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REPORT錬⾦ゼミ活動レポート

[第6章] 6-12

熱砂の北上

担当:クレア

大剣を構えながら砂丘を駆け下りていったサンディは、まるで砂漠に吹き荒れる暴風そのものだった。

サンディが『商会兵』と呼ぶターバンをした男たちが、次々と吹き飛ばされてゆく。

ある者は膝をつき、ある者は逃げ出し、狙いをアニエスさんに向けた者などはスティールの長剣やルーファスの雷撃によって行く手を阻まれた。

まずは右手に布陣していた一団が退きはじめ、呼応するように左の一団も退いていった。

サンディは、粘りのない弱兵だと彼らをけなし、スティールは、引き際としては見事だったと敵をほめていた。

これで済んだとは、この場にいる誰もが思っていない。

「...王は、そこまでしてクリスタル正教を...」
商会兵が砂に打ち捨てていった武器を眺めたアニエスさんがつぶやくも、サンディはゆっくりとかぶりを振る...。

「マヌマット8世王は、正教を嫌っておりますが、エタルニア公国は、クリスタル正教を、そしてアニエス様を抹殺しようとしています」

思っていたものよりも厳しい現実に、絶句するアニエスさん。
スティールが慰めの言葉をかけた瞬間、後方に閃光がスパークする...!!

光の球だ...!!
中から現れたのは、サヴァロンで見かけた魔物だった。
不意を突かれた私たちは、崩された体勢を何とか持ち直して魔物に立ち向かった。

***

砂漠は、暮れ始めると一気に夜になる...。
熾した火で、ルーファスと手分けして今夜の食事を用意していると、スティールとサンディが哨戒から戻ってくる。

アニエスさんは、さっきから焚火にくべた小枝をいじっている。
とりあえず何かをしなきゃ...と、することを探しているようだが、見つからないようだった。

肉が苦手なアニエスさんのために作った根菜とハーブのクリームスープに、ブラスから持参したパンを浸して食べる...。

「このパンも、来訪者ってことか...」
スティールが、ちぎったパンの欠片で金属製の皿を拭くようにしてから口に放り込む。

それを見ていたアニエスさんが、真似をするかどうか躊躇していると、「皿を洗う手間が省けて都合がよいのです」と、サンディがうなずいてみせると、横ではルーファスも、浸したパンを美味しそうに口に入れている。
(最初の頃は「なんて行儀が悪い!」...と小言ばかりだったくせに...)

「まあ、美味しい!」
目を丸めているアニエスさんに、元々そうやって食うために濃いめの味つけにしてんのさ...と照れ臭そうに微笑むスティール。

サンディがアニエスさんの隣に座り、クリスタル正教とアニエスさんが置かれた立場を説明し始めた。

***

「そうですか、神殿の外の世界は、そんな状況だったのですか。私、何も知りませんでした、何も...」
アニエスさんの瞳に映る焚火が、さらに大きく揺れ、両手で覆われた。

「ここラクリーカから北西、フロウエルの西にある小さな大陸カルディスラ...」
サンディが、砂に簡単な地図を描いて説明し、アニエスさんは、これから向かう港町から商船に乗ることを告げる。

「...ですがそれでは、私がこの国の民を捨てたことになります...」
アニエスさんが、民を捨てたという不名誉に対して抗っているようには見えなかった。
本気でラクリーカの民のことを心配している...それがわかっているだけにサンディの言葉には熱がこもる。

「いいえ。アニエス様は闇の大穴の調査に向かい、かの地でかけがえのない仲間に出会うのです」

「闇の大穴を、そして公国の目論見を知り、仲間たちとともにこの地へと戻るのです。民を、そして国を救いだすために...!」

仲間たち...その言葉の意味を、アニエスさんは理解できていただろうか...?
突然、ルミナがアニエスさんに語りかける。

「風のクリスタルは、今どうなっているの?」
アニエスさんによれば、風のクリスタルは闇に覆われて光を失ってしまったのだという。
神殿内には魔物が溢れ、多くの修道女たちがアニエスさんを守って命を落としたらしい。

「幼いころから私とともに祈りを捧げ、ともに学び、過ごした仲間が、一人残らず...」
アニエスさんは、ここで初めて仲間という言葉を意識したのだろうか...。
「私の...故郷に等しい場所が、一瞬で滅んでしまったのです」
ぽろぽろと大粒の涙を落としながら嗚咽し始めるアニエスさんに、私たちはただ一緒にいてやることしかできなかった。

***

私たちの野営している場所から砂丘をひとつ挟んだ位置に、風の将ナンナンと副将サガンの姿があった。
「...故郷が、滅ぶ、滅ぶ...滅んでしまう...」
「なんなん、この気持ち...! なんなん! サガン! ねぇ、教えてぇな!!」
アニエスさんの言葉を聞いたのか、同じく故郷の存亡に直面しているナンナンは、大きく動揺している。

そんなナンナンの声は、修理によって感情というものが欠落したサガンには届かない。ナンナンを置いて、サガンは闇の中へ消えていってしまうのであった。

***

夜明けと同時に、商会兵の襲撃が始まった。
次から次へと押し寄せるターバン男たちをさばきながら、スティールの言葉もついつい荒くなる。

何波めかの襲撃が止み、アニエスさんが一息つこうとした時、周囲の砂が盛り上がり、もはや見慣れたエクシラント産の巨体が雄たけびをあげる。

「まーた外来種...! 在来のやつらもいるみたいだ」
サンディの大剣がうなりをあげる...!!

***

商会兵、魔物、ザレル兵...。
いったいどのくらいの敵を撃退したのだろう...。

アニエスさんが、また謝ろうとする。
スティールの声が荒くなり、空気が重くなる。
みんな、ヘトヘトでアニエスさんを思いやれる余裕などなかった...。

「アニエスさんは、どんな食べ物がお好きなんですか?」
このナダラケスの名物にとても興味があるんです。何か、美味しい美味しい土産話になるようなものありませんか?
私は、あけすけなのは承知の上で、それでも少し早口でアニエスさんに聞いてみた...。

私の質問に、しばし思案していたアニエスさんは、『伸びるアイス』なるものを教えてくれた。

何かの植物を擦ったものを混ぜたアイスで、びっくりするぐらいに伸びるらしい。
港町サンヴァシィにも売っているらしく、私たちは、みんなでそれを食べることを目指して、再び歩きはじめた。