ。

かの有名な、後に風の巫女一党の愛機となる『エシャロット号』もこの地で飛行実験が行われたはずだが、闇の大穴が発生しているとなるとすでにエシャロット号は運用されていることになる。

さっきからメモをとるスティールの鼻息が荒い。
クレアもルーファスもそれを見てニヤニヤしている。

***

汽笛をあげて商船が入港してくる。
どうやらカルディスラ行きの商船らしい。

商船の入港に合わせて、港では数々の出店が立ち並ぶ。
クレアがその中に、あの伸びるアイス屋があるのを目ざとく発見した。

アニエス様の一瞬浮かんだ喜色は、すぐに消えた。
「みなさんにご馳走したいのは山々なのですが...、着の身着のままで神殿を逃げ出してきたもので...カルディスラへ向かわねばならないのに、乗船券をあがなうお金も持ち合わせていません」

クレアが、「さるお方から預かったものです」と添えて乗船券入りの封筒をアニエス様に差し出す。

スティールが、pq硬貨がぎっしりと入った金貨袋を餞別に差し出した。
商会兵や魔物が落としたものだから気にするな...スティールがどんなに言ってもアニエス様は受け取ろうとしない。
アニエス様の高潔な気持ちは尊敬に値するが、これから先、金で解決できる難事は、金で解決しておくべきなのだ...。

あたしは、半ば押しつけるようにpq袋をアニエス様に持たせ、出店から買ってきた例の伸びるアイスをみんなに振舞った。

みんなでアイスを堪能している間に、ルーファスは他の出店を回って、旅行用の丸いバッグと、洗顔セットなどを買ってきてアニエス様に差し出す。

「こんなものしか思いつかなくてごめんね」
ルーファスは気まずそうにしていたが、その気遣いをできることに素直に感心した。

「アニエス様、先ほどの乗船券を預けた方は、あたしたちにあなたの護衛を依頼した方でもあります」
王や王に取り入る者は、アニエス様や民の窮地を見て見ぬふりをした。
しかし、アニエス様の窮状を見逃さず、でき得る限りの協力を惜しまぬ者もいるのだ...。

「どうか、ご自分がひとりぼっちなどと思わないでください」
あたしの思いが、どれだけ通じたのかはわからないけど、アニエス様は、しっかりとうなずいてみせた。

***

数刻後、アニエス様を乗せてカルディスラ行きの客船がサンヴァシィを出港していった。
「無事、出港できたみたいだね」
感慨深げに漏らしたルーファスの言葉に、「ここまで、まったく無事じゃなかったぞ?」とばかりにスティールが突っ込みをいれる。

しかし、アニエス様が無事ではないのは、これからの方だった...。

あたしが耳にした冒険者界隈に広まっていた風の巫女一党の冒険譚によれば、あの船は数日後にカルディスラの港を前にして沈みかける。
それ以降のアニエス様もまた激動の時代に抗い続け、決して無事で無難な時をお過ごしになることはなかった...。
その艱難辛苦があってこそ、闇の大穴は滅せられたのではあるが、それ以降も...。

あたしは、闇の大穴を滅した風の巫女アニエス様がクリスタル正教入りして、空位となっていた法王の座に就くことになったことまでしか知らない。
しかし、あの正教に入ったアニエス様がのびのびと過ごすことなどできるだろうか...?

「さあ、宰相に報告しに行こうぜ」
アニエス様の護衛を無事果たせたことを報告し、風のクリスタルへの参詣を許可してもらう...。

あたしたちは、出発に向けて水と食料を調達しにかかった。

***

「ふっ、宰相の私が街の外に呼び出されるとは...」
そう呆れるナダラケス宰相であったが、商会の目が光る街中よりははるかに都合がよく、なにより、私たちが街の衛兵に言伝を頼んだだけですぐに宰相自らが単身で出てきたところをみると、こうなることは織り込み済みだったようにも思える。

あたしたちは、アニエス様を無事カルディスラ行きの商船に乗せたことを報告すると、宰相はすでにその情報は知っていたようだった。
宰相の手の者から入ってくる情報に加え、商会兵の敗報として王宮に寄せられた情報などもあったようだ。

スティールが、なんの遠慮もなく報酬を要求する。
風のクリスタルへの参詣...闇に覆われ、魔物が溢れる風の神殿に向かうという怪しげなことに許可を求めてくるあたしらをあらためて見回す宰相...。

クレアが、少し長い話になると言い置いて、風のクリスタルの参詣を求める理由を説明し始めた...。

***

風のクリスタルに参詣して『風の息吹』を手に入れる...。
あたしたちの願いを一通り聞いた宰相は、小さく唸った...。

信じられないのも無理はない。しかし...。

商会の私兵の追撃、魔物たちの襲撃、突然現れた異形の兵たちとの戦い...宰相の手の者は、あたしたちの戦いの一部始終を報告していた。

体中を埃まみれにして、誰もが少なからず浅手を負っている姿を目の当たりにした宰相は、あたしたちを信じると仰ってくれた。

「風の神殿までの案内を手配しましょう。しばしお待ちください」
そう言って、宰相はラクリーカの街へと帰っていった。