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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第6章] 6-9

ラクリーカの街

担当:クレア

「な、なんだあれは...!!」
前方に目を凝らしてみると、蜃気楼の向こうに見えたのは、まるで巨大な機械仕掛けの街だった...。

「あれが、砂と大時計の国ラクリーカの首都さ」
サンディのつぶやきに、アニエスさんも一度はうなずくも、すぐに首をかしげる。

「風が止んだせいでしょうか。大風車群が止まってしまっています」
アニエスさんの言葉通り、街の高所に設置されている大小の風車はまったく動いていない。
説明を求めるスティールたちに応えるようにサンディが説明をする。

あの大風車群が、風の神殿から吹きつける豊かな風を受けて地下水を汲み上げ、街中の動力になっているのだそうだ。

国土の大半を砂漠が占めるラクリーカの主な産業は、南にある風の神殿から絶えず吹き付ける風力を利用した重工業...。

ラクリーカの国王、マルメ・コンダ・マヌマット8世は、若い頃にエタルニアへ留学したことがあり、当時は異端であった思想『アンチ・クリスタリズム』と出会い傾倒した。
古くは風のクリスタルを奉戴する風の神殿を中心にした親・正教国であったラクリーカも、マヌマットが帰国した後、国王となると、クリスタル正教は政治から遠ざけられ、歪なほどに急激な重工業化政策が採られ、現在は、エタルニア公国に飛空艇の機体を納入するほどにまで発展した。

その機械仕掛けの街ラクリーカの風車群が止まっている...。
風のクリスタルの罹災は、この国にとっても痛手のはず...アニエスさんに促されるようにして、私たちは先を急いだ。

***

ラクリーカの街は、ナダラケス砂漠に立つ巨大な2つの孤立丘の間に、まるで東西に巨大な橋を架けたかのように作られているのがわかった。
南側から遠望した時の巨大さのわりに、街の2つある入口の西側から見てみると妙に薄く感じ、頼りなくも思えた(それでも街の南北はブラスの街よりも広いのだけれど...)。

「あんなに賑やかだった街が、こんなに閑散として...」
アニエスさんは、日中だというのに民の姿が見えないことを心配しているようだった。

見れば、街のいたるところに設置されている大きな歯車の一部だけが、大きな音を立てて回っている。

(全部の歯車が回ったりしたら...どれだけの騒音なのだろう...)
私の想いと同じだったのか、ルーファスが何度もうなずいている。

「今はまだマシな方です。やがてこの街も、民の怨嗟の声で溢れかえります」サンディの言葉の意味をアニエスさんがはかりあぐねていると、街中の方からよく通る声が響き渡る...。

***

「これはこれは、風の巫女様ではありませんか!」
見れば、ターバン姿の男性が街の入り口に立っていて、その背後には、以前砂漠でアニエスさんを襲った男と同じ、風体と姿勢が悪いターバン男たちが並んでいる...。

サンディとスティールが無言でアニエスさんの前に立つ...。
それを見た中央の男性が、少し声色を和らげる。

「私、この国の宰相オサマール・ナダラケスです」

スティールがアニエスさんの顔を伺うと、少し困ったような表情を見せたが、サンディは、このナダラケスという宰相を知っているようだった。

サンディに促されてアニエスさんも名乗る。
「風の巫女、アニエス・オブリージュです。風のクリスタルが闇に覆われてしまったことを、マヌマット8世王に報せに参りました」

アニエスさんの言葉からも、かつてはクリスタルの巫女が国王にも比肩する立場にあったことが伺えるも、同時に、現在はそうではないこと...アニエスさんが世事にあまり明るくないことが見てとれた。

「王は、王宮でお待ちです」
ナダラケス宰相は、敢えて恭しさを滲ませてアニエスさんを手招く。

歩を進めたアニエスさんに続こうとした私たちを遮った宰相は、
「王は、巫女様おひとりをお呼びです」
そう微笑んで見せた宰相は、「お連れしろ」とターバン男たちに命じる。

「巫女様と俺たちを引き離して、どうするつもりだ?」
凄んで見せるスティールをサンディが制する中、アニエスさんは歯車だらけの街に消えてゆく。

ひとりその場に残ったナダラケス宰相は、
「少し聞きたいことがあります。私についてきていただきましょうか...」
そういうと、私たちが今来たばかりの街の西側から街を出てしまった...。

サンディがうなずくのを確かめた私たちは、宰相の後を追った。

***

「おいおい、街からずいぶん離れちまったぞ~」
スティールが、すぐそばにいる私たちに向けるにしては大きな声をあげる。
いつものアレか、とばかりにルーファスがそれに続く。

「人知れず僕たちを抹殺するには、うってつけの場所かもね」

前を進む宰相も、自分がスティールたちに煽られていることをわかりつつ街から遠ざかっているようだ。

「一国の宰相がたったひとりでいる時点で、何かおかしいよな~」
「そうそう。おかしいし、怪しい」

大き目の砂丘をひとつ越えたあたりで宰相は足を止め、ふり向く。
「...ふっふっふ、やはりそう思われますか」

咄嗟に身構えるスティールとルーファス...!!
そこに落ち着いたサンディの声が響き渡る。

「スティール、ルーファス、殺気を解きな。この人は、味方だよ」

振り返るスティールとルーファスを尻目に、サンディが折り目正しく続ける。
「何か、私たちに内密な話があると思われますが...」
スティールとルーファスは、サンディが、"私たち"などと言っていることに驚いているようだった。

「こう話がうまく進むと、私の方が罠にはめたれたような気になりますな」
少し驚きを見せていた宰相であったが、腹の中はどうなんだろう...?

「私は、元正教騎士団サンドラ・カサンドラと申します」
「風の巫女様をお守りしたいと思っています。ナダラケス宰相、あなたと同様に」

ナダラケス宰相が、少しほほ笑んだような気がした。