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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第6章] 6-10

宰相の依頼

担当:サンドラ・カサンドラ

「...人目は少なくてよいのですが...」
そう言ってナダラケス宰相は周囲を伺う。
当然、あたしら以外は誰もいない

「時間がありません。単刀直入に言います。風の巫女様が国外にお逃げいただくのを手伝っていただきたいのです」

せっかく護衛してきた風の巫女を国外へ...事情を知らないスティールやルーファスが、宰相が何を言っているのか理解できないのも無理はない。

「国王マルメ・コンダ・マヌマット8世王は、クリスタル正教が嫌いなのです」
宰相の説明は、スティールたちをさらに混乱させた。

「嫌いなだけで...子どもじゃあるまいし」
スティールもルーファスも鼻で笑ったが、宰相は乾いたため息をひとつつくだけだった。

「ただの子どもだったら、どれほど平和だったことか...」
子どものような無邪気な感覚で国家という力を行使したがる厄介なお人です...宰相が説明したマヌマット王は、あたしが知るそれよりも、はるかに残念な王のようだった...。

***

エタルニアへの留学で、アンチ・クリスタリズムに傾倒したマヌマット王は、先進性、開明性のみを尊び、極端な重工化政策を推し進めた。

当然、古きよき風習や産業は疎んじられ、クリスタル正教などもその対象となる。

政府と正教の溝が広がるばかりの状況を憂いた先代の風の巫女が陳情に来た際にも、民の前で徹底的に論破してやろうと引見の場を街の大時計の前にしたにもかかわらず、逆にコテンパンに言い負かされるという醜態をさらしている。

「王は、闇の大穴の調査に向かわせる名目で、アニエス様を国外へ追放しようとしておいでなのですね?」
なぜこの旅の者は闇の大穴について知っているのか...そんな疑問は脇に置いて、宰相はしっかりとうなずいた。

スティールとルーファスは、宰相の依頼と王の目論見が大差ないと不満げであったがそうではなかった...。

マヌマット王は、近頃ラクリーカに多大な投資をしてくれた商人ニコソギー・ボリトリィを大のお気に入りにしている。

そしてその商人が、エタルニア公国の手の者であることを宰相は看破していた...。

クリスタル正教を嫌うマヌマット王は、アニエス様を国外に追放すればよいと思っているが、ラクリーカに経済侵攻を企てている公国の者にしてみれば...大穴の調査に向かう風の巫女を、旅の途中で亡き者にしてしまう方が都合がよいのだ。

宰相は、マヌマット王の意向に沿う形で、実はアニエス様の命を守ろうとしている...。

あたしたちの役目は、風の巫女アニエス様を護衛しつつ、ここから北にある港町サンヴァシィに向かい、そこで宰相から預かった乗船券を渡すこと。
そこからカルディスラ行きの商船、あるいはフロウエル行きの客船に乗ってさえもらえれば、少なくともボリトリィの手の者の魔の手からは脱することになる。

***

クレアが乗船券を預かると、宰相は元来た道を戻っていった。

クレアは、前の王を凡庸と語ることや、今の王に対してもどこか辛辣な物言いをする者が、宰相という地位にいることに首をかしげていたが、それには事情がある。

現在この『砂と大時計の国ラクリーカ』を治めているのはマヌマット王朝になるが、その前の王朝は、ナダラケス王朝という。

つまり、宰相オサマール・ナダラケスは、前王朝の子孫になり、本来ならばマヌマットに臣従する立場にはないことになる。

王の座を奪ったマヌマット氏を持つ者によい感情を抱いていないのも当然ということか...スティールはそんな風に評したが、果たしてどうであったのだろうか...。

後に、マヌマット8世王が謎の失踪を遂げた後の、宰相の私心なき行政を考えると、先祖の恨みとかそんなもののために動いているお人ではないように思えてならなかった。